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74話 スパイスは旨味も幸せも引き立たせるものだよね

 日差しは春らしく柔らかで。

 風もないから動かずにいれば、ぽかぽかと身体が温まってくる。

 石畳とレンガでモザイク模様を織りなす車道を馬車がゆっくりと踏みしめていく。


 歩道は王都住民でひしめき合って、車道との間には第三騎士団を中心に人壁が出来上がっている。

 王城から王都中心の広場まで真っすぐ続く大通りは、貴族居住地区、商業地区、平民居住地区を区切る城壁に普段区切られているけれど、今日は城壁の大門は解放されている。


 幸宏さんはロイヤルブルー、翔太君はエメラルドグリーンのマントでそれぞれ同系色の騎士団礼服、あやめさんは濃い目の桃色で女性用騎士団礼服。上着は男性のものよりタイトで、マントとともに丈が短め、くるぶし丈のロングスカートがスタイルの良さを際立たせている。


 全員一致でまだ顔出しはしたくないということで、顔の上半分を仮面で覆っていた。

 だよねー遊びにくくなるもんねー。


 春の花どんだけかき集めたのってくらいに飾り立てられた荷車(荷車言うなって言われたけど荷車だし)に乗り込んで、歓声をあげる人々へそれぞれ愛想をまいている。

 翔太君とあやめさんは腰かけたまま控えめに手を振っていて、幸宏さんは観客のノリに合わせて拳突きあげてみたり大手を振ってみたり。


「……あんたたち疲れないの」

「これがかっこいいから! ね! 和葉ちゃん!」

「だね!」


 私と礼くんは、先頭の左右に陣取り、片脚を縁に乗せて腕組みして前方を睥睨する海賊王ポーズをとり続けている。時々偉そうに片手あげてみたり。


 礼くんは幸宏さんたちと同じく赤の色調で騎士団礼服、私は黄色だけど女性用騎士団礼服の上着にひざ丈のハーフパンツだ。

 そしてマントはほかの三人とは違い、それぞれ赤と黄にカラーリングした羽根をみっちりはためかせている。

 仮面はスパルナの顔を模したハーフマスク、後頭部まですっぽり覆っている。もちろんそれぞれ赤と黄色。とさかのように尾羽がきらきらとたなびく。

 戦隊モノにイメージカラーは外せない。幸宏さんには、もうなんかそれ戦隊モノからも遠ざかってないかって言われたけど気にしない。

 エルモとビッグバードじゃんセサミじゃんもうって言われたけど聞こえない!


 マンティコアの着ぐるみは却下されて妥協してスパルナ衣装なのに、幸宏さんたちには拒否された。

 私の理解者は礼くんだけ……っ!



 午後も遅い時間からゆっくりと王都を練り歩き、最終地点の広場に到着したときには夕暮れも深まりつつあった。


 設置された特設舞台を王城楽団が取り囲み、カザルナ王国勇者のマーチを奏でる。壇上には真っ白なピアノを演奏する翔太君。音魔法で王都全域に旋律を降り注いでいる。それは前に聞かせてもらった時よりも、より複雑に豊かに伸びやかに磨かれている。


 陽も沈んで今回のために増設した街灯に照らされた観衆の顔が余韻に痺れているのを、満足げに眺めた翔太君がとる騎士の礼を合図に、あやめさんと幸宏さんが花火を打ち上げる。


 この世界に持ちこまれていない火薬を使ったわけではもちろんない。

 普通に火魔法で金属燃やせばいいんじゃない? ってことで、研究所に協力してもらって仕上げた。


 騎士たちがスリングショットで高く打ち上げた花火球を幸宏さんが矢で破壊し、散った金属粉をあやめさんが火魔法で燃やす。繊細な操作が可能な二人にとっては、楽勝のお仕事だ。


 あんまり時間なかったから色味も少ないし複雑な花にはならないけれど、夜空に咲き乱れた光は、祭りに沸く人々をさらに煽り立たせる。


 ちなみにテストのときに私がやろうとしたら、花になる前に燃え尽きた。



 そしてトリは私と礼くん。スパルナだけに!


 手を繋いで重力魔法で広場上空を旋回し、慄くような声をあげる観客の視線を釘付けにしている間に、荷車にまた乗り込む勇者陣。ザザさんとザギルもサンタ気取りの大袋を持ってさりげなく同乗している。

 荷車ごと上空に持ち上げれば、勇者陣が大袋からいくつもの小袋を取り出して次から次へと放り投げていく。

 その小さな袋を、浮かせ漂わせゆっくりと観衆の手元に満遍なく降りていくようコントロール。

 袋の中身はチョコやキャンディ、大福などなどのお菓子だ。


 菓子を全て撒き終えれば全員で手を振りながら、そのまま王城へと荷車を空を走らせる。


 最後の挨拶は一番年長の私が頂いた。

 音魔法で拡声してもらっての一言。


『よいこのみんなー! また―――そのうちねー!』





「そのうちねーはないよな」

「また来週!って言いかけて、いや、来週はないだろって寸前で我に返りました」

「……やっぱりどうも僕の中で想像していた勇者パレードと違う気がしてならないんですよね」

「「「わかる」」」

「楽しかったー!」

「ねー! お祝いにはやっぱり餅まきだよね!」

「ぼく餅まき初めてだったー」

「私も」

「僕も」

「―――失われる伝統……っ」

「……失われてたんですか? あちらでは譲れない様式だってそう言ってませんでしたかカズハさん」

「私もやってみたかったんです」

「でたよ和葉ちゃんのやったもん勝ち……」

「拾うのは子どもの頃に一度だけしたことありますよ。撒くほうですよやってみたかったの。気分よさそうじゃないですか」

「よかったですか」

「とても。まるで人々が池の鯉のようでした。ひれ伏せ愚民どもって感じでしょうか」

「お前普段、他人見下ろすことねぇからなぁ」

「ほんとザギルうっさいね!?」


 城に戻った後は着替えて食堂で遅めの夕食。

 本当は祭りの人込みに紛れてこっそり遊ぶって話もあったけど、カザルナ王並びに側近たちにお願いだからやめてと言われて諦めた。いくら顔を隠してても散々注目された後に同じ体格の五人連れじゃね。


 今日の食堂メニューはやきそば、お好み焼き、おでん、串焼きといったお祭りラインナップ。

 デザートはチョコバナナやイチゴ飴をご用意いたしました。

 もちろん礼くんはすべて網羅して皿にのせている。


「まあでも、確かに楽しかった。喜ばれてたしね」

「ユキヒロはともかく、みなさんどちらかといえば控えめなのにサービス精神がひどく旺盛ですよね……」

「俺はともかくってなにそれ納得いかない! そりゃ喜ばれるのは単純にうれしいけどさ!」

「勇者パワーを実感し安心していただくだけでなく楽しんでもらえるとか一石二鳥でしたでしょ? 鳥だけに」

「和葉ちゃんて、ほんとどうしてそんなにスパルナ愛してるの……」

「自分でもなぜなんだか……きっと私にしか狩れないってのがそそるんだと思います」

「ねえねえザザさん」


 お茶も飲みなさいとザザさんに注いでもらった礼くんが、デザートにとりかかりつつ笑顔をむけている。


「なんですかレイ」

「屋台でね、んっと、黄色くてぽこぽこしてて丸くておっきいのみんな食べてたの。アレなあに」

「……うーん? カリッツァですかね。このくらいで温かそうだったでしょう?」

「うんうん」

「じゃあ、カリッツァだな。果物だ」


 大きさを手で示すザザさんに次いでザギルが答える。ああ、それ私もみてた。……表面が食べ終わったトウモロコシみたいなやつだ。見た目だけでいえばけして美味しそうには見えないんだけど、屋台マジックだろうか。祭りだと三割増しくらいで美味しそうに見えるアレだと思う。


「果物! おいしい?」

「えーとですね……レイには美味しくないと思いますよ」

「なんで!」

「ガキには無理だろ。辛ぇし」

「ぼく辛いの平気だもん」

「カレーで汗だくになってる奴が言ってもなぁ」

「汗かくだけだもん! 和葉ちゃんのカレーは美味しいし!」


 バターチキンカレーだし辛さは控えめにしてるんだけど、見ててつい笑っちゃうくらい汗かくんだよね。礼くん……。

 汗だくではふはふ言いながらおかわりしてる礼くんは、抱きしめたくなる可愛さだ。

 多分ザギルも内心そう思ってる。


「というか、カリッツァは焼いて食べる果物ではあるんですけど、屋台ででてるものはヒト族には合わないスパイスがかかってるんで、ああいうとこでは食べさせてあげられないですね」

「えー、みんな美味しそうに食べてたのに」

「獣人ばっかりだったろ。食ってたの。そのスパイスかかってねぇと美味くねぇんだあれ」

「ザギルずるい」

「なんで俺のせいになんだよ。まあ美味いっつったって所詮屋台の食いもんだしな。お前らの舌には合わねぇって」

「……そう聞くと食べてみたくなるな」

「「「わかる」」」

「……お前ら普段から美味いものばっかり食ってんのに、妙に悪食だよな」


 興味を突然みせた幸宏さんに追随する私たちに呆れ顔のザギル。はらぺこザギルに言われたくないし、絶対納豆のこといってる。根に持ってる。でも食に対して好奇心旺盛なのは国民性と言えるから仕方ないよね。


「でもザギルには美味しいんでしょ? 食べてみたいな。あんた私らと味の好みは似てるみたいだし。納豆以外は……」

「あー、昔はな。今食っても美味いと思わねぇだろうなぁ。舌が肥えちまっていけねぇ」

「へえ? ああ、南方よりこっちのほうが豊かだって言ってたもんねぇ」


 食糧事情が良くないところで育ったザギルだから、城に着たばかりのころは何を食べても美味しくて衝撃だったらしいし。


「―――そればっかりじゃねぇけどよ。って、なあおい、その瓶のそれいつ呑ませてくれんだ?」

「あ、忘れてた」


 蒸留酒に野イチゴを漬け込んだフルーツブランデー。三か月ほど寝かせていたその広口瓶を隣の椅子に置きっぱなしにしてたままだった。そろそろ飲み頃のはずなんだよね。

 いそいそと突き出されたグラスに、金赤のねっとりとした輝きを持つお酒を小さなおたまで注いであげる。


「うまっ! うまっ!」


 幸宏さんとザザさんにも注いであげると、二人とも頬を緩めてた。あやめさんには少し薄めて炭酸を仕込んであげる。華やかな桜色のお酒はあやめさんによく似合う。イメージカラーですし。

 みんな気に入ってくれたようで何より。


「……いいな。僕も飲んでみよっかな」


 珍しく興味を示した翔太君にも、あやめさんのより薄くしてつくってあげる。翔太君はこっちではとっくに成人年齢だし誰も止めないんだけど、今まで呑みたいって言ったことなかったんだよね。苺の香りに惹かれたらしい。

 おぉ……と、目を丸くしてる。


「どうですか?」

「呑みやすいんだね。いい匂いだし美味しい」

「これいい酒つかってるよなぁ。翔太、呑みやすいけど結構キツイからな。ゆっくり呑めよ」


 幸宏さんが見てるから、呑みすぎるということもないだろう。

 礼くんもつられたのか翔太君のを一口舐めさせてもらってたけど、しかめっ面していた。大人の身体ではあるけど味覚はまだまだ子どものままだ。


「こっちは何故かこういうのは習慣にないみたいですね。お酒はあるし、普通に家庭でつくっててもよさそうなもんですけど」

「あちらではそれが普通なんですか?」

「一般的ってほどじゃないですけど、好きな人は普通につくりますよ」

「酒は買うもんだしなぁ。山ん中の集落とか孤立してるとこではつくってたりすっけど、そうそう美味いのはねぇな。酔えりゃいいくらいのもんだ」

「ああ、酒本体はそりゃ買ったほうが美味しいのはあっちでも同じだね。俺らがいた国じゃ免許ない人間が酒つくるの禁止されてるし」

「そうそう。美味しいお酒と美味しい果物はこっちにもちゃんとあるんだし、漬け込むだけなんだからやっててもおかしくないのにね」


 過去の勇者がもたらしたものにしろ、元々こちらにあったものにしろ、原型があるものをブラッシュアップしていってよりよいものにしていってるものはたくさんあるのに、何故かそれらを組み合わせてまた新たなものをつくりあげていくという傾向が、こちらにはあまりない。

 このフルーツブランデーにしてもそう。

 私には身近な料理方面でよく感じるけども、多分どの分野でもこの違和感はでてくるんじゃないかと思っている。

 けしてこちらの世界が固定観念に縛られがちだとかいうものではない。それどころか新しいものに対する好奇心や受け入れることへの抵抗のなさからもわかるように、むしろ柔軟といっていいくらいだ。だからこそ違和感がぬぐえないのだけど。

 昔エルネスが言っていた「物事のとらえ方や考え方が違う」部分に関わってくるのかもしれない。


「あちらの料理の再現はもう結構やったし、最近はこっちの料理も気になってるんですよねぇ。料理長に教えてもらえるんですけど、ああいう屋台とかに出てるようなものっていうか」

「ほお?」

「んー、私が今までつくったものって、いわばわたしたちにとっての故郷料理なわけですよ。ザザさんやザギルにとっての故郷料理というか馴染んだ味? そういうのも知りたいなぁって―――なんで二人とも変な顔すんの」

「―――別にぃ」

「あー、今度何かつくりますね」

「ほんと? やった」

「ザザさんごはんつくってくれるの!? ぼくも! ぼくもたべたい! ザザさんちぼくも行きたいし! 和葉ちゃんばっかりお泊りずるいもん!」


 いいですよなんてしれっとザザさんは微笑んでたけど、私の方はみんなの生温かい視線に晒されて不覚にも赤面しないではいられなかった。やめて! こっちみないで!





 悪夢はまだ時々やってくる。

 ヒカリゴケの薄闇に浮かぶヘスカのみすぼらしい体躯がじわじわとにじり寄ってくる。


 でももう怯えて動けなくなったりはしないし、夢の中の私はこれがただの夢だと知っている。

 だから毎回叩きのめして勝鬨をあげて目覚めるのだ。

 恐怖と勝利の余韻で鼓動は激しいけれど、水を一杯飲めば落ち着いて寝直すことができる。


 けれど今夜の夢はちょっと趣向が違っていた。


 ヘスカの顔はいつの間にか別の男の顔になっていて、なんか見たことあるな? なんて一瞬思ってから、ああ、夫の顔だと気がついた。


『家の中のことはきみの仕事だろう。風邪くらいで』


『同期のとこの嫁が文句言ってるなんて聞いたことないね。やりくりが下手なんじゃないの』


『床屋代なんてそんなにかかるもん? いい年なんだし贅沢だろ』


『たかがパートで』


 若い頃は反論してた気がするけど、心の中で思っていただけかもしれない。よく覚えていない。

 でも言われたことは残っているようで、私も結構執念深いななんて、築二十年の小さな台所や寝室を俯瞰しながら自嘲してしまう。


 過去の風景を固定カメラで見おろして、まだ少し若めの私と夫をぼんやりと眺めている私がいる。


『母さんが働きたいっていうんだから仕方ないだろう』

『母さんが駄目だっていうからなぁ』

『お前らはもう少し家庭を大事にしたほうがいいぞ』


 習い事を増やしたいとか欲しいものがあるとか他愛のない子どもたちの我儘を、したり顔でなだめる夫の顔が、醜い三日月に歪む。


 今ならあの顔叩きのめしてやるのになぁ。

 なんだって私はアレを野放しにしてたんだろうなと思うけど、いつだって諦めは胸のど真ん中に居座っていて、体中の水分を吸いつくし干からびさせていったから、多分それが原因な気がしないでもない。

 どろどろと渦巻いている何かを乾かして固めてしまえば痛くなくなることは、小さい頃から学んでいた経験則だった。



 まあ、済んだことなんだからもういい。

 今の私にはちゃんと帰る場所がある。あの居心地のいい幸せな世界。

 私の大好きな人たちが、私を愛してくれる、大切にしてくれる、私が大好きだと思う気持ちをしっかりと受け止めてくれる、やっと手に入れたあの世界。


 目覚めれば帰れる、帰ろう、過去のことにもう痛んだり傷ついたりするほど柔じゃないけど不快なことに変わりはない、だから帰ろうって―――そう思うのに風景が変わらない。


 いつしか俯瞰していたはずの風景の一部に自分が戻っている。


 手には生ごみの袋を持って、サンダルを足につっかけていて。

 玄関のドアノブが回らない。かちゃかちゃと鍵のつまみをどうひねっても開けられない。


 あれ? なんで? ゴミ収集車が来ちゃうのに。

 最近はもう暑い日が続いてるから生ごみはちゃんと出したいのに。

 慌てて庭へと続くベランダの窓にしがみついたけど、やっぱり開かない。

 なんで? 鍵、開いてる、のに。


 どうしよう、生ごみが腐っちゃう。


 窓ガラスを叩いても、コンクリートの壁みたいな手ごたえでびくともしない。なんで。


 ゴミ袋を放り投げて両手で叩いても割れない。どうして。


 足首にいやなむずがゆさが走って見下ろせば、袋から飛び出た生ごみからもぞもぞと湧いた蛆虫がつたっていた。え。蛆虫? でかくない? セミの幼虫くらいある。


 振り払おうとしても足が動かない。

 足首に纏わりついてるのは骨ばって薄汚れた指。

 目線をずらせば、そこには悍ましい三日月が私を見上げている。

 ヘスカにもみえるし、夫にもみえる。瞬きごとに変わる顔。





「―――さんっ、カズハ」


 ぱんっと目の前で手を打ち鳴らされたように、引き戻された意識に飛び込んできた金色の瞳。

 心臓の音がうるさい。


「……ザ、ザザさ」


 汗ばんで張り付いた前髪を、額から撫でてよけてくれるごつごつとした優しい指。


「ひどく魘されてた―――痛いところは?」

「ううん……だい、じょぶ」


 がらがらに掠れた声で答えると、枕元のサイドチェストにある水差しからコップに注いだ水を差しだしてくれた。からからに乾いて強張った喉にすうっと馴染んでいく水に、安堵のため息がでた。


 ゆうべは私の部屋に泊まってくれたんだった。

 前のお泊りデートから、時々こうして私の部屋に泊まってくれている。


「ただの、夢」


 気遣わし気な瞳はまだ金色のままだ。ただの夢ではなく呪いの名残なのではないかと疑っている。

 大丈夫。ただの夢。もう一度繰り返し告げてへらりと笑って見せたら、こめかみと額に口づけて頬ずりしながら頭を撫でてくれた。


 がっしりとした両腕とあの魔力で柔らかく包んでくれているまま。

 ゆっくりと髪を手櫛で梳られて、体中の筋肉も解きほぐされていくのがわかる。

 すり寄って厚い胸に鼻をこすりつければ、きゅうっと抱きしめてもらえて、夢の中では重苦しく塞がっていた胃のあたりがふかふかと温まっていく。



 ああ、なんて幸せなんだろう。

 これがあるなら悪夢なんてただのスパイスだ。

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