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7話 料理は火力が勝負の分け目です

 ゴーストとやらは別に座敷童のように幸運を運んでくれたりはしないらしい。ただいるだけだそうだ。祟るわけでもないとなれば、なぜお菓子やミルクをあげるのかと聞くと「……食べるから?」とザザさんに返された。私に聞かれても。


 疑問に思うことすらないほど自然なことなんだなぁ……。

 そうは言われても私たちにとっては「おばけ」とか「妖怪」のジャンルっぽいものにそうそう馴染めるわけでもなく。

 極々自然に、私は礼くんの部屋に寝泊まりする流れにもっていけた、と思う。あやめさんの誘いを断ったけども。


 もしかしてあやめさんも怖かったのかもしれないけど、

「こ、怖いわけないでしょ!」

 とテンプレかましてたので、怖くはないんでしょう。きっと。多分。


 はたからみたら私が礼くんの手を握りしめて離さないようにみえただろうが、礼くんががっちり握りしめてたのだ。そりゃあやめさんのほうに我慢してもらうしかない。





 初めて乗る馬車は意外と振動が激しくなかった。

 幸宏さんが「サス効いてる……」とつぶやいていた仕組みのせいなんだろう。意味は知らない。


 かぼちゃの馬車ほどファンシーではないけど曲線が優美な二頭立て馬車二台と、大型の幌馬車や荷馬車が数台ずつの前後を守るように隊列を組んだ騎馬小隊で、街道を進んでいる。

 王都の城門を出て二時間ほど。東はなだらかな丘陵が地平線まで続いてて、南から西にかけてはこんもりとした深い森が広がっている。北を振り返ると、切り立った崖に抱かれるように建つ王城が望める。王城のある山の中腹からふもとまでは、色とりどりのブロックが敷き詰められたような家々の屋根が広がり、それを囲む高い城壁。

 アニメでみたわーこゆのみたわー。ファンタジー感をこれまでで一番感じてるかもしれない。空まで透明感が違う、気がする。同じ青でもラメはいってるかのように見える気がする。


「ジャージ、いいなぁ」

「いいでしょう」

 馬車の後部デッキに並んで立つ礼くんが、本気で羨ましそうにあずきジャージを軽く引っ張る。こちらの世界の布もなかなか悪くはないのだけども、やっぱり運動するのならジャージ最強だからねぇ。

 初日は場違い感でいたたまれなかったけどね!


「もう少し先にいった森の手前を拠点とします。ほら、もう先遣隊がテントをつくりはじめてますよ」

 ザザさんが馬を寄せて前方を指さす。こちらの馬は多分私の知ってる馬よりもずっと大きく、ロバのように垂れた耳と羊のような巻き角をもち、温かそうな柔らかく長い毛をしていた。

 翔太君と幸宏さんも馬にのっていて、馬車には私と礼くんとあやめさんだ。


「スライムいる!!」

「まじで!?」

 

 礼くんがザザさんより向こう側の草むらを指さすと、それまで気だるげに馬車内にいたあやめさんが身をのりだして食いついた。……あやめさんはすましているようで割とこういうの嫌いじゃなさそうなんだよねぇ。


「あやめさん、スライム好きなんですか?」

「――っ、ほんとにいるんだって思っただけっ」


 礼くんの邪気のない問いで我にかえったのか、わずかに頬を染めて椅子にかけなおすけど。


「ふうん。あ、色違いもいる」

「まじで!? 足速い!?」


 ……好きそうだなぁ。色違うとなんで足速いと思うんだろ。


 私たちは実地訓練を兼ねた魔物討伐にきていた。

 幸宏さんは二十二歳、あやめさんは十九歳、翔太君は十六歳という見た目通りの実年齢なことを確認したらしい。まあ、自己申告でしかないけど、振る舞いからみても年相応に思えるということで当初の予定通りでいくとの判断だ。





「魔物と普通の動物の違いってなんなんですか」


 すべての生物は多寡はあれど魔力はもっているときいてザザさんに問う。


「襲ってくる種族かどうかです」


 シンプルだ。


「魔獣と魔物の違いは?」

「魔獣は、はぐれもいますが基本魔族の眷属で、その指揮下にあります。ですので国内には滅多にいないですよ。あとは魔物より知能も高く強いですね。連携してくるので」


 数日前、カザルナ王、ザザさん、エルネス神官長と大臣や高官数人が、勇者達に対するあらゆることについて会議する場に私も同席させてもらっていた。


「では、今度討伐する予定なのは魔物であって、危険度は少し下がると思っていいんですか」

「村や町の近くで魔物が増えすぎると、僕の管理下の騎士団が討伐に向かいます。今回の討伐はその通常範囲のもので、一個小隊で対応、被害はほとんどでません。ですので、勇者様たちの現在の実力でしたら全く問題ありません」


 王国には騎士団がいくつかあり、ザザさんの騎士団は国内の魔物討伐、北の国境線防衛を管轄としている最大規模のものだ。だからこそ勇者付となった。


「でしたらやはり私も同行します。礼くんには私の護衛をしてもらいましょう」


 戸惑いにわずかな非難交じりの声がざわめく。


「カズハ殿は戦闘行為に拒否感があったのでは?」

 王は、ざわめきを片手でおさえるが怪訝な表情を隠さない。


「私には適性や能力がないと判断しただけです。――好きなわけではありませんが、そもそも経験がないことなので拒否感といえるほどのものもありません」

「ほお。カズハ殿の国では狩りも戦争もないとおっしゃってましたな。なのに、十歳の子どもに狩りをさせると? それは浅慮ではないといえるのですかな」


 おっと。さすが王は手厳しい。

 でもこれは、子どもというものに対する、大人として当たり前の感覚だ。一見穏やかにみえるこの優しい国だけれど、幼い頃から戦う術を学ばせるほど死は間近にある。

 それにも関わらず、十二歳以下に狩りはさせないと律するこの世界。平和ボケと冠される日本人の感覚で否定することなどできるはずもない。成人年齢をあげてくれと思いこそすれ、十歳の子どもに戦わせるなど狂気の沙汰でしかないとするのはこちらとて同じ。


「礼くんがその実年齢と同じ身体をもっていたなら、そんなことさせはしません」

「子どもは子どもでしょう。肉体が急に育ったとして精神まで育つわけじゃない。実際、レイさんは子どもじゃないですか」

 ザザさんをはじめ、全員礼くんを狩りに参加させるのは否定的だ。エルネス神官長だけは是非を全く顔にだしていないけれど。


「私の護衛をさせると言っています。実際に狩りに参加させるかどうかは、段階的に反応をみて考えたいと思ってます。本人が参加すると言い張っていて、能力的には充分である以上、今の妥協線はそこです。―――あの子は他の子どもと同じ基準で考えるわけにはいかないです」

「なぜでしょう?」


 エルネス神官長が、会議が始まって以来初めて声をあげた。


「私たちを帰還させることはできないと言ってましたね? そして私たちのこの身体は、召喚されたときに起きたことだと」


 立ち上がってエルネス神官長に、私の小さな体を示す。


「ということは、この身体が実年齢にそうように戻ることはありませんね? 私はこのまま成長し、―――礼くんは老いていく」


 エルネス神官長は、わずかに目を瞠り、私の言いたいことを理解したように小さなため息とともに頷いた。


「陛下、失礼ですが今おいくつですか?」

「……五十六歳になる」

「この世界での平均寿命は?」


 眉をひそめ、「六十から七十、だな」と末席に近いところに座る高官に目で確認しながら答えた。


「ザザさん、四十二歳ですよね。鍛えてるとはいえ、三十歳のころと比べて衰えを感じないはずがないですよね?」

「それは、まあ」

「けれど、現役です。陛下だって現役です。肉体が老いても、その衰えを補うものを重ねた月日が培っています。でも礼くんは、四十歳の心で、体は平均寿命を迎えるんです。ザザさん、今その体が六十過ぎになったらどうです? 陛下、今その心のまま七十過ぎの肉体になったら?」


 出席者は大体、高官の若い人で三十半ばくらい、最高齢は大臣だろうか。

 誰もがなだらかに肉体の老いを受け入れていく。時は公平に歩みを進めるのだから、礼くんもこれからなだらかに老いを感じていくだろう。わずか十代前半で、だ。


「礼くんがそれを自覚するのはすぐですよ。賢い子ですから。―――あの子は人よりも早く大人にならなくてはいけないんです。その時、それに耐えるために」





 色鮮やかな羽根を散らしながら飛び立つ鳥の群れ。

 森の奥から、破裂音や衝撃音がわずかな振動をつれて響いてくる。

 私と礼くんは数人の騎士たちとともに、テント前に簡易かまどの設置や薪の準備をしていた。


「そろそろ皆さん戻ると思いますよ」

 積み上げた薪に、さらに一抱え追加しつつ、ザザさんより少し若いくらいの騎士が教えてくれた。

 

 討伐対象のグリーンボウは丸々とした猪によく似た魔物だ。食材として厨房の裏手にはこばれてきたことがある。全長三メートルほどの巨体にも関わらず樹々の間を猿のように飛び回り、繁殖期には森からでて、徒党を組み襲ってくるという。しかもかまいたちみたいな風魔法攻撃つき。その図体でその攻撃は理不尽じゃなかろうか。


 私は調理班として同行してる。礼くんは予定通り私の護衛だ。「仲良し」なので全く自然である。礼くんはこだわるかとも思ったけれど、案外すんなりと納得してくれた。仲良しだもんね。


「ねえ、和葉ちゃん、何つくるの?」

「牡丹鍋もどきと、ローストポークと、丸焼きかな」


 大量の野菜をだし汁のはいった大鍋三つに、それぞれどんどんつっこんでいく。山菜だけど昆布っぽいのもあったので昆布だしだ。かつお節はさすがになかった。味噌ももどきだし細かいことは気にしない。グリーンボウからしっかり旨味はでるしね。


「ボタン……?」


 私の横にしゃがみこんで膝を抱えたまま、こてっと首をかしげる礼くんに、猪のお肉を牡丹の花びらに見立ててるんだよと説明する。期待通りでうれしい。

 そうこうしてるうちに、勇者陣を先頭に討伐班が森から出てきた。あやめさんと翔太君はそうでもないけど、幸宏さんは返り血をかなり浴びている。戦い方の違いのせいだろう。囮と足止めをすると事前に言っていた。隣でかすかに息を呑む音が聞こえたのを知らないふりしつつ、駆け寄って出迎える。


「おかえりなさい」


 何故か幸宏さんは目を泳がせつつ後ずさりした。


「……どうしたんですか? 怪我、は、ないですよね?」

「あ、いや、ほら、俺汚れてるし」

「あー、派手に浴びたみたいですね。汚れ落とせるように、テントの裏側にお湯とか用意してありますよ」

「……和葉ちゃん、こういうの苦手なんじゃないの?」

「はい?」


 なんだかこの間から思っていたけど、私が戦闘を辞退したのはどうやら平和主義とか無血主義とかってことで納得されているのだろうか。


「えーっと、私、鶏絞めれるんですよ?」

「―――は?」


 幸宏さんばかりか、あやめさんも翔太君も目を瞠った。まあ、そうだよね。


「曾祖父がね、ど田舎で酪農家してたんですよね。こぢんまりとですし、今はもうないんですが。で、私、そこに預けられてた時期があって」

「教育方針的な……?」

「んー、どうなんでしょうね。鶏肉は自分とこのが一番美味いって人だったんで、よーし一緒にこさえるかー! 美味いもの食わせてやっからなー!ってノリでした」


 ちょうど十歳くらいのころだったと思う。研究者の父が海外へ長期のフィールドワークにでることなり、元々助手をしていた母もついていってしまったために曾祖父に預けられた。一年ほど。

 一時期、いのちの教室だのなんだの問題になってたけれど、あれはそんな教育だのなんだのの目的は全くなかったのは間違いない。そういう人でした。以上!的な。

 意図せず先駆けみたいな経験ではあったけど、だからこそ、あのいのちのなんちゃらの報道を見た時にはくだらないと思ったものだ。


「なので、血も内臓もまったく平気です。というか、するべきことをしてきた人に感謝はあれど、苦手だのなんだのないですよ」

「……そっか」

「はい。おつかれさまでした。みなさんもおつかれさまです」

「……うん、ありがと」

「働いてきたのは幸宏さんたちじゃないですか。お礼なら、ごはん食べてからお願いします。この後の作業は私の番なんで」

 

 そういって笑うと、幸宏さんは妙にくしゃりと顔をゆがませて笑った。


「で、肉は?」

「もう食材判定なんだ!? その場で血抜きしてるから後からくるよ!」

「大物の解体はさすがに見てたことしかないんで腕がなります」

「……肉食なのね。和葉ちゃん……」






 騎士団数名と一緒に、手近な木に吊るしたグリーンボウを二頭解体した。残りの六頭は近くの村に届けるそうだ。やはり騎士団の人たちは手慣れていて、「ほんとにカズハさまもやるの?」と聞かれつつも解体の手順を教わりながら手伝った。大昔見た猪の解体とほぼ同じだったと思う。はるかに大きいけど。

 俺もここまでの大物はやったことないんだけど、まあ、汚れついでだし、と幸宏さんも手伝ってくれた。ほんとチャラ男っぽいのに意外性あるなぁ。

 礼くんは顔をすこし強張らせながらも、私の後ろからじっと作業を見てた。






 薪の山は二列。車輪のような四つの穴があいた円盤が先頭についた棒が二本立ててある。グリーンボウの両肩から腰にかけて二本ずつ貫いている金属製の棒は、円盤の穴に通されていて、まんべんなく焼きながらぐるぐると回せる仕組みだ。


 これなら、と、火おこしさせてもらう。

 エルネス神官長直々に教えてもらったとおりに、魔力を集中して。



 ―――轟っと火柱があがった。そう。キャンプファイヤーかのごとく。

 グリーンボウどころか天まで焦がすかのように。


 騎士団も勇者陣も後ずさった。二メートルばかり。

 私も若干前髪が焦げ臭い。



「よし。では、あやめさん。火加減をお願いします。こう、火がグリーンボウにかからない程度に」

「待って! なんでここまで燃やしたの!?」


 私がいつも芋の皮をむいてるのは、実はこのせいだ。かまどに火柱あげて禁止令がでた。

 今回はこのサイズならいけると思った。


「ちょっと! きりっとしててもダメだからね! 失敗でしょ!? これ失敗なんで、ちょ、火力高っ!」

「……勇者様、さすが凛々しいな……」



 これは恥ずかしがったら負けのやつ!

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