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59話 成長の軌跡は千鳥足を描いて

「下手すりゃ消し炭になってたぞ!」


 烈火のごとくに怒声を張り上げたのは幸宏さんだった。




 障壁を蹴った瞬間に、前後左右上下全くわからなくなって、やっと減速しつつも墜落同然に着地したのは王城の裏山を越え、更に森も越えた平原だった。


 やばいやばいやばいめっちゃこれ怒られる早く帰らないとと思っても、自覚できるほどに急激に魔力を持っていかれてたので、これ以上魔力使ってもきっと怒られるしと、とりあえずこのくらいならと火球を上空にあげることで合図を出してお迎えを待っていた。


 一番に駆けつけてくれたのは礼くん。勇者補正フルに使ったら私の次に速いもんね。


「あやめ! 体内調べろ! 全身の血流、特に脳と心臓! 血栓できてないかどうか!」

「はいっ―――多分、ううん、大丈夫。臓器も、うん、大丈夫」

「和葉ちゃん、吐き気は? 目、見える? 頭痛しない?」


 続いて真っ青な顔で到着した幸宏さんの指示で、あやめさんが抱きしめて調べてくれた。

 翔太君はその前にすばやく礼くんを私からひきはがしてた。


「は、はい、大丈夫。飛んでるとき熱くなってびっくりしたけど、すぐ冷やしたし」

「体の痛みは?」

「全身ぶつけたように痛んだけど、今はもう平気。すぐ治った―――ご、ごめんなさい」


 そしてザザさんとザギルが到着した瞬間に、幸宏さんの怒声が響き渡った。


「下手すりゃ消し炭になってたぞ! 重力魔法だけじゃ足りないんだよ! 他にもいろいろあるっていったろ!」

「他にもとは」

「―――こっこのバカがあああああ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいい」


 幸宏さんの激怒の内容を把握したほかの面子にも取り囲まれて、また更に怒られた。





「ちょっと、まだ礼起きてる? 今大丈夫かな」


 その夜、翔太君とあやめさんも連れた幸宏さんが、私と礼くんの部屋を訪ねてきた。


「あー、昼間は怒鳴りすぎた。ごめん」


 淹れたハーブティを一口含んでから、幸宏さんが切り出したのは謝罪。いやいやいやいや。


「やだ。悪いのは私ですよ。思い立ったが吉日すぎたんです」

「うん。それはそうなんだけど」

「あ、はい」

「俺ね、一応気をつけてたんだ。適性があればふわっとした知識で発動しちゃうだろ。魔法。でな、ちょっとこの先は他言無用でお願いしたいんだけど」

「―――ほお。多分ザギル聞いてますけど」

「ああ、ザギルはいいよ。立場が違うから」

「じゃあ、そういうことで」


 しれっと現れて私の横に座り込んだザギルに、呆れた視線を向けてから幸宏さんは話をつづけた。


「ザギルは、これから話すことに興味なんてないからさ。あったとしても組織ってものに肩入れしない。だろ? なあ、ザギル、これ近衛聞いてる?」

「いや、今はいねぇな。……金になるなら別だけどなぁ。まあ自分からわざわざ売り込みやしねぇな。何が手札になるかわかんねぇし」

「和葉ちゃんの頼みが最優先のくせに」

「うるせぇわ」

「エルネスさんたちは違うってこと?」

「俺らが頼めばね、報告しないでくれるかもしんない。でもそれってザザさんやエルネスさんを板挟みにおくってことだぞ。礼もわかったか?」

「んっと、わかった。内緒にしないとザザさんがこまる」

「よし。んでな、俺、元自衛官なのは話したよな? 技術屋や研究職じゃないから勿論理論なんて知らない。でも、兵器の知識は一通りある。小火器、えーと、拳銃とかな、それなら組み立てから整備までできるわけよ」


 あー、なんか幸宏さんの言いたいことがわかってきた。


「和葉ちゃん、気づいてるよね?」

「んー……続きどうぞ」

「うん。前回の勇者召喚が百五十年前。そこから現代までにどれだけ戦争事情が変わったか、技術革新があったか、それはみんなわかるよね? 礼にはちょっと難しいかもだけど」


 あやめさんと翔太君もうっすら察し始めた顔をしている。


「で、だ。百五十年前に勇者がいて、その前にも何度も召喚されていて、で、魔族との戦争にも参加していたにも関わらず、この世界に伝わっていなきゃのがおかしいものがある。銃だよ。この新しい技術や思想を取り入れることにためらいのない国で、銃どころか火薬もないのはおかしい。発電機もない」

「……それは、魔法のほうが効率いいからだと思ってたけど」


 あやめさんの言葉に翔太君もうなずいた。

 うん。私も最初はそう思ったんだけどね。


「戦争は数だよ。少なくともこの世界での今の戦争のやり方ならね。で、俺らは城の中で、騎士や神官みたいな魔力や魔法を使って戦闘できる人ばかりに囲まれてるからそう思うけど、一般人はせいぜいが弱めの魔物から身を守る程度。戦争に参加できるレベルじゃない。実際してないだろ? 南方は少し違うけどね」

「……あっちはそもそも組織の括りがねぇのと同じだからよ」

「うん、でね、銃や火薬、爆弾な、あれは生活魔法しか使えない一般人も兵士にできる代物なんだ。鍛えられた騎士団と勇者が手こずる魔族だって絶対数がそもそも少ない。爆弾で殲滅して百人の一般人が銃を撃ち込んだらどうなる? 均衡している今の戦力に、昨日まで戦闘のせの字も知らなかった一般人を戦力として上乗せできるんだよ。そう考えたらとっくに導入されてておかしくない」

「うん……」

「なのにされていない。調べてみたけど、火薬や銃が研究された気配もない。魔法と比較して劣るものとしたから導入されてないってわけじゃないんだ」

「……過去呼ばれた勇者には知識がなかったとかの可能性は?」

「魔動列車のもとになった蒸気機関が導入されているのに? 火薬の材料はこっちにもあるよ。なのに蒸気機関の仕組みを知っている知識層の人間が火薬を知らないのはあり得ない。ってことは、この国に教える情報を、過去の勇者は選別してたんだよ」


 選別、と二人がつぶやく。


「戦争相手は魔族だけじゃない。南方の紛争だってある。火薬が導入されることで戦闘員じゃない人間の被害が尋常じゃないほど拡大するんだ。だから教えなかったんだと俺は思ってるし、俺も教える気ないよ。現代日本で学んだ兵器に関わることは全て。あと発電や蓄電に関わることもね」

「電気はいいんじゃないの?」

「エネルギーだよ。電気って。この世界には魔力を蓄えて使うものすらないんだ。魔石は増幅器なだけだし。まあ、魔乳石があるけど、それ使えるのはザギルだけだしね。エネルギーを蓄積できるってのは便利な反面、歯止めが効かなくなるんだよ。今魔力というエネルギーでこれだけ回っているなら必要ないと思う」

「うーん……兵器はそうだと思うよ? でもエネルギーはどうだろう。どちらにしろ発展してくんじゃないのかなぁ」

「俺らの世界で発展していったようにさ、順を追って技術が発展していったならそれもありだと思う。でもさ、何もないところから一足飛びに高い文明が導入されるって結構怖いことだよ? 怖さを知らないまま使うことになるからね。失礼なたとえだけど、二歳児にサバイバルナイフ持たせる勇気、あるか? 俺ら、それで起こることに責任とれるか?」

「……」


 あやめさんは視線を落として、思考を深めている。納得できないのではなく、理解するために。


「礼、障壁渡り、あるだろ?」

「うん」

「あれ、一枚目よりも三枚目のほうを強く張らないと踏み抜いちゃうな?」

「うん」

「それは一枚目、二枚目と勢いをつけてるから、その分障壁にかかる力が強くなってるからだ。スピードをあげるためには、あげる分の力が必要になる。さて、今日和葉ちゃんはすごく速いスピードを出そうとした。そのスピードをあげるための力がいっぱい必要になる。その力は障壁を壊すのと同じ力を産む。和葉ちゃん、障壁渡りするのに自分を軽くするだろ?」

「うん」

「スピードをあげる力は使ってるのに、障壁を壊す力だけ減らしてるのと同じなんだよ。それ。魔法だからできることだな」

「うんうん」

「その障壁を壊す力はな、スピードをあげるときにだけでるんだ。一定の速度に落ち着けばその力はかからなくなる。んー、魔動列車、出発するときにぐっと押されるだろ。でも走ってる最中はそれ感じないだろ? それと同じ」

「うん」

「本当は速度だすためには障壁を壊す力も必要なのに、和葉ちゃんは魔法を使っていきなりすごいスピードを出した。障壁を壊す力だけなくなれば大丈夫だと思って」

「うん」

「ところが、今度はそのすごいスピードがでることによって障壁を壊す力とは別の力が出てくる。空気の圧力、んー、風でいいや。風強いだろ。魔動列車の外の風。あの風の力。あと摩擦とか。空気がこすれて温度が高くなる。他にもいろいろあるんだけどね。順序良く、障壁を渡りながらスピードを上げていけば、きっと気がついた。風が強くなってきたなとか、熱くなってきたなとか。じゃあどうしようかって」

「うん」

「でもいきなりだから気がつかなかった。すごく速いスピードで移動するためには他に何が必要なのか、試したり考えてる時間がなかったんだ。わかるか? いきなり何も積み重ねずにすごい力を使うと、危ないんだよ。俺らが持ってる知識はそのくらい危ないことをザザさんたちにさせるかもしれないんだ」

「……わかったと、思う。でもゆっくり考える」

「よし。それでいい」


 本日最大の失敗を例題に出された私、いたたまれない。


 そう、技術的に再現困難な部分を、この世界は魔法でクリアしてしまうのだ。いともたやすくジャージを開発したように。私が雷鳴鳥と同じスピードを唐突に発生させたように。


 幸宏さんの危惧は正しい。私たちの世界が試行錯誤して積み重ねた時間と理論と技術を飛び越えて、この世界は結果だけを再現させてしまう。


 理論を積み重ねて危険性も十分検討されていたはずの技術が、元の世界でどれだけの破壊をもたらしたか。積み重ねてすら、それ。ならば積み重ねがなかったら一体どうなることか。


 どんなものだってリスクゼロはあり得ない。けれどリスクを検討しないのもまたあり得ないんだ。

 私たちの知識は、そのリスク検討の機会をこの世界から奪ってしまいかねない。


「……随分とすげぇ隠し玉あるっぽいなぁ。おい、坊主おまえこれ本当にわかんのか?」

「多分わかったよ! 内緒にしなきゃなんだ! 危ないからね!」

「お、おう。そうかよ」


 ザギルは私の腰かけている一人掛けソファの背もたれ越しに、私の肩に両手を回して顎をつむじに載せている。礼くんは私の脚の間に挟まって床に座り込んでた。私の膝に頬を載せている。

 こう、客観的に見て、今の私すごい防御力高い体勢だ。モビルスーツぽい。肉の鎧。


「だから俺、言わないようにしてたんだよ。その手のこと。でも今日、うっかりちょっと話しちゃったらこれだよ。ふわっとした知識で発動した魔法で和葉ちゃんが死にかけた」

「いやそんなことは」

「結果としてね、勇者補正の身体があったから無事だっただけだよ。後、本当に危険な領域にまで行ってはいなかった。多分、雷鳴鳥が飛んでる姿をイメージしたんでしょ? そのイメージの速度だったからだ。昼に見たザギルの鳥はザギルめがけて充分減速してたからね」

「俺の鳥がモデルかよ……お前どんだけ……」

「か、かたじけない……」

「いいかい。雷鳴鳥の速さまでなら、まだ対策はとれないこともない。少しずつ試しながらやればいい。でもそれ以上の速さには、音の壁、熱の壁、俺らの世界でクリアするのに何十年もかかった壁がある。それだって最高峰の科学技術を使ってやっとだから生身ならもっと壁は厚い。そしてきっとその先に俺らも知らない壁がまたある。多分和葉ちゃん、速度だすだけならどこまでもできるんだと思う。でもそれだけじゃ死ぬよ」

「おい、知恵つけないんじゃなかったのかよ」

「中途半端に知ったのなら、逆に教えないほうが危ない。和葉ちゃんならすぐモノにしちゃうし」

「……えへへ」

「……くそが」


 両方のほっぺたを思いっきり引っ張られた。





「……私たちどうするのが一番いいの?」


 幸宏さんはあやめさんの問いに、冷めたハーブティを一口飲んでから答える。


「考えながら決めてくしかないよね。そっち方面に走りそうなら俺が多分止められる。あやめ、お前の回復魔法は今のところ多分大丈夫。浄化魔法みたいなもんだね。それにこっちでほとんどしてなかった解剖にも手、出してるだろ?」

「うん……駄目だったかな。私だけじゃ無理だったんだもの。エルネスさんたちと一緒にしないと」

「だからいいんだ。あやめの回復魔法はこっちのとは違って特殊な勇者魔法らしいけど、言語化して説明できて、適性のある人なら使えるから浄化魔法と同じように汎用化できる。でも段階を一緒に踏んでるからね。ただ、遺伝子に手を出すときは考えたほうがいいと思う」

「まだそこまでは」

「今は怪我の治療のためだからだろ? 次は病気にいくんじゃないか? そしたら遺伝子まではすぐだ。ガンはこっちにもある」

「……うん」

「ダイナマイトを発明したノーベルだって、最初はニトログリセリンを安定させるための研究で戦争を終わらせるためだったのに、最後は死の商人って言われたし、ライト兄弟だって飛行機の戦争利用なんて考えてなかったのに、空中戦は戦争を塗り替えたんだよ。最初はそんなつもりじゃなかったんだ。どっちも」

「……自身の発明を後悔した研究者たちですね。アインシュタインとか」

「うん。和葉ちゃんはそのあたり身近なんじゃない? お父さんたち研究者なんだよね」

「分野は全然違いますけどね。研究者の宿命と業だと言ってたことありますね」

「翔太、お前の音魔法は、やばいのそろそろ気づいてきてるだろ」

「……なんとなく」

「重力魔法は俺らのうちだれも言語化できないし、俺らだけじゃなくて城の誰も使えないってことは和葉ちゃんしか使えない魔法だ。だから汎用化の心配はない。でも翔太の「音」はこっちの人間にも理解しやすいんだよ。まだ試してる人間も少ないから翔太固有のものかどうかわからない。俺は試しても発動しなかったけど」

「え。翔太の音魔法って聞こえるだけじゃないの?」

「違うよな? ザギル」

「んあー、違うな。んでな、俺できるぞ。聞くほうじゃなくて攻撃のほうな。今日わかった」

「……まじかよ。ほんっとチートだな」

「……ザギルさん、僕だって今日気づいたし言わなかったのに」

「正確には、小僧の魔法に近い魔法がもうあんだよ。姉ちゃんの回復魔法みたいなもんだ」


 ザギルが私の頭を軽く叩いて手を載せた。


「こいつが無意識に時々使ってる」

「初耳!?」

「障壁とかよ、咆哮で壊してるだろ。あれ、獣人の一部が使えるやつだ。俺も使える」

「あー、あー、あー、あれか。ザギル殺しかけた時のだ」

「心当たりないです」

「……無意識だからな。近いからっつって何でも真似できるかどうかは別だぞ。適性もいるし、言語化できたとしてもどうだかなぁ。消費魔力もでかいし制御がかなり高度だかんな。これから小僧がどんなの開発すっかによるけどよ、殲滅魔法としてはかなり凶悪なのができそうだ。兄ちゃんそれ心配してたんだろ? でもそのレベルだと多分俺でも無理だ。魔力足りねぇ」

「……ザギルそれ」

「言ってねぇよ? 聞かれてねぇし。ただ氷壁はどうだかな。気づいてたとしても言わなかったってこたぁそういうことだと思うけどよ」

「そっか」

「ザギルってば、やっぱりザザさんと結構仲良しだよね」

「お前ほんとやめろそれ」


 勝手知ったるなんとかで、幸宏さんが戸棚から酒瓶とグラスを取り出した。年長組飲み会のお供だ。

 ザギルと私がグラスを受け取る。


「まあ、新しいことするときはまず俺とザギルに相談するのがいいってことだね」

「俺いれてんじゃねぇよ」

「ここまで聞いたんだから、いれないのはナシだ。和葉ちゃんもいいね? 気付いてたんでしょ? 和葉ちゃんしか使えないからマシだとはいえ、魔法としては一番やばいのは重力魔法だしね」

「え。和葉そうなの?」

「んー、やばいですよね。渡す知識を選ぶのは賛成ですよ。ただ全てが勇者の選別にかかってるかっていえば違う気もしてます」

「例えば?」

「蒸気機関。あれがあるのに産業革命が起きていない」

「……ほんとだ」


 幸宏さんがグラスに口をつけたまま目を丸くした。

 ジャージも騎士たちの分まで生産するのに時間がかかっているのは、何も素材のせいだけじゃない。機械生産を前提としていないからだ。羊羹がすぐに雇用の拡大に直結するのもそう。家庭内手工業がこちらの世界の一番大きな産業規模なのだ。


「産業、工業の発展は文明の発展と同じ。火薬がないから発展しなかった技術があるのとは逆方向に、あればたどるであろう発展が何故か途絶えている。これだけの研究に対する熱意と魔法があるのに、です。工業の発展は雇用の崩壊を招きがちですから、カザルナ王の方針のせいで抑制されたのかとも考えましたけど、時代が合わないしさすがにそれだけじゃ抑制しきれないと思う。それこそ積み重ねがないから途絶えたとも考えられるけど……まあ、勇者の選別のほかにも何か要因があるのかなぁと」

「和葉ちゃんはなんだと思うの?」

「いくつか思いつかないわけじゃないけど……ちょっとまだわかんないです。んで、わかるかどうかもわかんない。だから幸宏さんの方針には今のところ賛成です」


 ―――この優しい世界の成長の軌跡は、どこか歪でとぎれとぎれだ。

 そりゃあ元の世界もキレイな軌跡ではないだろうけども。


「そっか。うん。でももしそうならちょっと気が楽だ。……礼は知識そのものがほとんどないからともかく、あやめと翔太には荷が重すぎる。俺ね、こんだけ言ったけど、正直世界のこととかどうでもいいのよ。顔も知らないどっかの誰かが死のうがどうしようがどうでもいい。でもあやめと翔太は違うだろ」


 あやめさんと翔太君が首をそろって傾げたのを見て、幸宏さんは微笑んでから酒を一口飲んだ。


「まじどうでもいいの。というか、どうでもよくなったから自衛隊も辞めたしこっちに来たんだよ」


 ああ、なるほど。どうでもよくなったということは、それは元々幸宏さんにとってとても大切なものだったんだ。そうなる何かがあったということだ。


「そっかー。でも幸宏さん」

「うん?」

「あやめさんと翔太君には荷が重いって言ったときの顔は、ザザさんが僕は部下がかわいいって言ったときの顔とそっくりでしたよ」

「―――ふはっ、和葉ちゃんはほんとに不意打ちで刺してくるよね。うん。でもうれしいやそれ。ザザさんは俺の憧れだし理想だ」


 うん。知ってる。大好きだよね。幸宏さんはザザさんのこと。


「ヘタレでもか」

「まあ、ヘタレは否定しないけどね」

「ザギルばかりか幸宏さんまで。エルネスも言うけど、私見たことないんですよね。それあれですか。ザザさんの貴重なヘタレシーン見逃してるんですか私」

「いや、貴重でもないっていうか、多分気づいてないの和葉ちゃんだけだよ」

「嘘です。ありえません。この私の冴えわたる観察眼がそんなこと」

「……お前その自信どっからくんだよ」



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