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39話 異文化コミュニケーションの壁は高かった

本日二回目の更新です。ご注意くださいませ。

「というか、縁談って私たちに教えられるのは色々選別された後のものだけでしょう? 和葉に三十歳の人の縁談って、ちょっと年上すぎない? 和葉はアレだけど一応十歳なわけだし」

「アレってなんですか。あと十四歳です。何度でもいいますけど十四歳です」

「はぁ!? お前ほんとにエルフとかはいってんじゃねぇの? なんだよそのつるぺた」

「う、うるさい! もうすぐ標準に育つっ」


 予定ではそろそろ急成長が始まるはずなのだ。前回とは食生活も何もかも違うけどっ。


「すっきりしてんのは顔だけにしとけよ……」

「くっ……」

「カズハ殿の顔はすっきりしてるから愛らしいのだぞ? 舞踏会での令嬢たちの中で最も目に優しかった」


 私あの時普段以上に化粧してたんですけどね……。目に優しいって。


「あー、くどいもの食ってたらさっぱりしたのが欲しいかんじのアレか」

「それになっ! 踊ったり狩りをしてるときの動きがな! キレがあるのに優雅なのだ! レイと鬼ごっことかいうものをして遊んでるのを見たときな! 俺も結婚したら毎日鬼ごっこができると思ってだな!」

「殿下……もういいですなんかどんな顔していいのかどんどんわからなくなってきます」


 もうやめたげてっ! 幸宏さんのライフもうゼロだから!!


 しかし鬼ごっこねぇ……そうか。王子にはそのあたりがポイントだったのか。

 そういえば私が具合悪くしてる間も毎日のように小さな花束届いてたんだよねぇ。


「ほら、殿下、お迎えがきてますよ。陛下たちと食後の歓談時間でしょう?」

「む」


 食堂の入り口に目を向けると、殿下付きの侍女がお辞儀をかえしてきた。

 カザルナ国王陛下は、勤勉かつ有能であり、愛妻家の家族想いでもある。毎日夕食後に家族団欒の時間を確保しているというのだから恐れ入る。


「鬼ごっこなら今度混ぜてあげますから」

「ほんとか!?」

「ええ。ただし家庭教師さんが許してくれたらです」

「大丈夫だ! レイ! レイもいいか!?」

「いいよー」


 この二人、最初はどうなるかと思ったけど、いつの間にかなにやら仲良くなってるんだよねぇ。子ども同士って不思議。





 軽く肩をひねって背もたれに右ひじをのせながら、後ろの席に座っていたセトさんと何やら話しているザザさん。これはあれですね。ぐっとくる男性のポーズランキング上位にはいるやつです。助手席に手をかけて車をバックさせるときにやるやつ。肩や首のきれいなラインが際立つのよね。


「アヤメ、今セトに確認しましたけど、その三十歳の方は獣人系の混血で長命種だそうですよ。寿命バランスとしても問題ないってことで選別を通ったんでしょうね」

「寿命バランス……?」

「ええ、それに長命種は青年期が長いです。カズハさんが三十歳の頃には同じ年くらいにしか見えないと思います」


 ほっほぉ……元の世界での貴族の見合いとかでも、そのくらいの年齢差はよくあることだっただろうから不思議に思ってなかったけど。


「そういう風に選別してるんだ……」

「もちろん人柄なり、周囲の評判なりも調査済みですから安心してください」

「人柄……お相手は和葉くらいの子を女性としてみれるんですか? だって親子でもおかしくない年の差じゃないですか」

「え?」

「え?」


 お互いに首を傾げ合うこれは、久しぶりの異文化コミュニケーション。ザギルとセトさんも首傾げてる。


「例えば私はルディ王子が例え三十歳になっても、多分子どもにしか見えないし異性と認識できないと思うんですよね。子どもの頃を知ってるので。今だって、当然異性とは思ってないわけですし。あやめさんは、その相手の方もそうなんじゃないのかと言ってるわけですよ。私たちがいた世界ではタブーに近い部分なんで」

「ほお……そうなんですか。それはちょっと選別担当に伝えておかなくてはですね」

「えっ、じゃあこっちではタブーじゃないんすか。俺、和葉ちゃんの中身知ってても、今の外見年齢では抵抗ありますよ」

「うーん……確かにカズハさんやユキヒロのように感じる者もいますけど、いつまでも子どもじゃないですし。育つのを待てばいい話なのでタブーとまでは。幼い相手にしか興味がないとなれば話は別ですけどね」

「まじっすか……俺こっちにきて最大のカルチャーショックかも……」


 あ。なんかタブーとか言ったけどよく考えたらそんな話、古典で見たな? あの日本最初のハーレクインロマンスだな?


「特に長命種は数少ねぇしな。年の差なんて言ってたら相手みつかんねぇよ。待ってて当たり前だし、抱え込んでおかねぇと横からかっさらわれちまう」

「おお……そう考えると確かに……?」

「そういえばエルネスも似たようなこと言ってました……エルネスの言うことだからと思って聞き流してましたわ」

「神官長の言うことはそれで問題ないです。聞き流してください」

「そっか……そうなんだ……いやまあだからといってルディ王子が対象にはいるようになるかっていったらなりませんけど」

「それがカズハさんの感性なんですから、それでいいんですよ。変えられるものじゃないでしょう。殿下にはお気の毒ですが」


 王子へのものなのか苦笑するザザさん。するとあれだろうか。ザザさんにとっても私は対象になりえるのだろうか。いやでも子どもじゃなくなってからという話なんであって、今まさに対象になりえるって話じゃないな? ……聞けないけども! 聞いてどうするって話でもあるし!


「それでか……なんかたまに十三歳の子とかの話きてたんだよな」

「幸宏さん、それどうしたんです」

「や、そりゃないだろーって会ってないよ。なるほどなぁ。謎がとけた」

「兄ちゃん、それ獣人系だったんじゃねぇの?」

「どうだろ。覚えてない」

「獣人系なら十三歳で、もうその姉ちゃん以上に育ってるぞ」

「私以上!? えっどういうこと。私充分大人に成長してるよね?」

「色気とか乳とか」

「ほんっとサイテーなんだけど! 和葉! この人サイテーなんだけど!」

「あやめさん気づくの遅いです」

「気づいてたけど! もっとサイテーだった!」

「おう、坊主、食ってるそれなんだ」

「みかんゼリー。あっちにまだあるよ」

「俺も食お」

「ザギルさんって自由だよね……僕なんか尊敬してきちゃったかもしれない……」

「えぇぇー……それならアリなのか? いやどうだ? 十三歳だろ……」

「えっと……ユキヒロは選別基準変えなくてもいいってことですか」

「いやまって。なんかちょっと色々消化できない」





「そうだ。お前これつけろ」


 カレー以外にも食堂メニューの大半を網羅して、みかんゼリーでしめたザギルが満足げにお茶を飲みながら、ビロードの巾着袋を放ってよこした。私の手にちょっと余るくらいの大きさ。じゃらじゃらしてる?


「なにこれ。くれるの?」

「んや。貸す」

「なんだそれ」


 中身をざらっとテーブルに広げると、いくつものピアスや、石を編み込んだ帯みたいなものが転がり出た。全部魔乳石だ。私の耳に今もある、こっちにきて初めて買ったピアスと同じ石。


「わ。可愛い」


 あやめさんが身を乗り出してくる。うんうん。可愛いのばっかりだ。


「どうしたのこれ」

「さっき城下行って買ってきた」

「いつの間に。てか、貸すってなに」


 帯をもってしげしげと眺めてると、ザギルがそれを取り上げて、袖をまくれと身振りで示す。

 幅五センチほどの、平たい楕円形の大きな魔乳石と小粒の魔乳石を組み上げて編まれた帯には両端に留め具がついていて、ザギルの手により私の二の腕にぴたりとおさまった。バングルだったんだこれ。


「だってお前そのピアスくれねぇしよ」

「あげないよ。せっかく綺麗な色になったのに」


 ルチルクォーツのような金の針が散っていた透明な石は、私の魔力を吸ってすっかり染まっていた。石の色は中心が黒で外側に向かって瑠璃色に広がり、金色だった針は紫とピンクゴールドの細い葉型に変わっていた。二週間ほどでこの色に落ち着いたのだ。非常に気に入っている。


「もう満杯だろが。魔乳色はその時の体調とかで色合いが微妙に変わるんだ。満杯になったらそれ以上変わんねぇ」

「そうなんだ」

「おう。変わった色とか人気の色出すようなヤツは、それで小遣い稼ぎしたりしてんぞ。そのピアスも外してこっちのどれでもつけろ」

「へぇ。んで、だからなんでよ」

「満杯になったら返せ。んで、また新しいの買うからそれつけろ」

「小遣い稼ぎすんの?」


 確かに私のもあやめさんのも珍しい色だと言われた。いわば勇者カラーなのかも。


「馬鹿か。んなもったいねぇことしねぇよ。喰うんだよ」

「へっ!?」

「お、お前、南方では確かに常時食糧不足だとは聞くが……」


 ザザさんもちょっと憐みの顔した。ちょっとだけ。


「ちげぇわ! 嗜好品だっつったろが!」

「中の魔力を喰うってことか? いやしかし魔乳石の中の魔力は再利用できるようなもんじゃないだろう」

「再利用もなにも魔力が入ってんだから同じだ。使えるのは俺みたいな魔力喰いだけだろがな。俺は俺以外に魔力喰いは知らねぇけど」

「え、え、どうやって食べるの。ねえ、私の使っていいから見せて見せて」


 ついさっきまでサイテーだと騒いでたあやめさんが自分のピアスを両方外して差し出した。エルネスに教えてもらったという城下の店で買ったものだ。あやめさんの石は濃い紫からピンクに広がる色で、針は白金で細長いハート型。すごく可愛い。


「お。いい石だな。いいのか?」

「うんうんうん」

「じゃあ、その中のピアス好きなの代わりにもってけ。石としては同クラスのはずだ」

「わかった! 早く! 早く!」


 食べて見せてと急かすあやめさんから、ちょっと身を引いて眉を寄せるザギル。


「姉ちゃん、あの神官長サマの弟子だっつってたっけか……」


 着々と師匠と同じ道歩んでるよね……。ザザさんもちょっと微妙な顔してる。


「まあ、いいけどよ……見たいんならこっちか。ほれ」


 片方のピアスを手に握りしめるとピシッと小さな亀裂音。開いて見せてくれた手のひらには台座の金具と粉末の結晶が僅かに残っていた。残ってる結晶の量と石のサイズが明らかに見合わない。その結晶もぺろりと舐めとってしまった。


「うん「味は言わなくていい」」

「お、おう」


 あ、そのあたりは師匠と違うんだ。むしろ師匠から学んだのかもしれないけど。

 ……メモってるよ。あやめさん、メモりだしたよ。礼くん以外の全員が「うわぁ……」って心が一つになったのを感じるよ。


 ザギルはいそいそともう片方のピアスの台座を外し始めた。


「そのふっとい指でよく細かいことできるね」

「うっせ」


 外した石をぱくりと口に入れてご満悦だ。飴玉か。


「美味しい?」

「おう。出回ってる染まった石は当たり外れでけぇからな」

「つけるのは別にいいけど、これバングルの石だけでも結構な数あるよ。そんなに食べるの?」

「これでいつでもどこでも喰える」

「携行食扱いなんだ……」


 なんだろう。養鶏場の鶏の気持ちってこんなんだろうか。


 メモとり続けてたあやめさんが、ぴょこんと頭を上げた。


「ねえ、ザザさん」

「はい?」


 一時期はザザさんから距離を置いていたあやめさんだけど、もうすっかり元に戻ってる。


「年齢差が気にならないのが普通なら、なんでザザさん独身なんですか? ザザさんも貴族でしょう? お見合いとかいっぱいあるでしょう?」


 盛大に噎せるザザさん。私やエルネスがこのネタで茶化すことはあれど、あやめさんからの純粋な疑問には無防備だったようだ。


「い、いや僕はそんなには」

「ありますよ。次々と」


 しれっと後ろの席から参加するセトさん。


「セトっおまえ」

「陛下だって非常にお気にかけていらっしゃるんですけどね。これがなかなか……」

「なんでまた。俺ザザさんならよりどりみどりだろうに独り者ってことは、出会いそのものがないのかと思ってた」

「僕もそう思ってました。ザザさん忙しいし」

「時期的なものや突発的なことがあれば仕方ないですが、基本的に私事の時間は確保できるよう陛下からも強く言われてますからね。時間はつくるものです」


 セトさん手厳しい!


「じゃあ、見合いそのものも受けてないってことっすか? 陛下も気にしてるのに?」

「いえ……そういうわけでも、ない、といいます、か」

「お付き合いに至っても放置しすぎて振られてしまうんですよ」

「セト……頼むからほんと……」


 うわっ弱気なザザさん! セトさんに負けてるザザさんとか!


「自分たち団員だって気にかけてるんですよ。それをこの人は」

「いやお前ら面白がってるだけだろ……」

「そんな事実はありません」


 きりっとした表情だけど、なんか目背けてるよね。セトさんね。口の端ひくついてるよね。


「放置って意外ですね。ザザさん気遣い細やかじゃないですか」

「会ってるときはいいんですよ。御令嬢方も夢中になるんですよ」

「お、お前らなんでそんなこと……」

「多分団員は団長より詳しいですよ」

(騎士団やべぇ)

(いやこれはきっと人徳なのでは)

(えぇぇ……)

「じゃあ放置って?」

「放置なんてしてませんって。ただ、僕らは年中王都にいるわけじゃないですし。今でこそ勇者様付きですからずっといますけど、基本年に三か月は前線行きますし、遠征もありますから……」

「だから自分らもいつも言ってるじゃないですか。手紙くらい出してくださいって」

「えー、じゃあ三か月とか音沙汰なくなるってことですか」

「ちょっと、長い、かなと俺でも思うかも。確かに俺も隊時代は連絡とれない時期とかあったから、わからないでもないけど……その代わりとれるときはとったし……」

 

 メールとかに慣れてると余計そう思うかもしれないなぁ。


 ……いや、メールとかネットどころか電話もテレビもないわけだし、行先の状況もわからないわけだから、手紙はすごく重要なのかも。三か月か。どうだろう。


 よし。自分に置き換えてみてもさっぱりわからない。


「普段細かな気配りで接してくれる男がですよ、仕事とはいえ、ぴたっと連絡なくなればそりゃ心変わりも疑われますよ。言ってるじゃないですか。毎回毎回毎回」

「書いたぞ。お前ら言うから書いたこともあるぞ」

「報告書かって振られたんでしたっけ」

「だからなんで知ってる……」


 ザザさんの意外な弱点、筆不精とセトさん……。


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