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052 ~黒鎧の追跡者~

お久しぶりです。

気づけば2カ月近く更新なし……。


申し訳ないです。



前回あらすじ


改心したワイドとケビン。

取り敢えずの和解をすませ、ロウはスキル確認を兼ねた狩りにでかける。

そこで襲いかかってきたのは、影姫を名のる少女

終始、彼女を圧倒していたロウだったが、最後の最後で油断し、身動きがとれなくなる。



 「急げ!! 早く逃げろ!!」

 「ハぁ、はアッ…クウウ、キツイィよ」

 「ダメ。はやい。……逃げ切れない」


 焦燥感溢れる怒声が木々を縫って木魂する。戦闘を走る影は四つ、その後ろからは黒い流線が同じ、いや、それ以上の速さで追走をしていた。彼等の距離は徐々にだが、確実に縮まっている。


 「……ケビン殿、あとは任せた」

 「おい!?」



 

 このままでは逃げ切れないと判断したのか黒装束に身を包んだ男が立ち止まる。瞬間、男から展開された大量の糸。ソレらは木々の合間に次々と巨大な蜘蛛の巣を形成し、鋼糸の壁を築き上げた。追っ手の行く手を阻む鋼糸の網壁。

 黒装束の男は、追っ手から放たれた濃密な殺気に大量の汗を流しながら、短刀を構える。

 

 

 「早く…! 我が足止めしている隙に…!──っ!? ぐぁああああ!!!」


 「ワイド!!?  んの──ッ!!」

 

 しかし、放たれたのは殺気だけでは無かった。木々を削りながら迫った不可視の刃、殺意の狂刃はいとも容易く糸の壁を切り裂き、黒装束の男──ワイドの右腕を切り飛ばした。


 「クッ…! しまッ─」

 「まずは一匹♪」

 

 「ッソ! やらせるかぁ!!」

 

 腕を切り飛ばされた痛みに注意が逸れた瞬間、加わる本気の追撃。迫る回転刃にあえなくその首が飛ぶかと思われたが、スキンヘッドの男が伸ばした鎖が彼の体を絡め取り、引き寄せる。あえなく刃は空を切る。間一髪だった。



 「あら、避けられちゃいましたか。しぶといですね…」

  

 騒音と言い知れぬ恐怖を振りまく凶器を手に、追っ手──漆黒の鎧を纏ったソレは呟く。無骨なヘルムによって表情はわからないが、今のでワイドを仕留めれなかった事が不服げなようだった。

 

 

 一方、難を逃れたワイドは狼耳のフードを被ったエルフの少女──フィリから応急的に回復魔法で傷を癒して貰っていた。

 

 「…じっとして」

 「か、かたじけない…」

 「ワいド!!」

 「おい、大丈夫か! ワイド!」



 その(かたわ)らには、緋色の翼を羽ばたかせた半人面鳥(ハーフハーピー)の少女──ピアもいる。ワイドを助けたスキンヘッドの男──ケビンは、まだ行動をおこす気配の無い黒鎧に注意を向けつつ治療の様子が気になるのかチラチラと覗うような視線を向けていた。


 「ッ…ケビン。よそ見しない」

 「わかってますって!」


 何故かフィリに敬語を使うケビンは、苦笑いしながら己の異名でもある鉄鎖を構え直し敵を見据える。


 (こいつ、やっぱあん時の…)


 そして、逃走時から感じていた既視感を確信へと変えた。全身から禍禍(まがまが)しい瘴気(しょうき)を放っている黒鎧、胸元の装甲部分の膨らみを見る限り性別は女。足の運び方からしてもソレは確実だとケビンは思考する。


 一度見れば強く印象に残るだろう特徴的な騒音と恐怖を撒く武器を持ち、性別は女、そして自分が追いかけられる理由から推測して、ケビンは鎧の中身に辺りをつけた。そして、人づてに聞いた話と照合して目の前の敵がなに者なのかを見破ることに成功した。

 

 「……まさか、【狂姫】はホントにいたとは…。噂はマジだったわけか…」

 「…キョう…き?」

 「ああ、俺が聞いた話によると──」


 思わず漏れ出た思考に反応したのは、彼の背中に隠れて黒鎧の姿を覗っていたピアだ。

 頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる姿に愛嬌を感じながら、ケビンは後ろで治療に当たっているフィリにも聞こえる声量で説明を始めた。

 あるもの曰く、その姿は東洋の姫にも似た美少女である。

 あるもの曰く、その姿に惑わされ近づいたモノは、物言わぬ肉塊と化す。

 あるもの曰く、非常に殺傷能力の高い武器を持ち、人を虫けら同然に(あや)める狂人である。

 あるもの曰く、その者は戦場を荒れ地へと変える。

 あるもの曰く、その者はその身に悪魔を宿している。

 

 「……特徴的な武器。あれが?」

 

 「ええ、あの間違いないと思います。冒険者達の噂話とも、特徴的に一致しますし…」


 ケビンは観察する。

 暫定的に、狂姫と思われる追跡者は、俺達が話をしている間、こちらに攻撃してくる素振りはない。それは、わざと目をそらし隙を作っても同じだった。それが余裕のあらわれなのか、はたまたその場を()()()()のか。彼には判断が難しかった。


 「お話は終わりましたか?」

 「「「っ!?」」」


 狂姫が動きだす気配を感じ取った一同は自然と身を堅くする。なんのことは無い、ただ声をかけられた。

 少なからず、殺意を(はべ)らった声を──


 ケビンには、その言葉が死刑宣告のように聞こえた。


 「あ、ああ、出来れば、もうちょっと待って欲しいんだがな。というか…、このまま逃がして貰えると助かる──」



 その場を代表し、ケビンが口を開いた。いつ攻撃されても対応出来るよう、腰を落としながら…。

 

 「それは無理です♪」



 一瞬だった。


 彼は目を放さなかった。


 ただの一度も──。


 相手が動けば、直ぐに攻撃に移れた。


 ソレを認識することができれば──

 

 

 「あ──」


 気づけば真横にいた黒き殺意の塊。

 認識外の速さで接近、死角から振るわれた全てを刈り取る強烈な一振り。

 存分に殺意がこもった一撃はケビンを始め、その場にいた全員の首を切り飛ばすのに留まらず、その肉体をも吹き飛ばした。


 否、肉体が掻き消えた。

 まるで、そこにいたのが幻想だったかのように──


 「──あら?」


 その違和感は盲目の彼女でもわかった。何も斬れていない。己の攻撃は避けられた……。しかし確かに気配は無くなった。というか、相手が自分の攻撃に反応出来なかったのは動きで理解していた。では何故──!?


 そんな思考を遮る気配が、彼女の頭上に出現する。


 「ん!!」

 「─っ!?」


 刃と刃が互いを削り合う音。力の拮抗は一瞬。体重が軽かったのだろう。武器を振るえばあえなく弾き飛ばされる襲撃者。


 「あうっ──!!」


 思考の隙をついた渾身の一撃は、狂姫を驚かせはしたもの、傷をつけることは叶わなかった。


 「ごめん…。仕留め損なった…」

 「気にしないで下さい、お嬢。おかげでワイドとピアを逃がす事が出来ました」


 渾身の一撃を防がれ、弾き飛ばされたフィリは、空中で身を(ひるがえ)して体制を整え、危なげなく地面へと着地する。そこには、五体満足で鉄鎖を構えたケビンの姿。

 



 先ほど、狂姫が切り裂いたのは、フィリが創り出した幻覚だった。咄嗟の判断で、ワイドを治療しがら幻術も同様に、狂気へとかけていたのだ。自分達の位置を勘違いするように。

 

 もしあのままあそこで、突撃してくるのを待っていれば、自分達は幻覚と同じ末路を辿っただろう。と、離れた場所でその瞬間を見ていたケビンは身の竦む思いだった。


 たとえ、その後のこちらの攻撃が失敗しようとも、フィリに感謝こそすれ責める道理はない。


 「…すみません」

 「……? なんでケビンが謝る?」

 「いえ、自分に力が足りず、関係のないお嬢まで危険に──」


 (本当に、合わせる顔がない─)


 おそらく、自分はここで死ぬだろう。

 それは、先程の攻撃から垣間見た実力差からして、覆りようもない事実。自分だけでは、守りきるとあの父母に誓った幼子を逃がしきるための時間稼ぎにもならない。

 文字通り一瞬で(ほふ)られるだろう。だからこそ、彼と共に残ったのはエルフの少女。

 これでようやく、逃げるだけの時間を稼げる。自分の不甲斐なさに溜息が出る。

 ここに残る以上、彼女も──


 そう思っての謝罪だった。同時にここにはいない、彼女のパートナーへの。

 しかし──


 「ケビン──」

 

 傍らから聞こえる言葉に目を向ける。


 「私─────死ぬつもりは無い」


 およそ、少女とは思えない決意を目に宿した強者がいた。

 その目、その言葉に息を飲む。

 同時、それは彼の心を奮い立たせた。


 (ああ、そうだ。何を弱気になってんだ俺は…っ!!)


 「生きて、もう一度ロウに合う。それで──誉めて貰う…」

 「へっ…。じゃあ俺も旦那に誉めて貰えるように、生き残ってやりますよ!!」


 お互い、脳裏に浮かべているのは同じ人物。

 いや、「人」という枠には収まらない強者──そう、別に倒さなくてもいい。あの銀狼が異変を察知し救援にくるまで耐えればいい。

 彼なら、目の前の化け物も必ず倒してくれる。


 「…わかりました。もはや手加減はしません。

はやく任務を終わらせて、お兄さまを探さなくては………」

 

 再び膨れ上がる殺意。

 こうして、逃げるタメでは無い。

 アレを倒すタメのケビンとフィリの遅滞戦闘が幕を開けた。

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