030 ~新たな旅立ち・後~
前半 フィリ視点です。
遡ること数時間前…。
◆◆◆◆
ロウは、里の浄化を終えると自室に戻ってすぐに寝てしまった。
それはもう、泥のように。
うん。ロウは頑張った。
対して、私は全く寝付けない。
昼間、呪いの影響でずっと寝たきりだったことも原因の一つだろうけど、一番はやっぱり……。
──ロウ…。
私の恩人でもあり、友達でもある1匹の魔獣─本人が言うには元人間らしい─のことが頭から離れないから、目を閉じても脳裏に浮かび上がる彼の姿に鼓動が早くなって寝付けない。
昨日まではこんなことはなかった。
というか、寝れないなんて初めてだ。
原因は分かってる。
こうなったのは、あの言葉を聞いてから。
呪いが解け、意識が戻った時に聞こえてきた言葉。
──『フィリのことは俺が責任を取って、一生守り続ける』
”一生守り続ける”…。
昔、姉さんから聞いた事があった。
私の父さんはそう言って母さんにプロポーズしたと…。
つまり、ロウは私にプロポーズした?
それって……私とロウが結婚?
「…ん~~~!!」
自分の脳裏に浮かんだ考えが恥ずかしすぎて、思わず枕に顔を埋める。
何考えてる、私。
落ち着け、私。
私はクールな大人。
そう、大人。
……大人?
姉さんに聞いたことがある。
大人は子供を授かる為にある儀式をすると。
ということは、ロウとあんな事やこんな事を……!!
「アホ! 私のアホ!」
沖に揚がった魚の如く、ベッドの上で跳ねまくる。
おのれ、姉さんめ。
死してなお、私を翻弄するか…。
多少落ち着いたところで、寝返りを打って仰向けになり天井を見る。
以前、頭に浮かびあがるのはロウの事。
あの日──
私がロウと森の中で出会ってから、毎日が楽しくなった。
ロウの背中に乗っての散歩。(ひんやりしてて気持ちいい)
ロウが語り聞かせてくれる、冒険物語(鬼退治とかリュウグウジョウ? とか)
初めての野宿に、強大な敵との戦闘。
勿論、悲しい事もあった。
でも、姉さんの事を乗り越えれたのも、ロウが居てくれたから。
ロウは、私にたくさんの”初めて”をくれた。
初めて、この目の事を誉められた。
初めて、〈忌み子〉の事を知っても普通に接してくれた。
初めて、友達になってくれた。
初めて、心の底から笑えた。
初めて、声を上げて泣けた。
初めて、
初めて……。
この胸の”ぽかぽか”も、初めて…。
ああ、姉さん。
やっぱり、これが──
徐々に微睡む意識の中で、ノックの音が響く。
──コンコン
……もうすぐ寝れそうだったのに。
多少、気分を害しながらベッドを降りて、ドアを開ける。
「…ガーゴ?」
ドアを開けた先にはガーゴが…。
ロウが寝る前に少し話をしてたけど…なんの用だろう?
「フィリ。突然だが、明日ロウが里を出ることになった」
……え?
「この事は、ロウには口止めされてる。勿論お前にもだ」
嘘? なんで?
頭が真っ白になる。
「だが、俺はお前に伝えた。何でか分かるか?」
首を横に振る。
言葉は出なかった。
ガーゴは、”フッ”と表情を崩すとこう言った。
「お前には、幸せになって欲しいんだよ」
「幸せ?」
「ああ、世界は広い。スフィアの見れなかった景色がこの世界には五万とある。だから、あいつに──ロウについて行け。あいつの傍で、世界を見てこい。ってのは口実で、ホントはあいつの傍で笑ってるお前の顔を、もう一度見てえからなんだけどよ」
「ガーゴ…」
物心ついた時、既にガーゴはこの里にいた。
生まれたばかりだった私を、里の人達から必死で守って育てておくれた。
だから、私に取ってガーゴはお父さんだ。
「はっ。なーに泣いてんだよ? フィリ」
いつの間にか、頬を温かいものが流れていた。
いけない。
泣くな、私。
「だ、だって…」
頭に、ガーゴの重くてゴツゴツした手が乗る。
「別に、今世最期の別れじゃねえんだ。また、気が向いたら戻ってきたらいいさ」
「……ん」
顔を上げる。
今なら──
「行ってきます。お父さん」
とびっきりの笑顔。
まだロウ以外にしたことはなかったけど、今なら出来る。
ガーゴには見せたかった。
そう思った。
一瞬、豆鉄砲を喰らったような顔を浮かべたガーゴ。
そして、
「おう!! 行ってこい!!」
とびっきりの笑顔で返してくれた。
お互いに笑い合いながら、別れを告げる。
私は、部屋を飛び出した。
◆◆◆◆
俺は、目の前に立ちはだかる小さな少女を見る。
──どうして、ここにフィリが?
俺の出立とその時刻はガーさんにしか伝えてねえ。
「どうして?」
フィリが近づいてくる。
『え?』
涙を拭って、真っ直ぐに俺を見る。
その顔をよく見ればクマが見てとれ、ここで俺を昨日の夜から待ち伏せていたのが分かる。
どっから情報が漏れた!?
「ガーゴから聞いた。どうして、私を置いていこうとした?」
やっぱガーさんなのか!
チクりやがったな!!
クソ、文句はまた今度言うとして、今はフィリを説得しねえと。
『あ、ああ、それはだな…。聞いてくれ、フィリ。憶測だが、俺の旅は危険な物になると思う。とても、危険な旅だ。命だって失うかも知れない。だから──』
俺の説明(途中だが)に、フィリが立ち止まる。
わかってくれたか?
「だから、置いてこうとした?」
静かな言葉をポトリと落とす。
…僅かに怒気を孕んでいるのは気のせいか?
『お、おう。それに、フィリもこの里で暮らした方が幸せ──』
「ふざけないで!!」
『っ!!』
一歩、フィリが足を踏み出す。
「私の幸せ、勝手に決めないで」
また一歩、距離が近づく。
「危険? 何それ、私なら余裕」
今度は二歩、もうフィリは目と鼻の先だ。
『でも──』
「それに!!」
手を伸ばせば、フィリの頭を触れる。
そんな距離。
ゆっくりと顔を上げて言った。
「一生、守り続けるって言った!!」
『うっ!!』
俺が、エルシアに向けて放った言葉、聞こえてたのかよ…。
「あれは、嘘?」
『嘘じゃねえ! 俺はお前を守る。だから、危険な場所には──』
「じゃあ、ちゃんと守って!」
フィリが両手を伸ばす。
「私、嬉しかった。守るって言われて…」
フィリの手が、俺の頬へ添えられる。
『お、おい!?』
徐々に、フィリの顔が近づいてくる。
「ちゃんと、言う。私は──」
『ちょ! フィリ!?』
──コツン
お互いのおでこが、軽く触れあった。
そして、
「ロウが好き」
え、な、ちょ、お前!
や、やべえ。
これって、告白なのか?
そうなのか!?
てか、俺、狼だけど!?
マジで!?
マジなのか!?
「だから──」
俺がパニクってる間、華麗な身のこなしで、背中へ跳び乗り、小さな体を精一杯伸ばして、俺の胴へしがみつくフィリ。
「私を、一緒に連れてって!!」
一瞬遅れて我に返る俺。
『って!! だ、ダメだ! 連れて行くわけにはいかねえ! 降りろ!』
体を揺らすがビクともしない。
「いや! 連れてって! 頷くまで、離さない」
『降りろ!』
「いや! 連れてって!」
『ダーメだ! 降りろー!』
「ん~。連れてけー!」
『降りろー!!!』
「連れ…てってよ…グスッ……」
『・・・』
◆◆◆◆
鬱蒼とした森の中をゆっくりと歩く俺。
里を出たのが四時間ぐらい前、そろそろお昼時だ。
背中では、気持ちよさそうにフィリが眠ってる。
…いや、仕方ねえじゃん。
俺、女の子の涙に弱えんだよ。
泣かれたらダメだよ。
マジで。
あれ? なんか既視感を感じる。
前にこんなことがあったような……。
まあ、いいか。
俺は、首を回して背中を見やる。
「…ムニャ…ろーう~…」
本当に気持ちよさそうに寝てるな。
寝言で自分の名前が出るのは、なんかむず痒い。
まあ、なんだ後悔はしてない。
この寝顔をもう一度見られただけでも、連れてきて良かったと思える。
よくよく考えれば、俺が一人旅なんて出来るわけねえわ。
え? だって寂しいじゃん。
ホームシックになるわ。
…ジョーダンだよ。
フィリはなにがあっても必ず守る。
こうして、俺はエルフの少女と供に、新たな目的地〖アルデンス王国〗へ向けて歩み始めたのだった。
──数奇な運命はいつも突然に。
本編 一章はこれで終わりです!
いや~。やっとここまでこぎ着けましたー
次回 閑話入ります。
三橋君達の話ではありませんよ。




