018 ~俺、唯一の肉親に思いを馳せます~
ブクマ50件!!ありがとうございますw
めっちゃ嬉しいですw
これからも頑張りますw
結局、俺はフィリに里のエルフ達との関係を聞くことが出来なかった。
だって、普段感情をほとんど表に出さない奴が、あそこまで露骨に俺の質問を嫌がったんだ。
そこで、”ええ、いいいじゃん。教えてよー”なんて聞ける図太い精神力を、生憎俺は持ち合わせちゃいない。
あれから、フィリは俺の背中に突っ伏して微動だにしない。
周りの視線がだいぶこたえたみたいだ。
彼女の周りに突き刺さった視線が、今になって重りのように感じる。
気持ち的に、俺の足も重くなってくる
それがどんどん重くなって、立ち止まりたくなったとき、前を歩いていたガーさんが言った。
「あの家だ、今日はあそこで厄介になるぞ」
その家は里の真ん中に建っていた。
他の家に比べて、外装はまだ幾分かましで、大きい。
屋敷と言ってもよかった。
ドアや窓はしっかり付いてるし、壁や天井も腐ってはない。
『厄介になる? なあ、休まねぇとダメなのはわかるんだが……その────大丈夫なのか?』
俺はフィリのいる背中へ首を傾け、視線で訴える。
─────フィリが泊まっても大丈夫なのか?
と。
ガーさんは、首を縦に振って言った。
「この家の住人は、この里の長でフィリの肉親だ。この世界で唯一の……な」
そうか、唯一の肉親……か。
ただでさえ重くなっていた足が更に重くなった気がする。
「さ、中に入るぞ」
重くなった雰囲気を変えようと、努めて明るく振る舞い、家の中へ入って行くガーさん。
そういう気遣いができるのはスゲーと思う。
ほんとにこの人、魔物なのか?
『ああ、そうだな』
短く返事をして家の中に入る。
俺の体は、大きいと言っても大人一人と変わらない大きさなので、ドアは余裕でくぐれた。
「こっちだ、付いてきてくれ」
ガーさんの後を追って家の中をしばらく進む。
沢山部屋の扉があったが、そのどれもが埃をかぶっている。
入ったとき、目に付いた椅子やテーブルも、ここ最近使われた形跡がなかった。
驚くほどに、生活の跡がみられない。
そして、一つの扉の前で立ち止まる。
「スフィア。いるか? フィリが帰ってきた、あと客人もいる。」
それから、中でゴソゴソと音がした後、「どうぞ」と声がかかる。
綺麗な声だった。
ギィイ。
それを聞いたガーさんが、扉を開く。
「 姉さん 」
同時に、フィリが背中から降りて、とてとてと小走りで部屋の中に入る。
なんだか、預かってた子供が親元に帰ったときみたいな寂しさを覚えるな。
そんなことを思いながら、ガーさんの後に続いて部屋に入る。
寂しい部屋だった。
置いてある家具は、ベッドのみ。
それ以外の物は何もない。
そして、唯一置いてあるベッドの上には、一人の女性とその女性に抱き付いているフィリがいた。
「お帰りなさい。ガーゴ、それとフィリ、お姉ちゃんとっても心配したのよ?」
「ごめん」
「わかればいいの」
あの女性が、この里の長でフィリの唯一の家族か……。
流れるような金髪に、フィリに似て、スッとした目鼻立ちをしている。
エメラルドグリーンの優しげな目や、豊かに実った双丘が、不思議な包容力を醸し出している。
女性がこちらを向く。
「えっと……あなたがお客さんかしら?」
「ああ、こいつは幻狼のロウだ」
俺の変わりにガーさんが紹介してくれる。
ゴブリンに襲われていたフィリを俺が助けたこと。
ガーさんと森の中で一悶着あったこと。
俺が放浪の旅の途中で、わけあって”木の実”探しを手伝うことになったこと等。
全てを聞いた里の長は、改めてこちらを向いて言った。
「ロウさん。ありがとう。あなたがいなければこの子は今頃……。 本当にありがとう。あ、そういえばまだ私のことを話してませんでしたね。私は、フィリの姉で”スフィア”といいます。 成り行きで里の長をやっています。宜しくお願いしますね♪」
フィリと違って感情表現が豊かな人だな。
ほんとにフィリの姉なのか?
胸の発達加減も違───って怖!! フィリ!
なんで睨む! お前心の声って読めたっけ!?
スフィアの膝の上からこちらを睨みつけるフィリに若干ビビりつつ、返事を返す。
『おう、こちらこそ宜しく頼むな!』
「はい、ではお部屋に案内しますね。ガーゴ、ロウさんを2階のお部屋へ連れてってあげて」
「よしわかった。ロウ、こっちだ。着いてこい」
「私も行く」
「ダーメ、フィリは今からお説教だから」
「そんな! 鬼畜!!」
後ろから聞こえるフィリの抗議の声を聞きながら、ガーさんに付いて部屋をでた。
◆◆◆◆
夜、俺は一人あてがわれた部屋で、昼間の光景を思い出していた。
────”唯一の肉親”か。
フィリにとって唯一の肉親である、スフィア。
二人の親がどうなったとか、そんなことは考えたりしない。
ただ、彼女とフィリのやり取りをみた時、俺の脳裏にはこの世界にいるであろう、双子の妹”真”の姿が浮かんだ。
真は、俺にとって”唯一の肉親”だ。
そう、唯一の。
俺と真は、孤児だった。
5才の頃に山に捨てられた。
理由は単純明快。
俺の髪が銀色だったから。
真の瞳が紅色だったから。
生物は自分とは違うものに恐怖し、怖れる。
俺たちは動物でいう突然変異体だ。
体の色や構造が違うってだけで親から育児放棄される。
恐怖の対象で当たり前、育児放棄されて当たり前だ。
別に親のことを恨んでるわけじゃない。
人間も動物の枠の一部恐れるのは仕方ない。
それに、柊家に巡り会えたのも捨てられたおかげだしな
まあ、柊家にお世話になってるのはそういう理由。
山の中でしばらく暮らしてて、偶然山道を通りかかった柊家の人に保護して貰った。
養子みたいなもんだな。(めんどいから戸籍は弄ってない)
それから、俺と真は常に一緒にいた。
お互い、唯一の肉親に依存してたんだと思う。
柊と遊ぶ時も。
稽古を受けるときも。
お風呂に入るときも。
おかげで門下生からは〈双子の天使〉って呼ばれてたっけな。
今、思うとめっちゃ恥ずかしいな。
それが中学を境に、真が急によそよそしくなった。
「お兄ちゃん」呼びを「兄さん」呼びにしたり、手を繋がなくなったり、同じ部屋なのを嫌がったり、兄弟じゃなくて、他人として接する形になっていた。
思春期ってこともあるだろうが、
俺は思ったな。
”肉親に依存する時期は終わりなんだ”って。
もうあいつの中の時間はとっくに進んでて、捨てられたことも自分の中で整理が付いたんだろうって。
それからは俺も真に構うことはなくなっていった。
そして、徐々に互いの、兄妹の溝は深まっていった。
ここ数年はお互いに言葉を交わしていない。
顔を合わせるのも学校でだった。
それでも構わなかった。
でも、こっちの世界に来て、唯一の肉親とも離れ離れになって、無性に真に会いたかった。
会って話がしてえな。
あいつ、今頃何してんのかなぁ。
部屋に光が差し込んでくる。
窓を開けて上を見上げれば、大きな月が出ていた。
夜になって気づいたことだが、この里の上には枝葉が茂っていない。
そのため、こうやって空をみれば、月を拝むことが出来る。
まさか、こっちの世界で初めてみる月がエルフの里からなんて思いもしなかった。
真も、どこかでこうやって同じ月を見てんのかな?
──コンコン
扉をたたく音がした。
『空いてるぞー』
そう言ってやると、しばらくの沈黙の後、ノックの主が部屋へ入ってくる。
「こんばんは。いい月夜ですね」
──────────スフィアだった