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元転移者の望むもの

作者: 余田 利田

いつも道理の日々が始まるまずだった。


「・・・え?」


目が覚めたら知らない草原にいた。なんとなく癒された。これは夢だ、癒されたいという願望から見た夢だと思い、もう一度眼を閉じた。

いつになってもこの景色が変わることはなかった。


「えっなに、ここどこ?」


流石に現実だと気付き、まず出た声はこれだった。



「・・・夢か。」


カーテンの隙間から太陽の光が漏れ、ちょうど目のところに当たる。眩しいので、布団から起き上がり、カーテンを閉め、二度寝しようとした。しかし、偶然見えた時計が少しおかしかった。


08:27

見間違いかと思い、もう一度よく見る。


08:27


見間違いではなかった。朝学活の時間は8時30からであり、学校までどんなに急いでも『普通』なら10分はかかる。


「ヤバッ、完全に遅刻だ!」


布団の近くに掛けてある制服を掴み、慌ただしく階段を飛び降りた。



「出席とるぞー、赤井」


8時30分、いつものように担任の教師が名簿の1番から順番に名前を呼んでいく。


「吉田・・・は欠席か?誰か連絡入ってないか?」


担任は生徒たちに聞くが、誰もなにも言わない。


「吉田は欠せ」

「セーーーーーーフ!」


突然教室の扉が開き、ガタンと音をたてながら1人の少年が入ってきた。


「アウトだ」

「そんなっ!」


担任は無慈悲な判断を下す。生徒たちから笑い声が上がる。


「いや、ちゃんとした理由があれば聞くぞ?」

「寝坊はちゃんとした理由に入りますか?」

「入るわけないだろ!」


吉田大輔遅刻と担任は名簿に書き入れる。少年、吉田大輔はとぼとぼと自分の席に向かう。


「欠席なし、遅刻1と。連絡は特にない。」


日直が号令を掛け、朝学活が終わる。


「大輔、残念だったな。」

「流石に寝坊は無理だろ。」


周りの友人たちから慰めと呆れの声が掛かる。


「いや、あれはセーフだろ!終わる前にきたからな。」

「「アウトだよ。」」


ついに慰めすれなくなった。なんか悲しい。これが吉田大輔の日常である。



突然だが、吉田大輔は元転移者である。朝、目が覚めたら異世界にとばされていたのだ。

気がついたら知らない場所にいた。ネットなどでよくある話だか、実際に体験してみるととても不安になった。もう少し落ち着けよなどと笑いながら読んでいた自分を殴りたい。持ち物は着ているジャージとポケットに入っていた洗濯されたティッシュ。人が通りかからなかったら死んでいただろう。

幸いにも言葉は通じたし、硬貨の価値もネット小説などと同じだった。助けてくれた人にお礼をいい、アドバイス通りに冒険者ギルドへ行った。この時、多分浮かれていた。自分になにか特別な力が有るのかもしれないと。ギルドに登録し、一番簡単だという薬草の採集の依頼を受けた。舐めていた。図鑑を貸してもらったが、全く見分けがつかない。とにかくそれっぽいのを採ってギルドへ帰った。7割違っていた。ギルドで戦闘指導を受けた。一番ダメだった。自分より年下の子にすら負けた。そのあとステータス測定があった。特別な力などなかった。それだけならまだしも、知力以外は全て平均いかだった。

それからは生きるのに必死だった。朝早く起き、ギルドで依頼を受ける。そしてその日の稼ぎで宿に止まる。これで精一杯だった。



ある時、ギルドで先輩から誘いを受けた。強面のオッサンたちだったので、新人狩りかと身構えたが、どうやらギルドの方から手伝ってやってほしいと頼まれたらしい。それから1週間、薬草の見分けかたのコツ、剣の振り方、魔物との戦いかた、そして、命を奪う恐怖を教わった。吐いた。ただの魔物と思っていたが関係なかった。誰もが一度は通る道だと言っていたが、刺激が強すぎた。次の日はなにもやる気が起きなかった。しかし、生き残るために仕事をするしかなかった。1日サボったことを先輩に謝った。先輩は、


「目標を持て。」


と言った。目標を持たない者は強くなれない。先輩も昔言われたらしい。



そして2年後、ギルドで中堅クラスの冒険者になっていた。まあまあ早い方らしい。あのあといろんな人と出会った。そのなかでも魔法使いの老人 後々の師匠 とあったとき、いきなり


「弟子になってみんか?」


と声を掛けられた。魔法に興味もあったので即答した。後から分かったことだが、どうやらこの世界の魔法は無属性魔法と火、水、風、土の属性魔法に分かれているらしい。師匠は無属性魔法の使い手で、今の時代は使い手が減ってきてるらしい。地味だというのが嫌なそうだ。魔法を習い初めてから半年がたった頃。やっと一つ魔法を覚えた。


『跳躍』


ただ高く跳ぶことができるようになる魔法だ。

しかし、初めて使えたときはとても感動した。それからは早かった。一つ、また一つと使える魔法が増えていった。

そうして自分に自信が持てるようになり、ステータスも順調に上がっていた。いつの間にかギルドランクも上がり、一流冒険者と呼ばれるようになった。

元の世界のことも忘れかけていた。もうこの世界で暮らそうとも思っていた。しかし次の日目が覚めると懐かしい天井が広がっていた。



転移した日は覚えてないが、時間はたっていないようだった。夢オチかと思ったが、力はそのままで魔法も使うことができた。しかし、向こうの世界での人達の顔が、うまく思い出せなかった。

元の世界の友人たちの顔ははっきりと覚えていた。向こうの世界では忘れていたのに。考えても仕方がないので、普通に日常を送ろうとした。しかし、いつもの癖で気を張りながら歩いたり、周りの気配を感じたりしていたら、変人だと言われていた。

何より困ったのは身体能力である。向こうの世界で得た力は、この世界では強すぎた。自動車より早く走れ、普通のジャンプで2階建ての家の屋根まで跳ぶことができる。この事がばれたら周りからは化け物かモルモットにしか見られないだろう。力を抑えるため、自分に封印魔法を掛けた

今日のように遅刻しそうなときには封印を解き、ばれないように力を使ったりしている。別にこの力を使って、人を助けたり、悪事を働いたりするつもりはない。ただ、平穏な暮らしを送りたいだけなのだ。



昼休みはいつも1人で屋上にいる。ボッチではない。昼食は静かに食べるという自分なりのこだわり。そして思い出す。向こうの世界での出来事を。異世界にとばされて困っている時、見ず知らずの自分を助けてくれた人。戦闘技術や依頼達成のコツを叩き込んでくれた先輩方、魔法を教えてくれた師匠、戦った魔物など全て覚えている。しかし、顔や声などが思い出せない。なにも言えずに戻ってきてしまったことが悔しい。向こうではどうなっているんだろうか。時間は進んでいるのか。それともこの世界よりも早く進んでいるのか。

この世界は安全だ。魔物もいなければ、武器を持ち歩いている人すらいない。異世界にとばされて気がついたいつも同じように生きていることの幸せ。少し向こうの世界が恋しいけど、


「大輔発見!」

「購買行こーぜ!」


今、この日常を、笑って暮らせる幸せを


「いいけど、奢らないからな」

「「げっ」」


大事にしながら、普通に生きていきたい。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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