夜の食國~参~
恐ろしく遅くなりました。申し訳ないです、色々とありまして…。
至らない点は多いと思いますが大目に見てやってください…暇潰し程度に読んでいただけると幸いです!
※BL要素等含むので苦手な方はお戻りを…!
「正直に申せ。・・・其方、一体彼奴に何をしたというのだ。」
「・・・・・・『何を』、とは?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・しらばっくれるでないわ!!」
私が何となしに天津甕星を抱き寄せるという全く持って意味不明な行動を起こし、しかもそれをまた気味悪がられたりするでもなく怖がられてしまうという最悪な結果に至ってしまった、その明くる日の事であった。
私が今居る場所はというと、自分の住まう屋敷からはそれほど遠くもない、武御雷の屋敷の一室である。
静かな、青空が天に広がる昼時。武御雷の怒鳴り声が屋敷中に響き渡った。
「・・・何をしらばっくれれば良いのかも判らないのだが・・・?」
「・・・そうだな済まん。儂が其方を見縊っておっただけの事・・・判らずともおかしくない・・・」
「頼む、本当に教えてくれ。全く判らぬ。」
尋常じゃない武御雷の様子についていけなくなり、私は身を乗り出して言った。
「昨日・・・儂は其方に天津甕星の夕餉を運んで貰った。流石にそれは憶えているだろう?」
「あぁ。」
そのことを忘れていたのだとしたら、それはもう病気か何かだろう。
私の返事を確認し、武御雷は続ける。
「そしてその後、其方、天津が箸を取ったのを見たか?」
「否・・・それは見ていなかった。済まん。」
「そうか・・・まぁ良い。それはそれとしてだな・・・率直に尋ねよう。・・・其方、天津甕星に何をした?」
「・・・へ!?」
思わず可笑しな返事を返してしまった。
冷や汗がどっと噴き出すような感覚に襲われる。
何故そんな質問を武御雷が私に投げかけてきたのか。まさかとは思うが、誰かに見られていたという事か?そうなのだとしたら、武御雷の事だ。直ぐにその情報を摑むだろう。
否、そうではなく天津甕星自身がそのことを武御雷の近臣だとか、その辺りの者に伝えたという可能性も否めないだろう。
・・・何方にせよ、私はもう駄目だ。如何言い訳したものか・・・。
「・・・よみ、月読!聞いておるのか?」
「ん・・・?」
「おぉ・・・大丈夫か?」
「否、大丈夫だ、大丈夫じゃない・・・」
「は?」
「何でもない。」
「あー・・・・・・じゃない!」
よく判らない会話を繰り返した後、武御雷は本題について思い出したように声を上げた。
「その答え方は明らかに怪しいだろう!何をした、吐け!」
「え、えぇー・・・いや・・・」
もういっそこの男にだけでも明かしてしまおうか。・・・待て、こんな性格のねじ曲がった男だ。他の者に言いふらしたりでもされればきっと姉上の元にも伝わって地位も格段に落とされてしまうのでは?そうなってしまったとしたら私の事だ。そこからまた成果を上げ元の地位に這い上がることなど不可能だろう。それならば一体如何すれば・・・
「おい。」
「・・・・・・・抱いた」
「は・・・・・・・・・はあぁ!?お、お前何時からそんな・・・そういう趣味だったか!?」
「え・・・?私が何か言ったか?」
「とうとうおかしくなったか・・・いやどう考えても言っただろう、その口で。・・・天津甕星を抱いたと。」
・・・え、えぇっと?それは如何いう・・・だ、抱いた!?
「ち・・・違うそういう意味ではない!!」
「なら、如何なる意味だ。」
「だから、その・・・」
意識もせずに一体何を口走ったのだ、私は・・・!とにかく、こ奴の考えている言葉の意味を覆すには・・・あれ、どう説明すれば良い?
「えっと・・・こう・・・こういう!」
私は有無を言わさず、武御雷に抱き付いてやった。そう、天津甕星にしたように・・・
途端、飛んできたのは拳だった。しかもそれは私の脇腹辺りを強く殴打した。大分、強く。
「いっつ・・・!」
「・・・舐めておるのか」
「その言葉をそっくり其方に返してやる・・・」
「おう、そうだな。舐めている。」
「・・・慈悲という言葉を知っているか?」
「当たり前だ。其方には必要ないのだという事も重々承知しておる。」
「そうか・・・それはまあ、残念だ・・・。」
本当に。少しぐらい、優しい心根の一つでも私に見せてくれないだろうか。いや、これは私にだけか・・・。あぁ、まだ殴られたところが痛い。
「それにしても、だ。先程も問うたが、其方、何時から男好きになった?まさか、儂の事もそういう目で見ていたと何ぞ言ったら、もう二発だ。」
うずくまる私を覗き見るように、彼は屈みこみ、再度、そう語りかけてきた。
「それは、勘弁してほしいところだな・・・。」
「ははは、冗談だ。一度も、其方が儂をそのような目で見てきたようなことなど、無いわ。で、今回の件については?」
「・・・御理解、感謝しよう。只、今回、この事については、その・・・・・・判らない。」
「『判らない』?それは、天津に気があるのやもしれぬ、という事か?」
「否・・・それは・・・違う、と思いたい。」
そうだ、それは無いだろうし、あってはならない。
それを聞いて、武御雷は、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「曖昧な・・・其方は昔から、そうだな。曖昧だ。直ぐそうやって、言葉を濁す。」
「・・・癖、だろうな。自分でそう言うのもなんだが。」
「判っている。それと、直ぐに謝るところもな。・・・それで、どっちだ?はっきりと答えよ。これは儂の今度の事にも関わる。」
「は?何か、あるのか。」
「其方が答えてから言おう。」
「はぁ。」
天津甕星に気があるか否か、か・・・。そんな事、そう真剣に悩んだ処で、もう別に答えなど決まっているのだから良いではないか。そのようなもの・・・
「・・・無いに、決まっているだろう。男神であるうえ、あの者は囚人なのだから。誰も許しはくれないだろうに。」
「・・・許しがもらえれば、良いのか?」
「それが・・・判らぬのだ。」
辺りに静寂が広がった。数秒の間であったのだろうが、妙に、長く感じられた。
その間、何か考え付いたのか、武御雷はその口元を面白そうに歪めて見せた。
「良いではないか。禁じられた恋など、面白い。」
「そうか?そういった話は傍から見ているだけで十分だと、私は思うが。」
「感性の違いだな。其方はつまらん。」
「面白味など求めておらぬ故、それで良いよ。」
正直、今までこうして生きてきた中で、特別面白く感じるようなことなど無かったような気がする。まぁ、そんなような気がするだけであって、実際は他の者が聞いたり見たりすれば『これでつまらないなどと、何を贅沢な』と思わざるを得ないような事もあったのやもしれない。数えきれない日々の中で、埋もれていった思い出も少なくはないだろう。只、私はそれはそれで良いと考えているのだが。こんな自由も上手く利かない場所で生まれ育ったからこその幸せもあるのだろう。それを、全うすべきだ。それが自身に与えられた使命なのだから。
「・・・其方が考えていることを当ててやろうか。」
と、不意に立ち上がり、武御雷が言った。
「『生まれが生まれなのだから仕方がない』、と思ってるだろう。」
顔を上げる。何時もと変わらない意地の悪そうな笑みを浮かべ、彼はそこに立っていた。
「あ・・・」
「それは本当につまらんな。何時まで続くかも判らぬ生を自由に使う事さえ出来ないのか、其方は。話は変わるがな、天津甕星についてもそうだ。其方が彼奴に置いているのは同情だろう?・・・可哀相にな、あの男も。其方のような恵まれた生まれの者に情けを掛けられたところで、虚しいだけだろうに。」
私に口を挟む隙すら与えず、彼は言った。そして何も言えずにいる私を見据えるようにしながら続けた。
「あの男はな、自分のしたいことを自ら選び抜いた結果、ああなったのだ。誰に指示されたでもなく、当人の意思で、今、その場所にいるのだろう。・・・まぁ、本人が望んだような結果になったとは言いにくいがな。」
「・・・・・・その、通りだ。誠に・・・其方が居てくれて、嬉しい。良かったよ。」
私は立ち上がり、彼の方を改めて見た。
あぁ、本当に、良い友人と出会えたものだ。心の底から、良かったと思えた。
「はは・・・三貴子様からそのような言葉を頂けるなど、光栄だな。」
「そのような事、思っても居ないのだろう?」
「それは心外だな。・・・その通りだが。」
「全く・・・」
ふっと笑いが漏れた。それは武御雷の方もまた同じで、私たちは悪戯を成功させた子供のように笑いあったのだった。
「と、いう訳で、だ。」
一頻り笑い終えた後で、武御雷が言った。
「あの者の世話の一切合切を其方に任せよう。」
「・・・は?」
一瞬、思考が停止した。
少しばかり・・・というか大分、彼の言ったことについて理解が及ばないのだが。何と言ったのだ?『あの者の世話の一切合切を任せる』?私にか?いや待て、第一・・・
「『あの者』、とは・・・?」
「はぁ・・・全く、しらばっくれるな。面白くない。」
「いや、だから本当に誰・・・」
「天津甕星に決まっているだろうが。それ以外に思い当たるのか?」
「は!?いや・・・いやいやいや待て。それにはまず許可を頂かねばならぬだろう。」
「ん?許可など、もう貰ったが?」
平然とそう言う彼に対して、何だかもう言葉が出てこなかった。
無駄に行動が速い男だなと、只、そう思った。本当に、無駄なまでに。
「いや、昨日其方が居なくなった後に天津甕星の処に行ったのだが・・・彼奴に其方の事を聞いてやると、あからさまに嫌そうな顔をしてな。これは面白そうだと思った次第だ。」
「あぁぁ・・・」
堅そうに見えて割と素直なのだろうな・・・天津甕星は。おかげで此方は倒れる寸前だ。
「・・・と、言う事は、最初のあれも演技だったのか?」
「あ?あぁ、少しからかってみたくなってな。何をしたのかも気になるところであったし・・・まぁ、其方が天津を抱いた何ぞと言いおったことには驚いたが。」
「だっ・・・だからそれは!」
「ああ、判った判った。」
面倒そうに手をひらひらとさせ乍ら、彼は背を向け歩き出そうとする。
「・・・待て」
「ん、今度はなんだ?」
「いや、先程言っていただろう。『儂の今後に関わる』、とか。何があるのだ、一体。」
「そんな事・・・別に大したことでもないわ。少しばかり、話したい相手が居ってな。」
「・・・そんな理由の為に、私に仕事を押し付けたのか?」
「『そんな理由』ではないわ。話すと言っても、只駄弁を弄する訳では無い。相手も相手じゃ・・・」
「御偉方と話でも?」
「いいや。其方がこれから相手にする者と同じ様な立場の者だ。」
「天津甕星と、か?・・・・・・あぁ」
これはすぐに思い当たった。
名は何といったか憶えていないが、確か天津甕星の弟の・・・いや、正しくは従兄弟だったか。つまり、天津の血縁者だ。唯一の、身内である。その者もまた同じように囚われている、という訳か・・・。
「その者と何を話すと言うのだ?えぇと・・・名は何だったか」
「天光、だ。本名は、天豊満。何が如何してそうなったかは、知った事では無いがな・・・只なぁ、此方もまた何も話さないわ目も合わせようとしないわで大変なんだと。お前なら如何にかできるだろう、と建御名方に押し付けられてな。ははは、まぁ、其方も儂も同じような境遇に立たされているという訳だ。」
然も楽しそうに、武御雷はそう話した。
「はぁ・・・それで?私は何をすれば良い?」
「ああ、そうだったな。まぁ、後で話そう。生憎これから用事があるのでな。大したことではないと思うが・・・その間に、口説き文句の一つでも考えておくんだな。」
「・・・宜しく頼む。」
『口説き文句』、か・・・何を言えば天津甕星は此方に興味を示してくれるだろうか。勿論、変な意味ではなく。『此処は如何ですか、暮らしていた処とは異なりますか』とか『どんなものが好きですか』とかか?そもそも『口説く』というのはそんな感じで良いのか?いや、まず『口説く』というのは何かおかしくないか?それは女に対してするものではなかったか?・・・あ、からかわれていたのか、私は。
此方に背を向け去っていく武御雷を目で追いながら、私はやっとそんな下らないことに気付いたのだった。
「『其方が居てくれて嬉しい』、か・・・」
・・・また、随分と嬉しいことを言ってくれるではないか。自然と口角が上がってしまう。
只、あの男の事だ。そのような事、誰にでも言うのだろうな。
広い空を仰ぎ見た。思わず溜息が漏れる。何度目、だろうか。そう悲観的になっても仕方ないだろうに。
・・・誰が創ったのだ、こんな世界。
誰もその疑問に真っ当に答えてはくれなかった。疑問を其の儘投げかけた訳では無いのだから、そう愚痴を言っても仕方ないのだが。
兎に角、これからは面倒なことが多くなりそうだ。全く・・・
「忙しくなるな・・・」
とりあえず、あの方の元へ行かねばならない。今、自分にとって大切なのは現実を受け止める事だけなのだ。
なかなか進みませんね、ごめんなさい。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。とっても嬉しいです!(*^_^*)
ちなみに作中に出てきた武御名方(たけみなかた)というのは武御雷と一緒に国つ神達を平定した…みたいな感じの神様です。(間違ってたらすみません)
これからも地道に書いていきたいと思うのでよろしくお願いします!