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夜の食國   作者: 明水華 灯籠
4/6

夜の食國 ~ 壱 ~

 遅れました。やっと一話目が書けました。

「すごいわ、貴方!二神も続けて!こんな!」

「そうだな!やったぞ、お前!なんと輝かしい・・・」

「そうね・・・先に生まれた子よりは少し劣ってしまうかもしれないけど・・・断然!他の神々とは比べ物にならないわ!私の子だもの!!」

「その通りだよ!こんなにも尊いものは他にない!」

 そんな父母、伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冉尊いざなみのみことの二神の会話を、私は苦笑交じりに聞いていた。私が此処に立ってから、二神はずっとこのような調子で、私を褒め、夫を褒め、妻を褒め・・・というのを繰り返している。

 何時になったらこれは終わりを迎えるのだろう・・・。

 私は何となしに、特にこれといった特徴も何もない、今、足を着けているこの場所を見渡した。

 土、草、木、山・・・本当に特徴といった特徴は見つけられない。強いて言えば、隣にある小屋、というには少し大きい気もする建物が、この何もない場所に個性というものを与えているようだった。

 心地よい涼風が頬を掠め、通り過ぎていく。この先何が待ち受けているのかは知る由もない。只青く広がる天を見上げ、何時の間にか止んでいた両親の会話に視線を元に戻す。二神は愛情の籠った暖かい目で此方を見、微笑んでいた。

「父上、母上、私は如何致せば良いのですか。」

 私のその問いに、少しの間を空けた後、父、伊弉諾尊はゆっくりと口を開き、言った。

「月読命。其方そなたは天照大御神と共に天を治めよ。夜の食國を知ろしめせ。」


—————「夜の食國を知ろしめせ」。それが、私、月読命に与えられた最初の使命だ。



「あー、暇じゃ。どこぞに美しい女子おなごでもおらぬかのう!」

 しん、と静まり返った部屋の中、唐突に隣に座る男が大声でそう言った。周りの者達は皆同じように其方そちらを一瞥し、またそれぞれの作業を続ける。悪い意味での一同の注目を浴びたその男だったが、悪びれる素振り一つも見せず、彼は大きく息を吐いた。そんな男の事を、私は肘で軽く小突く。

「・・・せめてもう少し声を抑えたらどうだ、武御雷」

「暇なのだから致し方あるまい。はぁ・・・のう、身分は構わぬ。美人で尚且つ、儂の好みに合った女子はおらぬか?」

「おらぬな。そもそも、私はそういったことには疎いのでな。全くとまではいかないが、其方の好みなど判らん。」

「つまらん男じゃ、全く・・・。それでは、妻の一人も娶れんぞ。でもまぁ、其方も一応は三貴子みはしらのうずのみこの一神。故にそのような事は無いであろうが・・・」

「まともに考えたことは無かったな。」

「・・・矢張りな。」

 隣に座している男———武御雷たけみかづちは、呆れたように、再度息を吐く。

 彼は、私程ではないが地位も格別に高く、高天原最強の武神と謳われる程の神であり、そして、人付き合いの余り良くない私が唯一友人だと言える存在でもあった。正直、統率力や忍耐力等、そういった点では私は彼に負けてしまっている気がしないでもない。

 結局、私は姉上や他の神々のように特別秀でる事も無く、只「三貴子」という生まれた場所に、地位に縋っているだけの愚神なのではないかと考えてしまう事も屡々(しばしば)だ。私はこれで、父上や母上の期待や愛情に、応えられているのだろうか?

「眉間に皺が寄っておるぞ。そこまで悩むことは無いと思うが?」

 武御雷の言葉に、意識が現実へと引き戻される。

「済まん、少しな・・・」

「そう直ぐに謝るな。それ、其方の悪い癖じゃ。」

「そんなに悪いか?」

「そうでもないかもしれぬが・・・せめて儂の前では気を楽にせよ。その方が儂も居心地が良いでな。」

 気を堅くしている心算つもりは無いのだが・・・。そう言おうとしたところで、武御雷は「あ」と口を零した。

「そうじゃ、女の話で思い出した。其方も知っていると思うが、三日前、儂は国つ神共を制するため、地に下ったのじゃ。」

「ああ、そうであったな。それが如何かしたのか?」

 武御雷が従おうとしない国つ神を治めてくるよう、上からの命を受けていたことは私も知っていた。それを見事、武御雷達が制したことも。

「いや、何と言おうか・・・。その、正直に言ってしまえば、もとより儂は、国つ神と呼ばれる神々は矢張り我等よりも底辺にいる者として、それなりに品の無いような、そんなような者ばかりかと思うておったのだ。」

 武御雷の言う通り、天つ神の中には、国つ神をそういった目で見ている者も少なくないのだろう。だからこそ、今回のような事が起こったのではないかと、私はそう考えているのだが。

「・・・それで?」

 なかなか次の言葉を発そうとしない武御雷に、私はそう言って続きを促した。

「いや、な?儂はその国つ神を捕らえてきたのだが・・・」

「そこまでは私も聞いている。確か・・・天津・・・」

「甕星だ。」

「ああ、そうだ。」

 天津甕星あまつみかほし———星の神か。でもそれが一体如何したというのだろう。首を傾げる私に、武御雷は声を小にして続ける。

「・・・その、天津甕星なる神の事なのだがな・・・」

「もう良いだろう、早く言わぬか。」

「・・・すこぶる付きの美人なのだ。」

「・・・・・・は?」

 武御雷の言葉が上手く呑み込めず、私は暫しの間硬直してしまった。何を言っているのだ、此奴は。

 いや、言っていることは間違っていないのかもしれない。只私は、武御雷が如何いった意味で天津甕星を『頗る付きの美人』と称したのかが知りたい。何と言っても、だ。

「天津甕星は・・・男神であろう?」

 私のその問いに、武御雷は躊躇うことなく「ああ。」と答えた。

「・・・流石に私も、其方が男にまで手を出すとは思わなんだ・・・。そうか・・・余り表立ったような事はするな。」

「ああ・・・・・・あ?否、違う!そういう意味で言ったのでは無い!断じて!!」

「・・・そうなのか?」

「当たり前であろうが!其方は儂を、何時もどんな目で見ているのだ!」

「女たらしの、腐れ外道。」

「・・・・・・」

 武御雷がそこまで女好きでは無いという事は私も承知の上だ。普通に冗談で言った一言だったのに、武御雷はまるで裏切られたとでも言うように、酷く落胆した目で此方を見てきた。それには、多少の罪悪感を覚えずにはいられない。

「・・・冗談じゃ。」

「そうでないと困る。もう少しで其方の顔を突っ撥ねるところじゃったわ。」

「それは、私も困るな。」

「・・・まぁ、それはもう良いとしてだな・・・其方に相談?うん、まあ相談があるのだ。」

「はぁ・・・。」

 はっきりとしない武御雷の言葉に、私は溜息にも近い、返事とも言えないような返事を返した。それに対し、武御雷は「なんじゃ、その間の抜けた返事は。」と、口を尖らした。

「兎に角、儂は困っているのだ。」

「何にだ。」

「天津甕星に、だ。・・・成り行きでな、儂は彼の男神の世話係までやらされる事になった・・・それは別に良いのだ。せめてもの償いかもしれぬしな・・・。して、この三日間、上に言われた通りの事をやった。だがな、奴は朝餉にも夕餉にも、全く手を付けようとせん。話し掛けても何も言わない。ずっと上の空だ・・・。まだ、小姓の方がよく話すわ。と言っても、詳しいことについては判らぬと、直ぐに口を噤んでしまうのだが。」

「・・・小姓も、ったのか。」

「ああ。天光、というようじゃ。本名は天豊光あめのとよみつ。」

「そこまで知っているのか。」

「まあ、な。」

 当然だ、と武御雷は言う。そうだ、当然の事だ。そのくらい。普段へらへらとしている彼だったが、自身に与えられた職務は、やりすぎだというくらいきっちりと、完璧にこなしている。

 それなら、私は?

「月読」

「・・・は」

 不意に名を呼ばれ、私は顔を上げた。

「そう憂い顔を浮かべるでない。・・・それも癖のようになっておるわ。止めよ。」

「・・・済まない。」

「だから・・・・・・」

 まだ何か言いたげな武御雷だったが、諦めたように眉間に手をやり息を吐き、再び私の方を見た。

「・・・兎も角。其方、今日この後暇か。」

「ああ、特にすることは・・・」

「ならば、天津に夕餉を持って行ってくれぬか。生憎、儂も他の者も何かしらの用事がある。それに、無駄に御人好しな其方ならば、少しは彼奴も心を許すやもしれんしの。」

「・・・判った。」

「ああ、頼む。月読」

 武御雷はそう言い、笑った。何ら変わりのない、普通の、優しい笑顔だ。

 私も笑みを返した。上手く笑えたかは判らない。しかし、それが今の私にとっての精一杯であることは確かだった。


 これからの事に、何も期待などしていなかった。昨日か今日かも判らないような日々が、只また同じように続いていくのだと、そう思っていた。



 短かった気がします。次はもっと頑張らねば。テスト期間真っ只中です。次も遅れるかもしれません。今回も有り難うございました!

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