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街に行った友人が奴隷を買ったというので手紙をだしてみた



 ダンバルへ



やあ、こうして手紙を書くのは久しぶりだな。モーンから街での君の話を聞いて、つい懐かしくなりこうして筆をとってみた。


君は昔から頭が良かったから、こんな村に収まる器じゃないとは思っていたが、今じゃあ立派な魔法偽師ときたものだ。


君が村を出るときに作ってくれた魔偽水車は、10年経った今でも変わらず動いてくれているよ。

いや、少し異音がするようになったかな。まあ君以外じゃあ誰も手が出せない複雑な作りなものだから、つくづく魔法偽術というのは凄いものだね。


さて、モーンの話で気になった事がある。

なんでも君は奴隷を買ったそうじゃないか。それ自体はどうこう言うつもりは無いよ。街ではそういう文化があると知っているからね。


だが、あまり言いたくはないけど君は少々倫理に欠けている所がある。

奴隷と言えど生命の尊厳はあるはずだ。

僕には君が人体実験のために奴隷を調達したのではないかと不安でならない。


僕の心配が杞憂であるなら問題はないんだけど、もしそうで無ければ忠告させてくれ。


金で買ったといえ、奴隷は君みたいな変わり者の相手をしてくれる代え難い存在だ。

そういった存在をないがしろにする限り、君の孤独が埋まることはないよ。


ゆめゆめ忘れないでおくれ。


    君の友人 タタンタより






 ■ ■ ■ ■ ■ ■





 タタンタへ


我が親愛なる友人タタンタよ。手紙確かに読ませていただいた。

我輩のほうもモーンから君の話はよく聞いている。シュリンと結婚が決まったそうではないか!

おめでとう。式の日取りが決まり次第教えておくれ。何を犠牲にしてでも向かうと、ここに確約しよう!

なあに、あの魔偽水車の様子も気になっていたのだ。あの水車を修理、否、バージョンアップ出来ると思うと興奮覚めやらぬ思いである。

さて、件の奴隷だが、まさしく君の言う通りだ。我輩は人体実験のために購入したのだが、実験の前に君からの手紙を読めたのは幸いと言えよう。

君に言われるまで奴隷の尊厳など失念していたのだ。これは恥すべきことと自戒しよう。魔法偽術とは、まっこと人の為にあるからこそ偽術なのだ。危うく本末転倒とならずに済んだ。感謝する。

考えてみれば奴隷など買わずにホムンクルスを作れば済むのだ。

ホムンクルス作成の前例は皆無だが、我輩であれば成功は充分に可能な範囲だと言える。君のおかげで今年の研究テーマが決まった。実にやりがいがあるテーマだ。やはり持つべきものは慧眼なる友人なのである。

して奴隷は不精な我輩に代わり家事などをして貰っている。これならば家政婦を雇うほうが安くついたと思わないでもない。

    君の友人 ダンバルより





 ■ ■ ■ ■ ■ ■





 ダンバルへ


やあ。奴隷の件は大事なくて安心したよ。

結婚の話は、くそぅ。式が決まってから君を驚かせてやりたかったのに、モーンの奴ときたら口が軽い。


だが君が祝福してくれて純粋に嬉しいよ。式の日取りはモーンが街に行くついでに伝えてもらうつもりだ。

村長にも水車の修理のことは話しておいた。

お前は村の誇りだって騒いでたぜ?

昔は村長に二人揃ってゲンコツされてたのが今じゃあ嘘みたいだよな。


すまない。村の収穫祭の準備で色々と忙しくてね。

手紙はこの辺りにしとくとするよ。


    君の友人 タタンタより





 ■ ■ ■ ■ ■ ■




 タタンタへ


モーンから式の日取りを聞いたので、参加表明も兼ねて返信させていただく。来月のその日は這ってでも行くので、安心して我輩の帰りを期待してくれ給え。

研究結果だが、ホムンクルスは見事完成した。無理だと嘲笑っていた老人どもの驚く顔ときたら傑作であったよ。ただ、予定より完成が早過ぎて、既に当初計画していた人体実験もあらかた試してしまった。しかしながら予算はあらかた使い切ってしまったので今年はあまり贅沢は出来ないな。(研究成果としての褒賞は来年度予算の上乗せにしたからだ)

おっと、君達のご祝儀はもちろん残してあるので安心なされよ。

して、奴隷の話になるのだが、最近は暇が出来たため奴隷とのコミュニケーションを模索している。

名前を教えてなかったな。ヨタルという少女だ。

当初は人体実験準備に監禁していたせいか、酷く我輩に怯えてしまっていてな。一昨日ようやく「おはよう」「お……おは……ま…す……」という会話が成立した。これは目覚しい進歩である。

我輩は親しい友人以外では中々に心を開けぬと自分でも理解しているので、これを期に人との接し方を勉強中なのだ。

わからない事を理解しようと努めるのは純粋に楽しい。そうだ。今日は彼女に服でも買いに行く約束をしたのであった。

我輩も彼女も、あまりみすぼらしい服で式に出たのでは、君達に失礼であるからな。

来月が待ち遠しい限りである。

    君の友人 ダンバルより






 ■ ■ ■ ■ ■ ■





 ダンバルへ


先日は僕たちの結婚式に来てくれてありがとう。

久しぶりに会えて本当に嬉しかった。


街で垢抜けた君を見て、シュリンの奴が「結婚する相手間違えたかな」て言ったのはいささかショックを受けたけどね。


それを差し引いても君に祝福されて感慨深い良い式だった。重ねて礼を言わせてくれ。


ああそうだ。水車の修理も助かった。見た目は変わらないのに動きは段違いだ。さすがは王国一と名高い魔法偽師、幼馴染として鼻が高いよ。

水車は以前にも増して村になくてはならない魔法偽器として、今日も元気で稼働しているよ。


そういえば、モーンの奴がヨタルちゃんを見て驚いていたな。いや、綺麗なお嬢さんだったから僕も驚いたよ。


モーンの話では、前は髪も肌も服もボロボロだったそうだが、君もようやく人並みの良心に目覚めてくれたようで、僕は感激しているんだ。


僕が見た限りじゃあ、まるで君たちは親子のように仲がいいじゃないか。

どうやって関係が修復できたのかは聞かないけど、君の事だから努力したんだと思う。

君は天才なんだから、もっとその頭脳を人間関係に回せばそれで解決するんだと、いい経験になったんじゃないかな?


結婚は僕のが先だけど、どうやら子供は君のが先らしい。

もう孤独のダンバルと自称も出来なくなったね。ざまあみろ。


願わくば、ヨタルちゃんを奴隷としてではなく、娘として扱ってあげて欲しい。おそらく彼女もそれを望んでいる。

いや、今の君なら言わなくても分かっていることだろうねきっと。


   おせっかいな君の友人 タタンタより






 ■ ■ ■ ■ ■ ■





 タタンタへ



先月の結婚式では、自分の勝手で村を出て行った我輩のような男に、そしてヨタルも快く受け入れてくれたこと感謝している。

正直に言えば、どんな非難を受けるかと不安も大きかったのだ。

それが君達の、いや、村の人達の笑顔で打ち消され、我輩が生まれた村はこんなに素晴らしかったと気付く事ができたのだ。

ヨタルとの関係構築だが、なんの事はない。我輩が心を開けば彼女も心を開いてくれた。本当にそれだけだった。

簡単で、とても難しく、単純で複雑なこの工程は、どんな魔法偽術式よりも解き甲斐のある研究である。この研究は我輩と彼女の関係が続くかぎり終わらない。冥利に尽きると言わざるを得ないであろう。

さて、君は我輩達を親子のようだと言ったな。

なるほど確かに我輩もヨタルとの関係を言語化するにあたって適当なものが浮かばなかったが、親子とは胸にストンと落ちる回答だ。

世の父親はおそらくこんな感じなのだろう。始まりは間違っていたが、これからは親子として二人で歩んでいけるよう決心が付いた。

また近い内に水車を見に村に寄らせてもらいたい。

もちろん、娘も一緒だ。



 追伸


あの水車はもう少し修理が遅れていたら、臨界点に達して村ごと大きなクレーターになっていた所であった。

間に合って良かったのである。

式の日では時間が限られていたので殆ど応急処置で済ませたが、まだ予断のならない状況には変わりない。注意されたし。


    君の友人 ダンバルより




 ■ ■ ■ ■ ■ ■




 おいダンバル!


テメェェェエエエ!!!

っざけんな!マジふざけんな!!

一刻も早く村に帰って水車の修理をしやがれ下さい!!

チクショー!やっぱお前はそんな奴だよ昔からちっとも変わってねえよクソ野郎!いいから殴らせろバカ!バカ!ダンバルのバカッッッッッ!!!



 追伸

君の手紙の内容を妻に伝えたところ、「やっぱ結婚相手は間違ってなかったわ……」と言ってくれました。そこだけはありがとう!


   君との友情を疑うタタンタより





 ■ ■ ■ ■ ■ ■



 タタンタへ


そんな事より凄い!発見だ! 世紀の大発見だ!!

今しがたの実験で判明したのだが、彼女に脚で踏まれるとしゅっごぃ気持ちぃぃんだッッッッッ!!!!!



    ヨタル様の犬 ダンバルより


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