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増田



今日も仕事で疲れた。

作業着はすでに泥だらけだった。


夕暮れの公園で、自販機で買った缶コーヒーをちびちびと飲んでいると、増田の奴に会った。

六年振りだし、何より増田はワニみたいに四つ脚で歩いていたから、最初は彼だと気付かなかったくらいだ。


「よーう!久しぶりだなあ!俺だよ増田だよ!」


「あ、ああ?おお!増田じゃねーか!お前東京に行ってたんじゃねーのか!?」


「んあー?東京…ねぇ。ははは、まあいいじゃねえか。結局は故郷が一番ってこった」


色々あったんだろう。

深く訊くことは野暮に繋がる。頭が悪い俺だって、そのくらいは弁えているさ。


「こうして戻ってきてくれたんだ。今度飲みにでも行こうぜ増田。昔みたいにラジコン部の奴らで集まってよ」


「いいね楽しみだ。でも、あいつら俺のことなんて忘れてっかも知れねーけどな」


「ははは、馬鹿言うなよ。我らがラジコン部の増田部長をどうして忘れるものか」


「よく言うぜ。俺が話しかけるまで気付きもしなかったくせに」


「あん?それはお前がワニみたいに歩い……て…」


しまった。言ってる最中に増田の表情が曇り、俺は失言してしまったと悟る。


「気になるか。いや、当たり前か。こんな格好じゃな」


「何があったか……訊いてもいいか?」


どうにも俺は野暮な人間だったらしい。しかし、今訊いておかなくては、いつか後悔する。そんな予感があった。


「……それを訊いてどうすんだ?言ってこの身体が元に戻るわけじゃない。

俺は…俺は一生ワニ歩きのままだ!!立ち上がることさえ出来やしないんだぜ?

クソが!どうすりゃいいんだよ!!?

なあ!お前なら分かるのかよ!おいっ!何とか言ってみやがれってんだ!!」


「く…!」


激昂する増田に俺は何も言い返せない。

どうしたら……。ワニみたいに歩く増田……ワニみたい………ワニ?


……ちょっと待てよ?



「なあ増田?その後ろ足で立ち上がるのは、まあ、無理だよな?」


「ああ!?見りゃ分かんだろ!こんな短い後ろ足、尻尾が邪魔で立ち上がれる訳がねえ!」


「ああ、その、尻尾な…。それ…普通の脚なんじゃねぇか?」


「え?」


そうだ。増田はワニみたいに歩いていた。

肩から伸びる二本の腕、ケツから生えた二本の足。

計四本の足でのっそりと尻尾を引き釣り歩いている。


その尻尾。よくよく見たら尻尾じゃなくて普通の人間の脚なのだ。



スクッと立ち上がる増田。


「立てた……!?」


「やっぱりだ!増田!お前はワニなんかじゃない!ケツから足が生えてるだけの人間なんだよ!」


「やった!やった…!ありがとう!本当に、本当にありがとう!!」


折角立ち上がったばかりなのに泣き崩れた増田をなだめ、連絡先を交換し、四本の手を振る増田と別れた俺は、

脚ドリルを回転させて地中を潜り進み家へと帰った。




おしまい



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