初詣行ったら巫女さんがいて「あああああああ巫女さんとイチャつきてぇぇえー!!!」と魂の叫びに突き動かされて書いたはいいが読んでみたら言うほどイチャついてなくて己の無力さに涙している
朝早く一人身で初詣に来たはいいが人が少なく神社も大きくはなかったのでお参りも早くに済んでしまい牛串が楽しみであったのに出店の開店まではあと二十分もあるという。
仕方がないので社を探索していたらトイレの裏から煙が見えており火事なら大変だと覗き見れば何の事はない巫女さんが煙草を燻らせていたのだ。
「参拝客かい?」
巫女さんは悪びれもせずに煙を吐き出し気怠そうに問いかけてきたので僕は前述した理由を述べた。
「はっ。牛串ねえ。奴らときたら神聖な神社で四つ脚のケモノ肉売るたぁ頭が痛い思いだよ」
その神聖な神社の厠裏で煙草を吸ってるアンタは罰当たりじゃないのかという疑問は当然沸いたが言わないでおくとする。
「さてと理由はどうあれ参拝に来てくれんのは嬉しいやね。こんな辺鄙な神社でも三が日までは忙しくできるってなもんよ」
でも今暇そうですよね?
「馬鹿言っちゃいけねえ。あと三十分もすりゃラッシュタイム入るんだ。それまでの準備諸々マッハで終わらせて作った貴重な休憩時間だよ。
仕事は早く。その分休憩は長く。社会人の鉄則やね」
まさか未成年やもと内心で気を揉んでいたが口振りからすると純粋な巫女職という訳ではなく普段は勤め人であるようだった。
「本当は私も正月くらいゆっくりしたいのにさ。親父がここの神主と仲良いだかでお生憎様高校の頃からこの通りよ。
そのくせ親父は炬燵でおせち食って呑んで寝てんだもんな。笑っちまうよ」
巫女さんは煙草を揉み消し袴の袖から出した携帯灰皿に仕舞う。
そしてもう一本と新しく火を付けるものだからなるほどヘビースモーカーである。
「かと言ってバイト増やすのも考え物でよ。あいつらの志望動機なんか短期収入とかこの格好がしてみたいとかだ。コスプレしてぇならコミケ行けっつの」
「この格好」と言いながらくるりと回ってみせた巫女さんは神秘的で中々見惚れてしまいそうだった。ただし煙草を口に咥えていなければの話だが。
あと参拝客の信心には関心を寄せない割にはアルバイトに厳しいお人である。
「いいかい? ここの本殿はナリこそ小さいが猫の神様を祀ってる中じゃあ日本で二番目に神格の高い神社だったりすんのさ。
特に無病息災と家内安全がジャストミートで得意技だ」
それは初耳だった。主に猫の神様という部分が。
毎年毎年なんで賽銭箱横にキャットフードやカツオ節があるんだと思っていたが謎は解けた。
「あのお供え物なー。猫が寄ってきて困んだよ実際。
善意の施しだから直ぐ下げるなんて無碍も出来ないし仕方ないから猫追っ払うしかねぇんだ」
追っ払うんだ。
猫の神様祀ってるくせに追っ払うんだ。
「そういえば御神籤は引いたかい? うちの神社の御神籤はちょっとしたモンだぜ」
実のところ引こうとはしたが財布には千円札二枚と百円玉しかなかった。あとは賽銭用の一円と五円がジャラジャラと。
出店も売店も開いてなくお金を崩せないならば百円で五十円の御神籤を引くのは気が引けるので辞めたのだ。
「そいつは残念だ。おやおや参道のほうも賑やかになってきたねぇ。
あんたの目当ての牛串屋も開いたみたいだぞ」
彼女はちょうど三本目を咥えようとした時に気付いたのかバツが悪そうに火を点けるの諦めて煙草を仕舞った。
巫女さんと面白い話が聞けて良かったですいえいえこちらこそ付き合わせて悪かったねと別れたのち牛串を買った。
さあ帰ろうかと鳥居に背を向ければ後ろからトテトテと追う足音が聞こえる。
「ああ待て忘れ物だ。付き合わせた礼に持ってきな」
振り返れば巫女さんが僕に何かの紙を握らせる。
「ウチの御神籤さ。なんと大吉だ」
お前それ言うなや楽しみ半減だわ。
「じゃあ御神籤代として一口もらっとくぜ」
言うが早いか巫女さんは牛串に齧り付き一気に三分の一ほどを奪っていく。
「明けましておめっとさん。また来年も来いよ!」
口をモゴモゴさせながら巫女さん。
一串四百円の牛串の百三十円分くらいと五十円の御神籤。
割に合わないのは勿論だったがシチュエーション的にはお釣りがわんさか来るレベルだったので文句は言わないでおこう。
ていうかいいの?
巫女さんが仕事中に四つ脚ケモノ肉食っていいの?
ああ。猫の神様だから大丈夫か。多分猫まっしぐらだろ牛串。いや知らんけど。
こうして僕はもちろん来年も来ようと心に誓って巫女さんに手を振り神社を後にした。
帰り道。
ちょっとしたモンだと噂の例の御神籤を開けばあざといほど可愛い猫耳少女のイラストで『大吉だにゃんっ』と描かれていた。
コミケでやれよと思った。
完