不愉快な散歩
夜、少し欠けた月が、山肌を照らしていた。
ゴソゴソ・・・
またもや、誰かが抜け出す音に目が覚めた。
テントの垂れ幕を少し上げて覗いてみると、戦闘員さんの中でも背の低い方の男が外に出ているのが見えた。
エイデンだ。
どうやら、また外に出ているらしい。
それにしても、テントは二人一組であるはずなのに、どうして、もう一人の人は、頻繁に外出するエイデンに何も言わないのだろう。
「グッゴーッガァーー」
!?
「吃驚した。なんだ、オーインさんのいびきか」
まぁ、オーインさんみたいに相手の人も眠っているのかもしれない。
いずれにせよ、エイデンを追跡しなくてはならない。
あれから、私の感覚で15分以上、エイデンを追跡している。
「さすがに、疲れてきたなぁ。それにしても、ここ、見たことがあるような気がする」
あっ、今日、テントに向かった時に通った所だ。
えっ、じゃあ、つまり、エイデンは鉱脈に向かっているということ?
なぜ?
「おいっ、出来損ないっ」
「ギャアーーーーーー」
吃驚して、後ろを振り返ると、両耳を手で押さえ、しかめっ面をしているエイデンが立っていた。
「うるっせーなっ、魔獣が反応したらどうすんだよ」
「い、いきなり背後から現れないでよ。驚くのは当然でしょ」
本当に驚いた。前の方にいたはずなのに、どうして、背後に・・・
「夜中に、俺につきまとうお前に対して、俺は驚いたけどな」
(バレていたのか・・・上手く誤魔化さないと)
「別に、つきまっとてた訳じゃないよ・・・鉱脈のところに落し物しちゃったから取りに戻っただけ」
エイデンは、私の返答に対して、小馬鹿にしたような顔をした。
(こいつの表情、ほんっとムカつくな・・・顔面を再起不能にしてやりたいわ)
私が、そんな不穏なことを考えている間にも、エイデンはムカつく表情で、私を問い詰めてきた。
「それにしては、ずいぶんと、こそこそしているんだな」
「魔獣が出るかもしれないんだから、こそこそするのは当たり前でしょ。そっちこそ、夜中に何している訳?」
「ふんっ、お前には関係ないだろ」
そういって、エイデンは、鉱脈の方へ歩き出した。
私も、すかさず、エイデンを追う。
「ねぇ、そっちも鉱脈に用があるの?」
「だからなんだ、関係ないだろ。ついてくるなっ」
「ついていってる訳じゃないから。忘れ物を取りにいくだけだから」
(まぁ、本当は尾行しているわけだし、バレたけど。でも、私の目の前で迂闊な行動はできないだろうし、今夜は、理由をこじつけてついていくしかないよね)
「お前みたいな出来損ないの視線を背中に感じるのは、不愉快なんだよっ」
私だって、エイデンと時間を共有するのは不愉快極まりない。
しかし、エイデンを野放しにするわけにもいかない。
それに、私が、エイデンの後ろを歩こうが、隣を歩こうが、お互い不愉快であることに変わりはないだろう。
これは、仕方のないことなのだ。
「別に、あんたの背中なんか見てないから。自意識過剰すぎなんじゃないの?」
私がこう言うと、エイデンは勢いよく、こちらを振り返ってきた。
「自意識過剰だとっ、真実を言ったまでだ。あぁ、そうか。出来損ないの頭じゃ、理解できないよな」
ここまでくると、もう、何も言えない。
救いようがない・・・
私が呆れた顔をしていると、馬鹿にされたのかと思ったのだろうか。エイデンは、何やら喚きだした。
仕方ない、ここは、雑音だと思って、聞き流すしかない。
そうして、暫くして、喚き疲れたのか、エイデンは息を切らしていた。
「はぁ、だから、はぁ、俺は、自意識過剰などではないっ、はぁ、出来損ないには、はぁ、分からないだろうがなっ」
「で、鉱脈に行くの、行かないの?」
「はっ、行くと、さっき、行っただろ?記憶力がないのか?ついでに、お前が死ぬと、面倒だから、邪魔にならないようついてきてもいい、と言っただろ?馬鹿なのか?」
そんな話になっていたのか・・・
適当に相づちを打ってたから、聞いてなかった。
んっ、ついてきていい?
どういうことだろ。
エイデンが密偵で、何か企んでいるのなら、私を追い返したいはずじゃ?
分からなくなってきた。
謎が謎を呼んで、もやもやする。
「おいっ、ボサッとするな。夜が明けるだろ」
「あっ、うん」
こうして、あの時の私は、エイデンへの偏見と解決しない推測の答えを考えながら、彼の背中を追っていたのだった。
前回の投稿から、一か月・・・