土竜のように
「お嬢ちゃん、寒くないかい?」
「はい、大丈夫です」
登山3日目、私達は山の中腹と頂上の中間あたりまで来ていた。
やはり、この山は不思議だ。
登れば登るほど、樹木が多くなる。
そして、それらが霧や霜と相まって、少し不気味だ。
地面が平らであったら、呪いの森と言われても可笑しくはないだろう。
「オーインの親方、ここらで良くはないですかね」
戦闘ギルドの党員の一人が、オーインさんに尋ねている。
おそらく、ここを拠点としてはどうだ、と聞いているのだろう。
「もう少し、茂ってなきゃダメだな。これじゃあ、筒抜けだ」
焚火の際の煙で、魔獣に、居場所がバレてしまってはいけないから、もう少し木が茂った場所にすべきだと言いたいのだろう。
私も、ずいぶん、分かるようになったものだ。
「承知しやした。それじゃあ、もう少し、奥に張っときやすね」
さて、一部の戦闘員さん達が、拠点探しをしている間に、私たちは魔石の鉱脈を探し出さねばならない。
そんなの事前に、あるのを使えばいい、と思うかもしれない。
私も、そう思っていた。
しかし、驚くことに、鉱脈が移動するらしいのだ。
だから、こうして毎回、探さなくてはならないのだ。
ちなみに、なぜ、鉱脈が移動するのかは分かっていないらしい。
この山自体が魔獣だという意見もあるらしいが、考えると怖いので、考えないことにした。
まぁ、気を取り直して、鉱脈を探すとしよう。
「おいっ、あったぞ」
戦闘員さんの声だ。
どうやら、鉱脈らしきものを見つけたらしい。
声がした方へ向かうと、オーインさんが“品定め”をしていた。
鉱脈のすべてが良いわけではない。
魔石の質が育ってなかったり、魔石がほとんどなかったり、危険性が高い鉱脈もあるのだ。
最も、大抵の鉱脈は危険であるが・・・
「うむ、なかなかに良いな。よしっ、ここを崩してくれ。ワシは、他も見てくる」
どうやら、当たりだったらしい。
戦闘員さんの見つけた鉱脈は、小さな横穴に続いている。
オーインさんたちが中に入るには、もう少し穴を広げなければならないのだろう。
オーインさんが、そそくさと他の鉱脈を探している間、私たちは、主に戦闘員さん達が頑張っていた。
ガッ、ゴッ、ガッガッガッ、ゴッツ・・・
「硬いな。こりゃ、内側から壊していかないと無理だぜ」
「じゃあ、私が中に入って壊していきますよ。私なら、入れますし」
「おう、頼むぜ、嬢ちゃん。気ぃつけてな」
こういう問題が浮上したとき、私は、よく中から壊す作業をしている。
もう何度もやっているので手慣れたものだ。
私は、穴の中に入り、すぐさま中を確認した。
「おいっ、早くとれよっ」
不快な声がして、斜め上を見たら、いつの間にか来たのか、エイデンが穴の隙間からツルハシ的なやつをぶらさげていた。
ツルハシ的なやつといったが、ツルハシのようなメリケンサックのような、よく分からない形をしている道具だ。
「さっさと、しろよ」
「分かってるよ。安全確認してたの。急かさないでよ」
「貴様の親方が安全確認したんだろ? 親方を信じてない証拠じゃnイダッ」
私は、ツルハシ的なのをつかんでエイデンの方へ思いっきり押した。
いい気味だ。
別に、オーインさんを信頼してないわけではない。
ただ、前に入ったときに、奴がいたのだ・・・
2本の触角を持つ茶黒い悪魔・・・Gがっ!!
まさか、この世界でもお目にかかるなんて思わなかったのだ。
よく覚えていないが、あの時の私は半狂乱になっていたらしい。
それ以来、私は奴がいないかのチェックは欠かさないのだ。
「はぁー」
どうにか、エイデンぐらいは通れる大きさになった。
「嬢ちゃん、頑張ったなっ。よしっ、エイデン、お前も手伝ってやれ」
「はっ、なんで、俺がっ」
戦闘員のおじさんの命令に、エイデンが抗議の声を上げる。
彼は、こういった作業が嫌いなのだ。
他の戦闘員さんもやっているのに、我儘だ。
だが、私もエイデンと作業するのは嫌なので、ここはエイデンに同意しようと思う。
「エイデンは慣れていないみたいですし、私一人で大丈夫です」
「そうだっ、コイツ一人で十分じゃないか!!」
私の言葉に、すかさず、エイデンが反応した。
なんだが、釈然としない。
というか、腹立たしさを覚えるが、ここは我慢しよう。
「だがな、嬢ちゃん、手伝ってもらっている俺たちが言うのもなんだが、あんたは働きすぎだ。
それに、エイデンも、いい加減、こういうことにも慣れなくちゃならねぇ」
「だが、俺はっ」
「エイデン=ディ=ブレイデン、これは上司命令だ! 嬢ちゃんを手伝いなっ」
「くっ、承知しました」
驚いた。おじさんの、こんなに怖い表情は初めて見た。
流石のエイデンも何も言い返せず、穴の中に入ることにしたようである。
「嬢ちゃん、驚かせて悪かったな」
「いえ・・・」
その後、エイデンも私も、おじさんの監視のもと、日暮れまで、淡々と、土竜のように作業をしていたのだった。