種と思想
一部、不快になる表現があります。
ご注意ください。
今日から、オーインさんらと魔石集めに行く。
普段は、商会から仕入れているのだが、気に入ったものがなければ、戦闘ギルドに直接、依頼するのだ。
もちろん、普通の職人は依頼するだけで同行はしない。
魔石集めは、それなりに危険だからだ。
実際、私も崖から落ちそうになるし、オーインさんのペースについていけないことが多い。
魔石というのは、文字通り魔力がこもった石のことである。
魔石は大きく分けて二種類ある。
鉱石が長い年月を経て魔力を帯びたものと魔獣が体内で精製した固体だ。
魔力を帯びた鉱石を探すのは大変であるし、比較的に見つけやすい魔獣も危険である。
わざわざ、そんな危険を冒すような職人は、なかなかいないだろう。
私も、結構な数の職人さんを見てきたと思うが、自ら集めに行くのはオーインさんぐらいだ。
ましてや、オーインさんは親方である。
職人さん達も反対したそうだ。
結局、頑固なオーインさんが耳を傾けるはずもなかったのだそうだが・・・
まぁ、その頑固さが、オーインさんを親方にまでしたのかもしれない。
ギルドは、皆、国や州、教会の管理下になければならない。
それは、職人ギルドも戦闘ギルドも同じである。
そして、大抵、同じ管理下にあるギルド同士で協力するのが暗黙の掟だ。
故に、自治州ナムルに所属する同士、協力しなければならない。
「なぜ、俺がこの出来損ないのお守りをしなければならないんだ」
そう例え、気に食わない相手だろうと、仕事ならば協力しなくてはならない。
「この俺が、こんな低能と行動しなければならないとはな・・・はぁ」
それが差別主義者かつ純潔主義者のいけ好かない冷血漢が相手だとしても、耐えなくてはならないのだ。
「まったく、老害と出来損な」
「黙れよ!!」
私は鬼の形相で男を睨んだ。そして、平手打ちを食らわすべく腕を振り上げた。
だが、それは叶わなかった。
「嬢ちゃん、落ち着いてくれ。エイデンの奴も娘をからかいたい年頃なのさ」
「こんな出来損ないに誰がっふごっ」
「お前は黙ってろ。なっ、嬢ちゃん、こいつのことは空気だとでも思って無視してくれ。なっ?」
分かっている。
これは仕事だ。
それに、たかが悪口だ。
こんなやつにキレて、仕事を遅らせるのは賢くないのだ。
そんなの分かっている。
分かっているが、やはり、むかつくのだ。
たとえ、どうしようもないことだと分かっていても・・・
「いえ私の方こそ、皆さんには、いつもお世話になっているのに、つまらないことで、すみません」
「嬢ちゃん。すまねーな」
「いえ、私の方こそ先ほどは済みませんでした」
「エイデンの奴も炎の使い手が多い家系に生まれちまったからなぁ」
やはり、戦闘できるほどの炎の使い手ともなると純潔主義者が多い。
あの冷血漢からすれば、私は雑種に見えるのだろう。
本当に気に食わないことだ。
だが、これは仕事だ。
それに、オーインさんに、あまり心配をかけたくはない。
「オーインさんには言わないでくださいね」
「あぁ、嬢ちゃんがそうしたいならな、俺も言わないさ」
戦闘ギルドのおじさんは、ずっと前の方にいるオーインさんを見て、そう答えてくれた。
そして、ただ黙って、山道を一緒に登ってくれたのだった