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私の異世界クラフト  作者: KS
3/8

日常となった世界

「あたし、そろそろ戻ろうかなぁ」

「寒くなってきたしね」

「えー、私、もう少し楽しんでたーい」

「じゃ、椎奈だけ取り残していこーw」

「えっ、酷っ」

「まあまあ、落ち着いてw でも、すぐ暗くなりそうだし、私は宿に戻りたいな」

「うーん、じゃあ、二人とも先に戻ってていいよ。一本道だし、私はもう少し森林浴を楽しんでから帰るよ」

「大丈夫?椎奈は方向音痴だしなぁw」

「一本道だから、平気だってば! もう、高校生だし!」

「はいはい、分かった、分かった。じゃ、あたしらは戻ってるからねー」

「あんまり、遅くならないようにね」

「はーい」

                     






「あれっ、霧が出てきたなぁ。そろそろ戻らないと」


あの時、そう思った私は、霧の中、一本道だったはずの道を歩いた。

でも、どんなに歩いても、友達がいる宿にはつかなかった。

だんだん、頭がボーっとしてきて、気がついたらこの世界にいたのだ。







チュン チュン チュンチュン チュン チュン


「んーっ、もう、朝かぁ。顔洗って、ごはん作んなきゃ」


この世界での水は蛇口を捻れば出てくる、というようなものではない。

商会に所属する水魔法の使い手が水を浄化し、それを商会が熱を通して販売するのだ。

この世界には魔法がある。

この世界での魔法は五種類あり、親から必ず一つだけ遺伝するものなのだ。

もちろん、元々、この世界の住民でない私は使えないが・・・

その中で、主に水魔法は水質を変えたり、浄化したりできるのだ。


「さてと、こんなもんかな」

今朝の朝食は、ラペルという赤い果実でできたパイとジャガイモのスープとミルクだ。

この世界のエスフェニアという多民族国家で、私は装飾職人の弟子をしている。

宝石はもちろん、魔石や銀、金を用いて、ティアラやペンダントといった様々な装飾品を作っているのだ。

とは言っても、私は、まだ職人さんのお手伝いしかさせてもらえてないが・・・


ドスン トンッ トン トンッ トンッ トン トンッ


二階から物音が近づいてくる。

どうやら、オーインさんが起きたようだ。


「おはようございます。オーインさん。」

「あぁ、おはよう」


オーインさんはドワーフの一種らしい。

この世界の一般男性より低めの背丈に、茶色の長髪と同色の髭を持っている。

そして、大きくてゴツゴツした手は、意外と繊細な作業をするのだ。


この家には、オーインさんと私の二人しかいない。

ギルドの職人さんの話によると、奥さんはだいぶ前に、息子さんは、私がこの世界にくる少し前に

亡くなってしまったらしいのだ。


私が来てから、息子さんの死に対して塞ぎ込んでいた親方オーインさんが元気になった、

と話してくれたのを思い出す。


オーインさんにとって私は、心の隙間を埋めるための代替品のようなものかもしれない。

しかし、それでも私はオーインさんに感謝している。

オーインさんが、私を拾ってくれなければ、私は生きていなかっただろう。

この世界には、様々な種族がいる。

中には、外界に対して閉鎖的な民族もいるし、他民族に対して差別的な民族もいる。

もし、そんな人たちに先に見つかっていたら、私の命はなかっただろう。

どの民族にも当てはまらない容姿を持つ私は、格好の餌食なのだ。

幸い、オーインさんの住むエスフェニアは多民族国家だ。

故に、多様な民族や種族がいるし、他種族間の混血児も多くいる。

私のような者がいても不自然ではないのだ。

改めて、オーインさんに見つけてもらえてよかったと思う。







「今日は、バートの奴のところを手伝ってやれ。」

「はーい」


工房は、親方であるオーインさんの家とつながっている。

工房の中に入ると、既に幾人かの職人さんたちがいた。

「バートさん、おはようございまーす」

「おっ、シーナちゃん、おはよう。早いねー」

「オーインさんから、バートさん達を手伝うように言われたんです」

「そうかそうか。そりゃ、助かるよ。それじゃあ、ここんところを、設計通りに、彫金してくれ」

「はい、分かりました」


バートさんは、熟練の職人さんだ。

とてもきれいな奥さんと結婚していて、幼い息子さんもいるパパさんでもある。

元からエスフェニアに住んでいるので、腕に銀色の鱗があったりと多くの民族の特徴を持っているらしい。

気さくな性格で、私にも何かと助言をしてくれるいいお兄さんのようなものだ。


私が彫金し終え、バートさんの方を見ると、どうやら、銀を少し溶かして曲げやすくしているようだった。

バートさんは、炎の魔法の使い手だ。

鍛冶をする際、炎の魔法は、とても便利だ。

ちなみに、炎の魔法の使い手は、水の使い手の半分ほどで、全体の一割ほどなのだという。

だから、炎の使い手の中には、他種族との婚姻を拒む、いわゆる、純潔主義者が多いらしい。

もとろん、バートさんは違うが。

そもそも、この世界での魔法は、血液型のようなものだ。

種族による魔法の傾向はあれど、種族固有の魔法などないのだ。

純潔主義とは偏った考えだと、私は思う。


「おーい、シーナちゃん。どうした?」

気がつくと、バートさんが私の顔を覗き込んでいた。

「あっ、いえ、少し考え事してて。彫金終わりましたよ」

「おっ、早いねー。それじゃあ、ご褒美に嫁さんが作ったクッキーを分けてやろう」

「やったー。あり難き幸せです。奥さんのクッキー、本当においしいですから」

「ははっ、嫁さんに伝えとくよ」






この世界に来た当初、こんな毎日が来るとは思っていなかった。

あの世界では、家族や友達との生活が、私の日常だった。

でも、今はこの世界での生活が日常だ。

いつしか、この世界が、私の日常となってしまったのだ。

この世界で生きていくわけだし、この世界に馴染んだことは喜ばしいことだ。

しかし、あの世界での日常が、私の日常でなくなったことが、少し寂しかった。







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