表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波間  作者: こここ
1/4

1

同室の尚に「帰るのか」と聞かれた。

「うん」と答え隣の机の上の本に気づいた。

一度では持ちきれないほどの量の本が、大きさ順に積み上げられている。

「尚は帰らない?」

もらってきたばかりの届け出に柾はボールペンを走らせる。

「遠いし。それと、二番目の兄と会いたくない」

寝台の上でぐっと身を反らし伸びた尚はそのまま横たわる。

「そっか」

今週末は祝日が絡み、三日間の休みになる。

短い休みだと市内に家がある寮生は帰宅するが、他の都市から来ている寮生は居残る。

いつもであれば、そのような生徒のために学校が休みでも図書室は開いているが、工事が入りこの休み中は閉められてしまう。


記入を終えた柾は隣へ手を伸ばし上の一冊を取った。

物理学の入門書のようだ。

何頁か捲って戻し、別の本を取る。

赤い表紙のそれは推理小説だった。

その下にあったのは植物図鑑だ。

「今、読むんならいいけど、持って帰るなよ」

「わざわざ荷物を増やさないよ」

海洋生物学者の随筆はまだわかるとしても、やさしい家庭料理があるのは何故だろう。

いつ実践するつもりなのか。

この本の山を見ただけでは、尚が何を得ようとしているのか判断がつかなかった。

尚は成績は優秀な方で見てくれも真面目さが滲み出ているが、少しばかり変わっている。

根の素直さ故にか、僅かでも気になったものには手を出さずにいられないらしい。

ただ興味が移るのは早く、先日までサッカーに夢中だったが、今ではスパイクはどこかへ仕舞われて取り出す気配が全く無い。


「帰るのは優さんの所?」

「うん」

柾には三つの家がある。

父の家、母の家、そして優の家だ。

優は親族ではないが、祖母が居候している。

尚と翠以外には単に祖母の家だと説明し、届け出にもそう記入する。

「これと、これ。返す時言って。次借りるから」

「休み明け一括で返す」

三日間読書だけで過ごすようだ。

尚は寝台の上でもう目を閉じている。

もう寝るのか、早くないか。

驚いて時計を見たが、やはり針は七時半を指している。

目を閉じさえすれば明るかろうが騒音がしようが関係なく、すやすやと眠りにつけてしまう尚に、呆れるよりもうらやましいとさえ思う。


廊下に出ると向かいの部屋の扉が開いていた。

騒がしいとまではいってはいないが、すぐにそうなるであろうとは予測できた。

同じ学年の部屋だ。

気兼ねがない。

柾は顔を少し覗かせて軽く注意を足す。

部屋には学年の違う何人かが集まっていた。

以前に何度か騒ぎ過ぎて、寮監から罰を与えられている面々だ。

「お前も入っていけよ」

「いや、今日はいいや」

誘われたが断わる。

中間試験が終わり皆ようやく一息ついている。

明かりの消えた食堂で隅に設置された自販機が煌々と光を放つ。

小銭を取り出そうとしてポケットへ手を入れたところで、ふと視線を上げた。

廊下に寮監の姿を見た。

また騒がしくしていなければいいけれど、と願いを込めるように自販機のボタンを押した。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ