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同室の尚に「帰るのか」と聞かれた。
「うん」と答え隣の机の上の本に気づいた。
一度では持ちきれないほどの量の本が、大きさ順に積み上げられている。
「尚は帰らない?」
もらってきたばかりの届け出に柾はボールペンを走らせる。
「遠いし。それと、二番目の兄と会いたくない」
寝台の上でぐっと身を反らし伸びた尚はそのまま横たわる。
「そっか」
今週末は祝日が絡み、三日間の休みになる。
短い休みだと市内に家がある寮生は帰宅するが、他の都市から来ている寮生は居残る。
いつもであれば、そのような生徒のために学校が休みでも図書室は開いているが、工事が入りこの休み中は閉められてしまう。
記入を終えた柾は隣へ手を伸ばし上の一冊を取った。
物理学の入門書のようだ。
何頁か捲って戻し、別の本を取る。
赤い表紙のそれは推理小説だった。
その下にあったのは植物図鑑だ。
「今、読むんならいいけど、持って帰るなよ」
「わざわざ荷物を増やさないよ」
海洋生物学者の随筆はまだわかるとしても、やさしい家庭料理があるのは何故だろう。
いつ実践するつもりなのか。
この本の山を見ただけでは、尚が何を得ようとしているのか判断がつかなかった。
尚は成績は優秀な方で見てくれも真面目さが滲み出ているが、少しばかり変わっている。
根の素直さ故にか、僅かでも気になったものには手を出さずにいられないらしい。
ただ興味が移るのは早く、先日までサッカーに夢中だったが、今ではスパイクはどこかへ仕舞われて取り出す気配が全く無い。
「帰るのは優さんの所?」
「うん」
柾には三つの家がある。
父の家、母の家、そして優の家だ。
優は親族ではないが、祖母が居候している。
尚と翠以外には単に祖母の家だと説明し、届け出にもそう記入する。
「これと、これ。返す時言って。次借りるから」
「休み明け一括で返す」
三日間読書だけで過ごすようだ。
尚は寝台の上でもう目を閉じている。
もう寝るのか、早くないか。
驚いて時計を見たが、やはり針は七時半を指している。
目を閉じさえすれば明るかろうが騒音がしようが関係なく、すやすやと眠りにつけてしまう尚に、呆れるよりもうらやましいとさえ思う。
廊下に出ると向かいの部屋の扉が開いていた。
騒がしいとまではいってはいないが、すぐにそうなるであろうとは予測できた。
同じ学年の部屋だ。
気兼ねがない。
柾は顔を少し覗かせて軽く注意を足す。
部屋には学年の違う何人かが集まっていた。
以前に何度か騒ぎ過ぎて、寮監から罰を与えられている面々だ。
「お前も入っていけよ」
「いや、今日はいいや」
誘われたが断わる。
中間試験が終わり皆ようやく一息ついている。
明かりの消えた食堂で隅に設置された自販機が煌々と光を放つ。
小銭を取り出そうとしてポケットへ手を入れたところで、ふと視線を上げた。
廊下に寮監の姿を見た。
また騒がしくしていなければいいけれど、と願いを込めるように自販機のボタンを押した。




