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番外:かなり役立つご令息(後)

 


 なぜイチカがカルノと共にいるのかと言えば、彼からキュレット達の尾行を共にするよう頼まれたからだ。

 もちろん他人のデートを付け回す趣味はないので最初は断ったが、カルノはそれでもと粘り、はてには騎士としてイチカに依頼をしてきた。

 そうなってはイチカも断れない。……わけではないが、彼の気持ちも分からないわけでもないと、これに応じることにした。

 もちろんハロルドには事前に断りを入れてある。だがハロルドはカルノの尾行をキュレットには言わず、イチカもまた尾行をハロルドにあかしたことはカルノには言っていない。


「あんなにキュレットの事を褒めるなんて……。なんかそういうのって、俺は軽々しいと思う」


 応接間のソファに腰掛け、カルノが不満げに話す。

 どことなく落ち着かず心ここにあらずといった様子だが、それも当然だ。カルノからしてみれば今日一日すべてが不服でしかない。

 想い人であり未来の婚約者であるキュレットが、自分以外の男とのデートを望んだ。それに対して自分が出来るのは身を隠して後から追いかけるのみ……。


 胸中穏やかでいられるわけがない。

 ……もっとも、ほとんど同じ立場であるはずのイチカは欠片も気にせず、それどころか「これは特別手当が出るのかな」という気持ちでいた。

 なにせ休日返上してカルノに付き合わされているのだ。騎士として命じられたからこそ、騎士としてしっかり給金を貰う。そして貰ったらぜひともあのガレットのお店に行きたい。――キュレットに気付かれないよう尾行をしていたため、ガレットを食べ損ねたのだ――


「私はハロルド様のああいうところ好きですよ。それに、あの人は本心から人を褒めますから」

「本心から?」

「えぇ、ハロルド様は嘘をつきません」


 ハロルドは今日一日キュレットを褒め続けていた。

 出かける際のワンピース姿から始まり、舞台の感想を話し合う際も、花言葉を言い当てる際も。時に大袈裟に、時にさり気なく、よくここまで人を褒められるものだと感心してしまうほどだ。

 だがどれだけ褒めようと、いささか過剰であったとしても、すべてハロルドの本心からだ。

 彼は嘘をつかない。

 ワンピース姿のキュレットへの『可愛い』も、舞台の感想を語る彼女への『感性が豊か』も、花の名前と花言葉を言い当てたときの『博識』も、すべてハロルドが心から感じて口にしたものだ。


 以前に彼は、消極的な令嬢ヘレナを『奥ゆかしい』と褒め、他の令嬢に比べてふっくらとした彼女の体形を『柔らかくて抱きしめたくなる』とほめちぎっていた。そして彼の話を聞いたあとにはヘレナが極上の女性に見え、ヘレナ本人も自信を得ていた。

 元よりそういう質なのか。もしくは、老若男女問わず好意を持たれる魅了持ちとして、自らも誰しもに好意を抱くようにならないとやってられなかったのか。


「なんにせよ、ハロルド様は本心でキュレット様を褒めています。ハロルド様にとっての彼女は、可愛くて博識で、花に詳しい魅力的な女性です」

「そんな、気安く褒めるなんて」

「貶されるより褒められた方が嬉しいのは当然のことですよ」

「でも、そういうのは男らしくないと思うし……」

「なるほど、褒める度胸が無くて貶すことを男らしいと言うのですね」


 イチカがわざとらしい口調で頷けば、カルノがムグと言いよどんだ。

 彼なりに思うところはあるのだろう。だが今までは周囲が彼の気持ちを汲んで、咎めるどころか嫌がるキュレットを制していたのだ。

 それが彼の天邪鬼さを増長させ今に至る。

 だからこそイチカは彼の気持ちを汲んでやる気は起きず、それどころか「ご立派な考えで」と嫌味の一つを付け足しておいた。

 次いでふと異変を感じ、ぱっと顔を上げる。


「誰か部屋から出てきたようですね」

「ほ、本当か! キュレットは!」

「ハロルド様だけのようですが、行ってみますか」


 イチカが立ち上がれば、カルノもそれに続く。

 むしろ彼の方が急いでおり、これがバーキロット家の屋敷ではなく自家であったなら部屋を飛び出して駆け出していただろう。



 そうして先程ハロルドとキュレットが入っていった客室へと向かえば、扉の前でハロルドが待ち構えていた。

 片手をあげて「よぉ」と軽々と挨拶をしてくる。


「ハロルド様、キュレット嬢は?」

「中で寝てる」


 当然のように話すハロルドの返答に、イチカが「そうですか」と淡々と返す。

 だがカルノだけはこの会話に更に落ち着きを無くし、ハロルド越しに客室の扉を見つめた。もはやハロルドが邪魔だとでも言いたげだ。

 そんな彼の態度に、イチカはハロルドと一度顔を見合わせた。


「それで、どこまでしたんですか?」

「どこまでって……」


 イチカの不躾な質問に、ハロルドがニヤリと笑みを浮かべる。

 紫色の瞳が蠱惑的に細められ、形の良い唇がやんわりと弧を描く。魅了の効果を最近は抑えられているというが、元より彼は見目が良いのだ。


「最後まではしてない。社交界デビュー前には手を出さないってのは俺の中の決まりだからな。……でもキスはした」


 しなやかな指で己の唇に触れ、笑みを浮かべてハロルドが答える。

 その話に、カルノが息をのんだ。

「そんな」と小さく呟かれた声はなかなかに絶望が漂っている。


「キスって、就寝のキスですか? 例えば頬とか額とか」

「まさか、そんな子供相手みたいなことするわけないだろ。もちろん唇に。ファーストキスって言ってたな。真っ赤になって可愛かった」


 その時のことを思い出しているのか、ハロルドは随分と満足そうだ。

 曰く、二人は客室でしばらく雑談し、キュレットがふわと欠伸を漏らしたことでベッドへと移動したという。

 いよいよかとキュレットが察し、微かに震えつつ、それでもここで引くまいと覚悟を見せる。自ら服を脱ごうとまでしたという。

 だがそれに対し、ハロルドが謝罪をした。


『申し訳ないが、社交界デビュー前には手を出さないと決めているんだ。キュレット嬢がその日を迎えた暁には必ず俺が再びベッドまでエスコートをするから、どうか待っていてくれないだろうか』


 と。これに対してキュレットは安心すればいいのか落胆すればいいのか、強張っていた体から一気に力が抜けたという。

 再びハロルドが深く謝罪をすれば、自分の方がまきこんだと謝罪に謝罪を返す。


 そうして「社交界デビューの夜には必ず」と約束をし、あとはもう寝ようとなり……。


 ハロルドがキュレットにキスをした。

 子供を相手にしたキスではなく、一人の女性を相手にしたキス。


「最後まで出来ないのは俺の都合だ。それを理解してもらったうえで、何もせずにはいおやすみじゃキュレット嬢に失礼だろう。彼女への侮辱だ」

「なるほど、それでキスを」

「それと、今夜は手を出しこそしないが一緒に寝る予定だ。朝にはちゃんと彼女の隣にいないとな」


 まるでそれこそマナーとでも言いたげにハロルドが話す。

 だが確かに、キュレットは幼い身とはいえ相当の覚悟をもって今日を迎えたわけで、それに対してはきちんと応えるべきだろう。

 とりわけ周囲が彼女を子供扱いし、訴えを蔑ろにし、カルノから守らずにいるのだから猶更。

 これを『子供相手になんてことを』と非難は出来ない。


 イチカはその話になるほどと頷き、部屋へ戻ろうとする彼を見送った。

 だが、そこまで黙って――言葉を失っていた、とも言う――カルノが慌てて待ったをかけた。彼からしてみれば聞き流せる話ではない。


 ハロルドが手を出していないと知るや安堵し、だがキスをしたと言えば青ざめ、そして今は困惑と苛立ちを綯交ぜにしたなんとも言い難い表情をしている。

 年若い少年にとって、これほどの葛藤と複雑な胸中は初めてかもしれない。


「いくら約束したからって、キュレットが社交界デビューする時は俺がエスコートするとお父様が言っていたんだ」

「あぁ、そうらしいな。だけど俺を誰だと思ってる? お前の家の決め事なんて、バーキロット家の名前を出すまでもなく覆せる」


 ハロルドが悪どい笑みを浮かべ、容赦なく断言する。

 大人気ない態度ではあるが、事実、彼の言うとおりだ。

 カルノの家も権威と歴史ある家柄ではあるが、そんなものはハロルドからしてみれば些細なもの。彼はもとより国一番の名家バーキロット家の子息であり、そしてそれ抜きにしても国宝レベルの人材。更に聖女騒動を解決に導いたとして地位はより上がっている。

 仮にカルノとキュレットが正式に婚約をしたとしても、それを反故にするなど造作ないことだ。


 カルノも幼いながらに互いの格差は理解しているのか、容赦ないハロルドの言葉に顔を更に青ざめさせた。

 今まではハロルドとキュレットのデートの事ばかり考えていたが、ここにきてようやく物事の行く末を考えはじめたのだろう。


 言ってしまえば『キュレットをハロルドに奪われる』という事だ。


 だがその危機に気付いたとしてもどうすべきか分からないのか、言い淀むしかないカルノに、ハロルドがチラと一瞥して盛大な溜息を吐いた。

 呆れの色を露骨にしたその溜息に、カルノが責められていると察して俯いてしまう。


「良いか、よく聞け。俺はキュレット嬢が社交界デビューを迎える日には絶対に彼女をエスコートする。そしてその時には果たせなかった夜を過ごす」

「……で、でも、その時にはイチカと結婚してるんじゃ」


 カルノが一抹の望みをかけてイチカへと視線を向けてくる。

 現状、イチカとハロルドの婚約勝負は一年延長の最中であり、キュレットが社交界デビューを迎える日には決着はついている。――はずである――

 もしも勝負の末に結婚しているのなら、ハロルドがキュレットに手を出す行為は許されるものではない。……結婚前ならば好き勝手して良いわけでもないのだが、その点についてはさておく。

 そう辿々しくカルノが訴えるが、イチカはこれを首を横に振って一刀両断した。


「約束なので仕方ありません。夫を詐欺師にするわけにはいきませんからね」

「そんな……」


 頼みの綱であるイチカにもそっけない対応をされ、カルノが更に表情を暗くさせる。

 それを見て、ハロルドが冷ややかに彼を見下した。子供に対するとは思えない態度ではあるが、もちろんイチカがそれを咎めることはない。


「キュレット嬢が社交デビューを迎えるまであと僅か。お前に残された道は彼女の心変わりだけだ」

「……キュレットの心変わり?」

「あぁ、さすがに俺も彼女が拒否すれば無理強いはしない。たとえばほかにエスコートされたい男ができた、と言われれば引くしかないだろ」


 淡々と告げるハロルドの言葉は、そっけないながらも分かりやすい。

 カルノが一瞬言葉を詰まらせ、「分かりました……」と弱々しく答えると再び俯いてしまった。


「それじゃ、俺は部屋に戻るから。おやすみイチカ」

「えぇ、おやすみなさいハロルド様」


 さすがに今夜ばかりは就寝のキスはせず、言葉だけを交わしてハロルドが部屋に戻っていく。

 それを見届け、イチカはいまだ俯いたままのカルノに移動を促した。




 ハロルドとキュレットのデートから数日後。

 今日は一日非番だとゴロゴロとしていたイチカは、同じく非番だというハロルドに喫茶店に誘われた。

 先日のデートで訪れた喫茶店。どうやらそこで食べたガレットをお気に召したらしく、いそいそと用意をする彼にイチカもつられて出かける準備を進める。


 そうして訪れた喫茶店は昼時だけあり混雑していたが、運良くテラス席に案内してもらうことができた。それも、先日ハロルドとキュレットが座った席である。

 眺めがよく、吹き抜ける風が心地よい。なるほど確かにここはデートに最適だとイチカが心の中で感嘆する。

 そして運ばれてきたガレットのあまりの美味しさに、今度は心の中どころか実際に感嘆の声を漏らしてしまった。

 サクサクとした生地。中央で輝く卵を突けばトロリと黄身が流れ、生ハムと生地をそれに絡めて食べれば極上とさえいえるおいしさ。


「美味しい……! これは国で保護すべき代物!」

「だろう! あの日からずっと食べたくて仕方なかったんだ。でも研究が進んでて手が離せなくて、いっそ研究職を辞めてこの店の給仕になろうと本気で考えたぐらいだ」

「確かに、このガレットのためなら、私もマッサージ師を辞めて給仕の道を考えてしまいますね」

「しれっと自分の本業忘れてるけど、それを言及する気にもならないくらい美味しい」


 そんな会話をしつつ、美味しい美味しいとガレットを堪能する。

 そのうえデザートと紅茶……と満喫していると、ふとハロルドが何かに気付いて視線をよそへと向けた。

 イチカがつられるように彼の視線を追えば、そこに居たのはお付きのメイドと共に歩くキュレット。彼女はこちらに気付くと深くお辞儀をしてきた。

 イチカもまた頭を下げて返し、ハロルドは片手を上げる。


 だが次の瞬間二人がおやと動きを止めたのは、キュレットのもとへと駆けよるカルノの姿が見えたからだ。


 彼はキュレットに声を駆けると、手にしていた花束を彼女に差し出した。

 片手で持てる程度の小さな花束だ。

 それを見てキュレットが困惑するのは、今まで彼から差し出される花束の中には、決まって虫やカエルが仕込まれていたからだ。

 受け取るまいと首を横に振り、それだけでは足りないと、胸元で組んでいた両手を解くとさっと自分の背後に回した。徹底した受け取り拒否の構えである。


 それを見て、ハロルドがニヤリと笑みを浮かべた。相変わらず美しくも悪どい笑みだ。


「キュレット嬢の家はカルノの家より格下だ。今まではそれを気にして花束を受け取っていたらしい」

「でも今は徹底拒否の姿勢ですね。あらまぁ、そのうえそっぽまで向いて」

「俺が背後に着いてやるから、気のすむまでカルノを拒否してやれって言っておいた」

「なるほど。これはカルノ様にとっては手痛い。まぁ自業自得ですけどね」


 助け船を出す気はないとイチカがあっさりと言い切る。

 だがさすがに気にはなるので二人の様子を伺っていると、キュレットにそっぽを向かれたカルノはそれでも何か彼女に話しかけ、そしてついには頭を下げた。

 遠目からでも必死さが伝わってくる。

 これはキュレットも意外だったのか、先程まではツンとそっぽを向いていたのに、途端に困惑をあらわに傍らに立つメイドとカルノを交互に見はじめた。

 果てにはイチカ達にまで視線を向けてくるのだ。言葉が届かずとも、彼女の「どうしたらいいでしょう」という戸惑いの声が聞こえてきそうだ。


 これに対し、イチカは肩を竦めて見せ、対してハロルドは口パクで「もっとやれ!」と煽る。

 そんな二人の反応に更にキュレットが困惑するが、しばらく考えると応じることに決めたのか、様子を窺いつつカルノの手元にある花束を覗き込んだ。

 恐る恐るなのは、言わずもがなカエルや虫が出てきやしないかと危惧しているからだ。

 だが彼女が怯えたり逃げ出す様子はない。どうやらカエルも虫も仕込まれていなかったようだ。

 それを確認すると、キュレットはそっとカルノの手元にある花束に手を伸ばし、


 一輪だけ、花を抜き取った。


「おっ!」


 とハロルドがぐいと身を乗り出して二人のやりとりに見入る。

 対してイチカは彼ほど興奮はしていないものの、「これはまた」と小さく呟いた。


 キュレットは花束を受け取らず、かといって拒否もせず、たった一輪抜き取った。

 差し出されたからには受け取らねばという淑女のマナーからか、それとも一輪受け取るからこれで納得しろということか。もしくは、反省の色を見せるカルノの姿に何かしら思うところがあったのか……。

 そのどれかはイチカ達には分からない。もちろん、カルノにも分からないだろう。

 そうして二人はいくつか言葉を交わし、カルノが元来た道を戻っていった。花を一輪だけ手にしたキュレットがそれを見届ける。追いかけることはせず、ただ見送るだけだ。


 その様子に、上機嫌で笑い出したのはハロルドである。

 よくやったと今すぐにキュレットのもとへと駆け寄りかねないほどだ。


「一輪だけとはキュレット嬢も洒落たことをする。あれじゃカルノにとっては拒否されるより辛いかもしれないな」

「拒否するよりですか?」

「あぁ。一輪だけとはいえ受け取ってもらったからには、これ以上の無理強いは出来ない。それに、キュレット嬢は結果的に応じてやった。彼女は大人の対応を見せつけたんだ。カルノは今も昔もひっくるめて、自分の行動が身勝手で幼稚だったと実感しただろう」

「キュレット嬢はあえて、渋々、嫌々、仕方なしに、心ならず応じてやることで見せつけたってことですか」

「そこまでは俺も言ってないけどなぁ。でもこれで、カルノは無理に押しかけてプレゼントなんて真似は二度と出来なくなるだろ」

「なるほどね。さて、良いものを見れたことだし、私もう一品デザート食べます」


 野次馬めいた発言で話題を締め、いそいそとイチカがメニュー表を手に取る。

 それに対してハロルドが「良いものを見たこととデザートは関係ないだろ」と言及してくるが、彼もまたメニュー表を覗き込んでくるあたりデザート追加には賛成らしい。

 そうして注文を終え、運ばれてくるのを待つ。

 メインに食べたガレットは美味しく、デザートのショートケーキもまた美味だった。となれば、次もまた絶品に違いない。


 楽しみ、とイチカが嬉しそうに話せば、ハロルドもまた満足そうに笑った。


「キュレット嬢とここで食べたとき、絶対にイチカを連れてこようと思ったんだ」

「私を?」

「こういうの好きだろ。それに、イチカと一緒に食べるとより美味しく感じるからな」


 自分の考えは間違いではなかった。そう言いたげにハロルドが笑う。

 相変わらず魅力的な笑顔ではないか。美しい銀の髪に、宝石のような紫色の瞳。端正な顔つきとはまさに彼の事。

 そのうえ今は屈託なく笑っているのだから、元より備わっていた美しさにどこか子供っぽい愛嬌が加わる。


 実験は順調で、魅了の効果は抑えられていると以前に聞いた。

 だが本当だろうか? こんなに魅力的なのに。


「私も、ハロルド様と食べると更に美味しく感じますよ。これが愛ですかね」

「そうだな、きっとこれが愛だ」


 互いに『愛』と言葉にし、運ばれてきたデザートに視線を落とす。

 甘いデザートがより甘く感じられそうだ。

 ……もっとも。


「愛してるなら、さっさと観念して私と結婚すればいいじゃないですか。そうしたら毎食一緒に食べられますよ」

「イチカこそ、正直に俺の色仕掛けに落ちたって言えよ。そうしたら、俺もハッピーライフを早期に切り上げて結婚してもいいし」


 と、互いに譲らぬ姿勢を見せる。

 相変わらずなやりとりに、仮にここにロクステンやラウルがいれば盛大な溜息を吐いただろう。――それか、あまりに相変わらず過ぎて、もはや呆れもせず自分達もとデザートを堪能しだすかもしれない――


 そうしてイチカとハロルドは顔を見合わせ、一向に譲る気配のない相手を睨み……。



「まぁ俺達の場合は、どれだけ時間が掛かろうと誰が傷つくわけでもなし。せいぜい父さんが呆れるくらいだ。のんびりいこうか」

「あぁロクステン様、おいたわしい……。でもどちらが勝っても行きつく先は結婚と考えれば、これといって焦る必要もありませんからね」



 と、二人ほぼ同時に表情を明るくさせると結論付け、今はデザートを食べようといそいそとフォークに手を伸ばした。




…end…


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― 新着の感想 ―
[良い点] どこまでもいかがわしい様子な上に本当にいかがわしいのに、この2人のどこまでもサッパリとした関係が大好きです。 あと色気のある麻袋のインパクトが何時迄も消えません。お気に入りです。
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