高校生がアルバイトをする愉快な話
後半やけくそ気味になっていますので。なんかもう、ね。
「これで!終わりだああああああああああああああ!」
僕の、心臓に剣が突き刺さる。
あ、貫通した。
死ぬほど痛いんですけど。
ごめん嘘。全然痛くない。ノーダメージの極み。これならうっかりシャーペンの芯が出る方を押したときの方が痛い。
え、なに?あ、セリフ?わかってるって。
「グフゥッ……馬鹿なッ……この、私がッ!いずれは三千世界の全てを統べるこのケーニッヒ・ザダークがッ……こんなところで……!」
僕の胸に空いた穴から血が噴水のように噴き出る。
……噴水って噴き出る水なのに噴水のように噴き出るっておかしいよね。
「……何故だッ!何故私がこんなところでッ!貴様ら人間如きにッ!」
「そうやって人間如きを下に見るから……お前は負けたんだ」
口からも血がゴボゴボと出る。
あー喋りにくい。
「……私の力はッ!貴様らの負の感情を元にしているのだ!何故我が負けねばならないッ!貴様らの理不尽が!悪意が!私を生んでいるというのにッ!」
あ、一人称間違えた。ま、いいか。
「起源から闇として生まれて!その闇を貴様らに!私の闇の元の人間に!ぶつけてなにが悪い!その分の幸福を求めて何が悪いのだ!」
「……そうか、だからお前はそんなに人間を恨んでいるのか……」
いや、セリフだけどね。
早く終わらないかな。
「だが、お前は、やってはならぬことをした!エルセリト王国の国民すべてを石に変えた!その行いは許されることではない!」
うぃっす。わかってるっす。
ほら、早くしろよ。スパッと首飛ばしてくれよ。そしたら終わるから。
「……もう助からぬか。しかし、お前だけでも!」
「な!?」
必殺!“なんか闇っぽいオドロオドロしい類の光を全身から放つだけの魔法”!
「ふははははは!貴様らは私と地獄で一緒に踊ってもらうぞ!」
「くっ!間に合えええ!」
はい。間に合います。
ズバン!
心臓から引き抜かれた剣が僕の身体を両断する。
ただ、まだ終わりではない。
「……まだだ!私は不滅!闇さえ!悪意さえあれば何度でもおおおおおおおお!」
あとは僕の身体を燃やしてっと。
よし。
勇者……ええと?誰だっけ?あー、うん。勇者の活躍によって世界に平和が訪れた!fin!
「ういー、終わったー」
「乙っすわー」
意識をアバターコード〈ケーニッヒ・ザダーク〉から戻し、僕は立ち上がる。
「あ、これ今回の報酬っす」
「あんがとー」
僕の名前は平和院空。
アルバイトで魔王をやっている高校生だ。
業務内容は簡単。神様の依頼で異世界に潜む潜在的な闇を潰しながら上手に世界を協力させ一つにまとめてしばらくの間平和にするだけ。
「ソラさん、次依頼はいつ受けられるっすか?」
彼女、僕のサポーターであり妖精型天使のゾフさんと共に毎週土曜日に世界を阿鼻叫喚の渦に突き落としています!
「あ、明日からテスト勉強するから次は三週間後で」
「okっす……あ、別報酬として特別にテスト勉強をお教えするっす」
「マジで!?」
いや、ゾフさんは教え方が物凄い上手いからなー。これは良い仕事した。
「じゃ、明日お家にお伺いするっす」
「あ、何か美味しいもの用意しときます。何が良いっすか?」
「バームクーヘンで!」
「了解」
ゾフさんはバームクーヘン好きだなー。まあ、頭の輪っかがバームクーヘンだからなー。
そんな呑気なことを考えてたらゾフさんの顔が固まった。
「……ソラさん!マズイです!虚食生命体です!」
「うっそだろう……?」
よりにもよって虚食生命体かよ……
「仕方ないな。時間外労働だからその分は神様に請求しといてくれよ?」
「すいません……本当に」
申し訳なさそうにするゾフさん。まあ、そうなるよな。虚食生命体はあらゆるものを喰らう生物。アバターを使っても喰われれば精神を殺られる。
「……で、何処の世界だ?」
「それが……5A469βっす」
「さっきの世界か……よし、非常事態だしアバターコード〈ケーニッヒ・ザダーク〉を使おう」
「台本ありませんから全部アドリブぬすよ?」
「……大丈夫だ!問題ないぜ!」
「不安しかないっす!……任せましたよ?」
横ピース+ウィンクをゾフさんに贈る。
「……ソラさん逝ってらっしゃい!」
あ、今遠回しに死ねって行ったでしょ!?
「くそっ!なんなんだよ!アレ!?」
魔王を倒した直後突如現れた不定形の何か。
しばらくするとそれは竜のカタチを取り俺たちに襲いかかってきた。
それを魔王の最後っ屁だと思った俺たちは攻撃を仕掛けたのだが……
『嘘でしょ!?魔法が効かない!?」
『来るぞ!防御だ!』
『“光格子結界”!?貫通した!?』
俺たちの攻撃はそれに一切通じず。
攻撃を防御も出来ず、逃げ回ることしかできない。
魔王を倒した勇者とその仲間たる俺たちが勝てないなんて……
「もう、終わり、なのか?」
それが黒い方向をあげ全身から触手を放つ。聖女の結界ですら防げないそれが何十と俺に向かう。
「……」
仲間たちが何か俺に向かって叫んでいる。……みんな、すまない。ここで俺の冒険はここで終わりのようだ。
「こんなことだろうと思ったぞ……」
諦めた俺に、俺たちにそんな声がかけられる。
「“爆裂魔導裂帛波!」
衝撃波が触手を薙ぐ。一撃では破壊しきれないものの触手を薙いだ衝撃波は更に炸裂する。触手の表面をを焼き払った衝撃波が更に爆裂し、触手全てを食い尽くした。
嘘だろう?その魔法は……ついさっき死んだはずのあいつの……
「ケーニッヒ・ザダーク!?」
「不安になって地獄から戻ってきてみればこれか。勇者の名が廃るぞ、レオナルド」
憑き物が落ちたかのように清らかなオーラを放つ魔王が、そこにいた。
「さて、何処のどいつか知らんが魔王の私を差し置いて世界を好きにしようなど……」
魔王の右手に魔力が、俺たちと闘ったとき以上の魔力が集まる。
「片腹痛いわァッ!」
さーて、一撃も貰わず、勇者に花をもたせながら虚食生命体をボコるだけの簡単なお仕事の始まりだ。
「勇者!(笑)私が奴の表面をそぎ落とす!そこに貴様の、否!貴様らの持てる力の全てをぶつけよ!」
そしたらゾフさんが全力で神殺しの権能をエンチャントしてくれるから。
「……魔王ケーニッヒ……」
「喋っている時間はないぞ?ぼんやりしていれば私が倒してしまうからな!フハハハハハハッ!」
そう高笑いをすると僕は右手に握った〈神機六式:制圧小銃〉の引き金を引く。
発生する触手を撃ち落としていく。空間魔法で発射と同時に装填されるそれは触手はおろか虚食生命体すらも抉っていく。
『……再生速度が想定より早いっすッ!』
「ああ、見ればわかる……」
抉った側から回復していく虚食生命体を見て勇者たちの表情が絶望の色を映す。
「……何をしている!」
「お前!攻撃が!」
「うるさい!今のは小手調べだ!そんなことより早く最高最上の一撃の準備をしろ!」
ノールックで触手を撃ちながら勇者たちに聞かれないように叫ぶ。
「ゾフさん!」
『〈神機三式:貫絶電磁砲〉の使用を許可するっすッ!」
「……それじゃ足りない!一式の準備を」
『ソラさん、だけどあれは……!』
「……時間がない!黙って……魔王たる私に従え!」
尊大な口調で言い捨てた僕にゾフさんはーーー
『30秒待ってくださいっす』
「最高!ゾフさん愛してるぅ!」
『ちょ、え?何を言ーーー』
通信を切り、〈神機三式:貫絶電磁砲〉を呼び出す。
淀みない動作で発射態勢を整えぶっ放す。
撃たれた弾丸は虚食生命体の口を貫く。
黒い液体が血のように飛び散る。
「……勇者!」
「あと30秒待て!」
「早くしろッ!」
マジで。ぶっちゃけこっからが、時間との戦いだ。
飛び散った液体が小さな竜の形をとる。そいつらは触手を大型のよりよりも少なく、小さいが確かに放ってくる。
「ウッラアアアアア!」
右手に〈神機三式:貫絶電磁砲〉。左手に〈神機六式:制圧小銃〉。
ケーニッヒの翼を広げ、空を駆けながら、小さな竜を片端から潰していく。飛び散った液体は再び集まるが時間が稼げればそれで良い。
「……出来た!魔王!」
「……遅い!」
貫絶電磁砲を大きな竜にぶっ放し、制圧小銃で牽制しながら勇者の後ろへ降り立つ。
「喰らえ!これが俺の、俺たちの全てだあああああああああ!」
なんかよくわからないけどとにかく勇者パーティの力を集結させたそれが虚食生命体に飛んでいく。
『神殺し、付与したっす』
神殺しをエンチャントされたそれは小さな竜も、触手も全てを薙ぎ払っていく。
「……だめ押しだ……」
〈神機一式:奉炎縮退砲〉を呼び出し、腰だめに構える。
『エネルギー充填96%……98%……99………100%!いけるっす!』
「……さっさと虚無へと帰れ」
引き金を引く。
音もなく、勇者たちの一撃の取り残しを吸い込みながら弾頭が進む。
正しくは音すらも吸い込んでいるのだが。
「……昇華せよ」
そして勇者たちの一撃に追いつくとそれを吸い込み、その姿を変える。
紅い、赤い、朱い、鳥へと。
鳥は虚食生命体に直撃するとその身を焔で焦がしていく。
「いけえええええ!」
勇者が叫ぶ。
その想いに応えるように鳥が翼を羽ばたかせ、やつを、焼失……消失させた。
『エネルギー換算……ギリギリっす。〈神機一式:奉火縮退砲〉が無かったらヤバかったっす』
ふう。そりゃ良かった。
これで、終わりーー
「魔王!」
|勇者〈レオナルド〉の叫びが聞こえ、振り返るとそこには一匹だけ小さな竜がその顎門を開いていた。
「……ち、〈神機六式:制圧ーー」
間に合わねぇ。
くそ、これは、終わったかも。
「……“聖剣裂帛”!」
金の輝きとともに小竜が吹き飛ばされる。
「ーー小銃〉ーーーッ!」
腹部にありったけの銃弾を叩き込む。千々にちぎれるそいつを無慈悲に、容赦なく消し飛ばす。
「……しくったな。ゾフさん。撤退で」
『了解っす』
ああ、くそ、危なかった。
「……魔王……お前、身体が……」
回収されるために粒子へと還る僕の身体を見て何か勇者が勘違いしたようだ。よし、便乗して上手にまとめよう。
「…………迎えが来たようだ」
「いや、だって……」
「さらばだ、勇者レオナルドよ。魔王を屠りし者よ。貴様がいる間はこの世界は安泰だろう」
「……お前!?」
「勘違いするな。いずれ私は蘇る。その時までこの世界をせいぜい守っているが良い」
「ケーニッーー」
よし。良い感じに別れられたぞ。
おっと、右手だけ残してっと。
「……また、会おう」
手を振って、消失。
これで任務完了。
「……先日はすいませんでしたっす」
「別にいいってばさー」
僕は給与明細をヒラヒラと振りながら答える。
「作戦も計画もなしに虚食生命体の前に放り出すなんて本当に申し訳なかったっす」
「んー?でもちゃんと追加報酬貰ったし。気にしなくっていいよ?」
あ、このチーズケーキ美味い。流石三ツ星レストラン。
「私の上司もそこは気にしているようでして追加報酬とは別に特別手当を出すことになったんす」
「へー」
「それで、その特別手当、私なんっすよ」
「……」
え?
「フォーク、落ちたっすよ?」
「……いや?なんかわけわからないことが聞こえたような気がしているんですが」
「……私が報酬っす。好きにしてくれていいっす」
……ええ?えええ?いや、確かにゾフさんは美人さんでけどですね?いくらなんでもそれは……
「……いや、ちょっと、それは……」
「……」
そんな悲しそうな目で見ないで!?
だってどう考えてもおかしいじゃん!?
「……私、ソラさんのこと、結構気に入ってるっす……」
「いや!だって!僕まだ高校生だし!」
「そうっすよね……1000以上年齢離れてるっすもんね……」
違う!?そうじゃない!と言うかこの人1000歳以上か!?知らなかった!
「じゃあ、肉奴隷でいいっす……」
「おかしい!?なんでどんどん方向性がおかしくなって!?つか外で何言ってんのこの人おおおお!?」
なぜ照れる?そこでなぜ照れる!?おかしいってつか僕を見る目が回りの僕を見る目が白い!驚きの白さだよっ!
「……そもそも受け取り拒否っすか?私はクーリングオフの対象外っす」
「微妙に理性的だ!?」
「……やっぱり年増は……」
ここは、一時戦術的撤退を図るしか!
「あ、受け取ってくれるまでこの店からでられないっすよ?」
「背中は見せられない……だと……」
やべえ、もうわけわかんなくなってきた。
「…………僕まだ17だし!成人してないし!」
「……ここに神様特製〈強制成長剤ときしっく☆エクストリーム〉が」
「なんてものを用意しているのだ!?つか、神様それで良いのか!?」
「……父様も応援してくれてるっす」
「ゾフさん、貴女、娘かよ!?」
つか、トキシックって!毒じゃん!?
「あ、お仕事の時間っす」
「そうか!なら仕方ないね!次はどこの世界で何をやるのかな!?」
「科学の進化した世界に混ざった魔法勢力を退去させる仕事っすね」
「よし行こう!すぐ行こう!」
このままだと人生の墓場に埋め立てられてしまう!
「……報酬期待してくださいっす」
「や、ちょ、待て、何を寄越す気だ!?」
「行き遅れの天使って多いんすよ?」
やべえ!?この職場やべえよ!?
ちょ、誰か!助けて!?あ、ああああああああああ!?
……その後、とあるマンションに連日のように訪れる美女たちとそれから逃げるように魔王業に励む高校生が見られたとかなんとか。
「ゾフさん!仕事!次の仕事!早く!」
「……お前って呼んでくれないと嫌っす」
「うわああああああ!?」