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第4話『愛が愛で愛』

俺という存在は独りでいるのが当たり前で

独りでいいって思ってて

その割に自分に似た存在を作ってみたりして


なんて愚かなんだろうって思った


だって俺と『同じ』やつなんていないんだから

どれだけ『形』が似ていたとしても

俺とは『違う存在』なんだ


この世界に縛られて、自分勝手な存在に振り回されて

でもそいつらが俺の希望だったからそれでもいいやって思ってみたりもして


いつからか遠くから眺めるようになった

そいつらは俺よりもなにかを頑張ってた

日が落ちて、日が昇って

動かなくなったと思ったら飛び起きて何かをしていたり

何かを口の中に入れていたり

少し前まで小さかったやつが大きくなっていたり

俺にはない『成長』

少しの劣等感を感じた

成長した奴等は次第に立てなくなった

ずっと寝てるようになった

その内焼かれて埋められた

そうされてる間も俺の容姿は一切変わらなかった


同じ高さから見るのも飽きてきて

高いところから見た方がいいのかな、なんて思って

形だけの飾りのような城を作って

独りしかいないのにあんな大きなものを作って正に俺そのものみたいな場所で居心地が悪かった


最初は入ってこようとした奴がいた

俺は躊躇いなく『殺した』

溢れるほど増えてしまったのなら一人くらい死んでも誰も気づかないだろ

気づいた奴がいたとしてもそれはほんの少しだけなんだろう?


誰も来れないような壁を作った

城の外にも、心の外にも


俺が作った存在なのに、勝手に動いて勝手に理解して、勝手に増えて、意味のわからないものを増やして、暮らしている

憧れなんてない、何をしているか分からないから

あぁ、俺はそれが嫌いなんだ

分からない事がどれだけ恐ろしいことか

でも、分からないなら、俺はもう二度とあいつらを見なければいいんだいっそ居なかったことにすればいい


そうやって俺は全てに目をそらして逃げた

知らないのは俺が勝手に怖がってただけ

だって俺は化け物だから

あいつらには出来ないことが俺にはできる


あいつらは何かをするにも凄く長い時間をかける

でも俺はなんでもすぐに消せるし作れるんだ

この前殺して分かったことだがあいつらは脆い

脆くて弱い

俺が触れるだけで死ぬかもしれない

儚いとはこの事か

俺が生まれた時【Erurado Archive】と書かれている本がすぐ近くにあった

そこには俺が何をすればいいのかすべて書いてあった

理解出来ないことも書いてあった

それも時間をかけて理解していった

本を読むのは気が楽になるから好きだった

本を作り出すことも出来たがどれも同じような内容だった

どうやら作り出す時に使われるのは自分らしい

面白いことも無くただそこに存在し続けただけの俺は本にするだけのことが無くてただ無駄な時間を過ごしてるだけに気づいた


気付いたところで何かをしようとは思わなかった


その時なにかの声が聞こえた

「~~~~っ!!?」

なんて言ってるのか分からなかった

外を覗いて見たら誰も来れないと思っていた壁を登り切った奴がいた

初めてのことだったけど特に興味はなかった

あの高さから降りれないだろうし、降りたとしてもこの城は扉がないんだから入ってこれはしない


パリンッ!!


「!?」

まさか窓が…!?


「あー流石に痛いなぁ…」

「お前…何しに来た!!」


警戒心、恐怖、驚き

それらが同時に俺に出てきて焦るどころ騒ぎじゃなかった

窓を割って入ってきたのは青髪のガキだった

それよりあの壁からこの窓まで飛んできたのか

一応そんなことされないように距離があったはずなのに


「俺さー家出してきたから匿ってほしいんだけど」


やっと落ち着きを戻した俺の頭は急に入ってきた言葉にまた戸惑った

家出、匿う

どれも本でしか見たことがない言葉

本の中にしか無いものだと思っていた

コイツには帰る家があるって事だろ?


「家出なんて事しねぇで帰れよ」


さっきまでの表情がほんの少しだけ変わった気がした

この時の俺には独りじゃ無いことの辛さを全く知らなかった

独りじゃなきゃなんでも良いもんだと思っていた


「やっぱり…ダメ…だよなぁ…」


表情の割に辛そうな声を出すそいつ

同情なんてない、俺は顔色一つ変えずにそいつを帰そうとした

その時一瞬だけ、見えてしまったんだ

「…なんだそれ」

「え?」

紅い、紅い何か

「あ、これ?さっき窓割った時切っちゃったみたい」

…俺が殺した時には見なかったものだ

「なんていうんだ」

「知らないの?血…だよ?」

「血…?」

肉体を切ることで液体が出てくる

なんとも可笑しな造りだな

「きっと君にもあるよ」

「そんなもの見たことがない」

切ったことすら無いけどな

気付けばそいつから流れていた血、は少しだけでて止まった

「少ししか出ないのか?」

「傷が浅いからね、でも沢山出るほど怪我したら流石に死んじゃうから…やめてね?」

…なるほど

血というのは必要なものなんだな

こいつは、使えるかもしれない

「…おい」

無意識に、いや意図的に、口が動いた

「気が変わった、匿ってやる」

「ほんとっ!?」

そう言うとそいつはにっこり笑って「ありがとう」と言った


…?

「ありがとう、ってなんだ」

「えー…俺に喋るなって言ってる?」

「言ってない、いいから教えろ」

「感謝の気持ちを言葉にする時にありがとうって言うんだよ?あとね、ありがとうって言われたら、どういたしましてって言うの」


そうやって俺はそいつが新しい言葉を話す度に何度も聞いた

何度も何度も、何度も何度も、しつこいくらいに聞いた

最初は不思議そうにしてたそいつも段々楽しそうに教えた


あんなに警戒してたくせに案外あっさりと独りじゃ無くなった俺

そして…


やはり俺は『人間』とは一緒にいてはいけない存在だと知った


初めはちょっとした違和感だった

あいつはそんなに成長しなかった

貫禄なんてものもなかった

ただちょっと大きくなった気がした


それだけだった


ある日、そいつがいつもより起きるのが遅くなった


嫌な予感がした


「…前より騒がしくなくなったな」

「もう若くないからね」

「…」


思わず黙り込んでしまった

あぁ、この光景見たとこある

段々寝てる時間の方が多くなるんだ

そして最後は…


…最後は…っ


こみ上げてくる何かがあった

それが何かは分からなかった

ただ、何かを願っていた


「ねぇ、まだ教えてなかったことあるんだ」

「…」

なんだよそれ

言わなくていい

思った事は沢山あったけど何一つ言うことが出来なかった

「失いたくないほど大事な人のこと、愛してるって言うんだよ」

「あい…して…」

失いたくないほど大事な…?


失うってなんだよ

俺の前から居なくなるのか?

消えてしまうのか?


もう二度とその声を聞けなくなる?

もう二度とその顔を見ることも?

なんで…なんでそんな…



「ねぇ…」

「…」


何かを願うように俺を見る

どうして欲しいのかわかってる

分かってるけど言えない

言いたくなかった

言ったら終わりな気がした


なぁ頼むよ…お願いだから…

俺を…独りにしないでくれよ…


俺の目から熱い何かが流れる


なんだこれ…?


「…それは涙だよ、悲しい時とか辛い時とか嬉しい時とかに出てくるんだ」

「…お前…」

「…あ、俺も泣いちゃった…もらい泣きかなぁ」

「っ…」


俺はそいつの手を握って、何かを言おうとしてた


でもその時にはもう、手遅れだった


あいつはずっと我慢して我慢して我慢してたんだ

俺はそれに気づけなかった


もっと早く気づけばよかった、言いたかった、後悔しか俺の中には残らなかった───────































「えるー?なにしてるのー?」

「んぁ…?あぁイアンか…」


読んでいた本を閉じる

俺に抱きついて離れないそいつの頭を撫でてやる

嬉しそうな顔をしながら異変に気付いてこちらを見る


「あれ?本読み終わったの?」

「まぁな」


ほら離れろと促せば少し不満そうながらも俺から離れる


「なんか今日のエルは変だね?」

「あぁ?そんなことねぇよ」


何百年も何千年も、何億年も待ち続けた

また会えることを願って

今度は絶対伝えようと思って


もうお前は覚えてないだろうけど


「あ、ねぇねぇエル!これエルが作ったの!?」

「あーおう」

我ながら物騒なもん造っちまった

イアンの刀はもう斬りすぎで錆びついてるしと思って新しいのを造った…

「これくれるの?」

「そのために造った」

イアンは嬉しそうにその刀を眺めたあとこちらを向いて

「ありがとう!」

と満面の笑みで言った

つられて俺も少し笑いながら

「…どういたしまして」

と言ってやった















「おいエルなにニヤニヤしてんだよ」

「いい感じに終わったんだからほっとけよなぁあああ!!!」

「うるせぇ黙れ追い出すぞ」

「いつからお前が主権握るようになったんだよ」

「言い間違えた、親父に追い出してもらうぞ」

「やめてくださいお願いします」

「なぁ今日の飯はー!?」

「変態の丸焼き」

「やめて差し上げろよ」

「わぁ食べたくないね」

「ちょっ!違うから!違うからね!?俺の丸焼きじゃないからね!?」

「名前出してないじゃん、丸焼きにして欲しいの?」

「やめてっ!」



(なんつーか、昔よりも騒がしくなったな…)

嬉しいような辛いような

でも辛くなるならまたその時に考えればいっか

今笑ってられるならそれでいいや


俺にしては珍しく妥協した


「おいロリショタコン」

「んだよドS主夫」

「そういや手紙来てたぜ」

「え?」










俺の問題は一つじゃないことを、忘れていたわけじゃないがその時あれでいっぱいだった俺は、思い出したように、

「あああああああああああああ!!!!!」


叫んだ。

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