プレゼントのいらないX'mas
あらすじに概要は書きましたが、
さくっと読める短い話です。
今日はクリスマスという事で投稿しました。
デートへ向かう移動の時間潰しに、
ちょっとした暇潰しに、
さらっと読んでいただけたら幸いです。
師走も師走、クリスマス。
「プレゼントはいらないよ、
あなたと一緒に過ごせられたらそれでいいの。」
そうは言われたものの、
やっぱり何か思い出の品をと、
仕事の合間、昼休みにジュエリーショップのウィンドウを眺めはした。
眺めながら、でもやっぱりやめる事にした。
君がへそを曲げてしまったら台無しだし、
なんとなく言いたい事がわかっていたから。
物や形で示すよりも、
二人で今日をどれだけ楽しみ、愛を分かち合えるか。
忙しい師走、業務報告のまとめに追われながら、
だけど僕はとにかく夜が待ち遠しかった。
待ち合わせはガーデンプレイス、ツリーの前で。
思いのほか長引いてしまった残業を終え、
オフィスを出てタクシーを拾い恵比寿まで。
時計をちらちらと見ながら、まだかまだかと。
恵比寿まであと少し。
だけど道が渋滞していたからタクシーを降りて僕は走った。
君の元へ向かって。
刺すような十二月の寒空。
東京の冬は天気予報の報せる気温よりも寒い。
人込みを縫うように駆け抜けて急いだ。
いつにも増して君に逢いたくて。
たどり着いたのは人だかり、
大きなクリスマスツリー。
色鮮やかに輝いていた。
そしてそれを見上げる君の後ろ姿を見付けた。
僕はためらう事も忘れ、後ろから抱きしめた。
君は驚いて顔で振り向いた。
『遅くなってごめんね。』
耳元で囁いた。
君は抱きしめる僕の腕をほどき、
振り向いて笑いながら言った。
「人違いだったらどうするつもりだったの?」
僕を見つめながらくすくすと笑った。
セットアップされたミルクティー色で長いゆるふわの髪。
シックな装いのドレスコード。
いつもより艶やかなメイク。
だけど少女のように屈託のない笑顔で。
ツリーの光を背にした君が、
いつにも増して天使のように輝いて見えた。
「メリークリスマス。」
僕の手を握りながら、はにかんで君が言う。
僕はその笑顔に見とれて、
うん。としか答えられなかったから情けない。
僕もプレゼントはいらないからねと伝えておいたけど、
うん、たしかにいらないや。
もう既に胸いっぱいに幸せが溢れていた。
僕らは手を繋いで光の庭へ歩き出した。
彩るイルミネーション。
オブジェクトが輝くライトアップ。
照らされた夜、
綺麗だねとはしゃぎながら君が言う。
そんな君が、どうしてだろう。
あまりに愛しすぎて直視できなかった。
行き着いた先は少し暗いガーデン。
控え目の光が影を使って聖夜のムードを漂わせてた。
少し照れ臭そうに、
「幸せだなあ。」
なんて君が呟くもんだから、
君が愛しくて、愛しくて。
強く手を握りしめる事しか出来なかったから情けない。
胸いっぱいの幸せに時間も忘れていた僕は、
「ねえ、今日は何を食べようか?」
君の言葉でふと我に帰り、
時計を見た。
『ここから近くに良い店があるんだ。
いつか君を連れていきたいと思っていたんだけど、
そこで良いかな?』
君は嬉しそうにうなずいて、
僕らは光の庭を後にした。
良い店がある。
だけど実は事前に予約をしておいた。
レストランの扉を開けば支配人が笑顔で迎えてくれた。
「メリークリスマス。
お待ちしていましたよ、お二人さん。」
君が不思議そうな顔をしていた。
「彼とは旧知の仲でして。
あなたのお話…、
いや、のろけ彼から聞かされていました。」
支配人の言葉に照れたのか、
君は前髪を少し整えて、
丁寧にお辞儀をして微笑んだ。
「わお、ビューティフル…。
まいったな、天使がご来店された。
これは、シェフにも伝えなくてはならないな。」
口元に手をあてて笑う君を見る度に、
何度でも込み上げる感情がある。
それは君と出会えた奇跡に対しての、
胸いっぱいの感謝の気持ちと喜び。
席に着けば運ばれて来た。
小さなホールケーキと、
グラスに注がれたシャンパンが二つ。
ケーキには
「merry X'mas,I love you.」
と書かれたチョコレートのプレートが添えてあり、
驚いた君の顔はとても愛らしかったから作戦は成功だ。
『料理はコースで頼んでおいたから、
乾杯して先にケーキを食べちゃおう。』
うん、と君がグラスを手に取れば。
「ねえ…、
グラスの中のこれ…。」
『ああ、うん。
クリスマスのプレゼントじゃないよ。
これはただの婚約指輪さ。』
あまりに唐突な出来事に驚きながら、
ひと雫の涙が君の頬を濡らした。
「でも私、いつまで生きていられるか…。」
『大丈夫、僕は信じてる。
愛はきっと、どんな苦難な壁も越えていけると。
だから、どうか受け取ってほしい。』
ぼろぼろとこぼれる涙。
君は声を殺しながらシャンパンを飲みほして、
指輪を僕に渡してくれた。
僕はうつむく君の白い手を取り、
その細い指にそっと輪を通した。
『年が明けたら式の準備を始めよう。
準備が整ったら、記念に籍を入れよう。』
君は泣き濡れながら満面の笑みでうなずいてくれた。
「私、頑張って生き抜いてみせるから…。」
レストランの薄明かり。
小さなキャンドルに照らされたその笑顔は、
まさに天使そのものだった。
-fin-
とあるクリスマスの短編でした。
僕は今年はシングルベルだけど、
カップルの皆さんはどうか素敵なクリスマスを過ごしてください。
シングルの同志諸君は、
来年に向けて頑張りましょう(笑)
ではでは、短い話でしたがありがとうございました。