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雅美の書簡  作者: 唐子
【一年目】
9/30

安藤 聴香 (2月27日)

なんか悩んでます。

『 聴香へ


 お久しぶり。手紙ありがとう。


 とうとう日程が決まったんですね。語学のこともあるのはわかるけど、4月から聴香が日本にいないなんて、不思議な気がします。

 行く前に会うのは、もちろん大丈夫!むしろ、ホテルじゃなくて家に泊まらない?ダメ?

 伯母様達にあなたの渡航が決まったことを話したら、もう一度会いたかったって言ってて。私も予定がどうなるかわからないので、泊まってくれたらありがたいな、なんて。

 うちならピアノあるし、空港まで近いし、どうかしら?聴香の負担にならなければ、ぜひ来てください。



 多分、仁千翔から話があったとは思いますが、お正月の話は着きました。もう大丈夫。心配かけてごめんなさい。

 前に、幼なじみで恋するなんてばかって言ったと思うんだけど、ばかは私だったわ。みんな気付いてたのよね、仁千翔の気持ち。

 情けなくて、混乱したけど、今は落ち着いて振り返れています。

 たとえ、私が村に残ったままでも、東京にいても、どうしても仁千翔が恋愛対象になることはないです。

 もう、兄弟なの。仁千翔は好きで、一緒にいて安心するけど、焦がれるような、演劇にかける熱情のようなものは抱けない。これがすべてです。



 最低な私の懺悔を聞いてくれる?


 私、よかったと思ってしまったの。『これで、大切な誰かの気持ちを受け入れられない感情をつかめた』って、演技の足しになるって、無意識に思ってしまった。仁千翔をふったこと、経験値として演技に役立てようとしてた。

 ぞっとした。

 私、いつからこんな、自分のことしか考えられなくなったんだろう。自分じゃない誰かになるために、傷ついてる人を冷たい目で見られるようになったんだろう。俯瞰でしか見れない自分を、切り離された、まるで他人のように感じて、ぞっとしたのよ。


 私と櫻井君との冷戦は、記憶に新しいと思います。

 人間は多角的な生き物で、人に寄って印象がが違うなんて当然ですよね。

 でも私は、無意識でも自分のイメージをコントロールしてきたと思う。

 櫻井君にはわかっていたのかしら。私が自分を偽る、というか、装っていたのが。そんな胡散臭い奴に心を開けって言ったって、無理だわ。私が彼でも、自分が気持ち悪い。

 夏に、櫻井君に謝意を信じてもらえなくて傷つけられたと思っていたけど、私にはそんな資格すらなかったんだわ。


 聴香。会う時に確認してくれませんか。

 自分に自信がなくなりました。

 演技が怖くなった。人前に立つのが、怖くなった。

 ここまで書いたらぶっちゃけるけど、スランプになった。演技の仕方がわからなくなった。

 今までだってスランプはあったけど、それは思うような役作りができないとか、そのようなことで、こんな風に演技そのものについて深く悩むなんて初めてで、すごく怖い。演技自体もだけど、演技をしない自分を想像できないのも、演技を捨てようと思わないのも。

 一芸の世界にいるあなたに聞きたいの。聴香は、ピアノが弾けなくなることってあった?その時どうしていた?

 私の記憶にある限り、あなたはいつでも練習していたけど、こんなこと聞けるのあなたしかいなくて……。

 渡航前で忙しいのは重々承知しているのだけど、こういう理由もあって、ぜひ泊まっていってほしいです。


 だめね。いま読み返したら、全然落ち着けてないわ。聴香の冷静な分析が欲しいです。



 まだそちらは雪深いのでしょう。風邪には気を付けてね。

 東京で会うの、楽しみにしています。



  2月27日

   雅美 』


作者自身、演技者よりの演劇部員でしたが、ここまで考えてやってませんでした。

ということで、これはフィクションです。実際の女優さんがこんなふうに考えてやってるかどうかは保証致しかねます。あしからず。

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