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雅美の書簡  作者: 唐子
【一年目】
3/30

西野 アリス (6月3日)

前の手紙のお返事がきたようです。

『 西野 アリス 様


 久しぶり、お返事ありがとう。あなた、文面でも相変わらずにぎやかね。


 やっぱり、というか、本当にいい忘れてただけとか、あなたらしすぎてちょっと頭痛いです。とくに秘密にしてたわけじゃないというのも安心しました。

 アリスは私達の中で抜群に頭いいはずなのに、ものすごくぬけているもとい天然なのはなぜなのかしらね……。同じ教育を受けてきたはずなんだけど。



 それで、相談の回答ですが。

 アリスの話を聞く限り、東山君は怒ってるわけではないと思います。

 私は東山君と親しく話したことがあるわけじゃないから、もしかしたらあたっていないかもだけど、彼は不安なのではないですか?


 新しい環境に、新しい面子に、それまでと同じ状態でいる方が不自然だわ。変わらない関係でいたいというなら、双方に相応の努力が必要だと、私は思います。

 まして彼は、(対外的に見て)美少女で、学業優秀で、(天然だけど)性格のいいあなたを彼女にしているわけだから、たかってくる虫に気を尖らせていても不思議はないと思います。

 無自覚なあなたのことだから気がついてないと思うのだけど、渥美の手紙から察するに、中学のころのように顔につられた男が群がってる状態なのでしょう。

 そういう有象無象は、アリスがアリスらしく振舞っているうちに淘汰されていくので、気にしなくていいです。中学の時も、学年の最初はうるさかったけど、そのうち静かになっていったでしょ?あれと同じです。


 要するに、アリスはいつも通り、東山君に体当たりして「好きだー!」とでも叫んでいればよろしい。周囲はだいたいそれで怖気づくし、察します。

 それでも二人の間に齟齬が出るようなら、話が足りていない証拠です。二人でちゃんと会話しなさい。

 とくに、東山君の不安を聞きなさい。アリスは猪突猛進なところがあるから、一回立ち止まって、周りを見渡すことをお勧めします。


 あなたの相談に対する答えとしては、こんなところかしら。外していたらごめんなさいね。



 みんなの近況を聞けてうれしいです。変わらない様子で笑えました。

 でも、壱織人は、そろそろ紫陽花しょうかちゃんに訴えられても、おかしくないと思うの。あの穏健派気取りの公然恐喝ストーカー、中学と高校に離れても変わらないって、どういうことなの。そのうち犯罪に走りそうで本当に怖い。

 身内に犯罪者を出さないためにも周囲で警戒してほしいのだけど、無理ですね。書いてて思いました。

 愉快犯だらけマイペースだらけのあなた達のなかで抑止力になりそうなのって、善くらいじゃない。どうか未成年のうちに思いとどまってくれることを願います。


 仁千翔にちかが高校でも演劇部に入ったときいて、嬉しく思います。あいつ、手紙の一通もよこさないんだもの。

 舞台美術として、仁千翔の才能は原石だと思うのです。磨けば絶対光る。何より観客の、演者の視点で空間を把握できる、素晴らしい目の持ち主です。中学時代三年間、演劇部で身近に見てきたんだもの、保証するわ。(でもこれは内緒だからね、照れくさいし)



 私の近況はというと、高校と、事務所の方針にちょっとずつペースがつかめてきたところです。

 事務所は、高校生のうちは、学生生活に支障のない程度の活動しかさせない方針で、折り合いをつけながらできる仕事を探している、という感じ。正直ありがたいです。

 アリスは演劇とは無関係で生きてきたから、ちょっと想像つかないかもしれないけど。例えばこれから先、私が『普通の高校生』の役をしなければならない場合、まったく経験を経験をしてないよりしておいた方がいい、程度の違いです。小さな差だけど、大きな差でもあります。

 私の場合、経験が想像力のきっかけになるから、普通の感覚も大事にしていきたいところです。

 演劇について語ると長くなるので、この辺で。


 高校は、なんというか、驚きの連続です。

 これ、多分、都会の学校だから女子高だからというだけじゃないと思うのだけど、大変な学校にきてしまったとだけ言っておきます。あなた達の愉快な言動に慣れた私から見ても、あの学校は、一部がちょっと特殊です。

 そうそう、才華高校の真っ白なブレザーもあのあたりじゃ珍しいものだったけど、うちの学校の制服もぶっ飛んでます。夏に帰省した時にでも見せますね。アリスなら似合いそう。あなたのお父様が着せたがったのもわかるわ。私は似合ってるか、毎日不安です。ラベンダー色のセーラーワンピって、日本人には厳しいと思うのよ……。



 アリスの手紙を読んで、ちょっとだけホームシックになりました。ちょっとだけね。

 村を離れると決めたのは私だけど、でもやっぱり、都会で一人は心細いものね。早樹ちゃんや聴香からも手紙をもらったけど、あなた達のいつも通りの言葉を読むと、やっぱり私は村の子なんだなって思います。同時に今一人でいる自分に心細くなるのよ。愚痴ね、これは。忘れてください。


 お盆には帰省する予定です。詳しい日にちが決まったら、また手紙に書くわ。

 同級会を計画してくれてるんですって?とても楽しみです。みんなの顔が早く見たいわ。


 それでは、お盆に会えるのを楽しみにしてます。


  6月3日

   師村 雅美



追伸:

 東山君と仲良くね。 』


西野 アリス ・ど天然。・自覚のない美少女。・幼なじみの中では抜群に頭脳明晰。・でも天然。・幼なじみの中ではボケ担当。無自覚ボケ。・自分に素直。


東山君 ・何の因果か、アリスとお付き合いしている男子。・中学では首位争いしていた。・常識人。・常識人。←・突拍子もない彼女ができて中学生で胃薬と友達。

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