春日 渥美(7月15日)
※ 今回、あとがき部分に小話もどきが潜んでおります。
「そういうのちょっと……」という皆さまはご注意ください。
『 春日 渥美 様
こんにちは。お返事どうもありがとう。
なんというか、やっぱり花梨がやらかす気満々なのはわかりました。わざわざ確認したのね、あなた。地雷は踏まなかった?渥美のことだからちゃんとタイミング計ったのだろうと思うけど。
抑圧すればするほど盛大に爆発するって経験則でわかってるはずなのに、どうして三国のじい様はしちゃうのかしらね?おば様方は、わかっててじい様も花梨も荘助も放置してるみたいだけど。本当もう、花梨の母親としか。他所の家のことながら、こういうのはひやひやします。
とにかく、卒業までは傍観姿勢で平気とわかっだけで気が楽になりました。渥美にはいろいろ動いてもらって、ありがとう。感謝してます。
壱織人はね、まだしばらく許しませんよ?
渥美がいろいろ聞き出してくれたおかげで考え至ることができたけどね、本当にね、気持ちはね、わからないでもないのよ。
私が鈍感やらかしてたのは事実だし、それで少なからず仁千翔を傷つけたのも事実だし、櫻井君の私に対する偏見と態度が悪いのも事実だけどね?
それ、壱織人が言及することじゃないよね???
仁千翔に関しては気を遣わせて申し訳ないと思ってるけど、壱織人が櫻井君に間接的に嫌がらせをする理由にはならないわ。していいとすれば、それは私だけで、私自身は櫻井君に偏見持たれてたって仕方がないと思っているのに、壱織人はそれが許せないのよ。
渥美の言うとおり、壱織人は懐に入れた人間に対して過保護なのよね。一応私も入ってたみたい。知らなかったけど。
たしかに、誤解されたままってきついです。人格否定されるのも、いやみ言われるのもね。オーディションとかでいろいろ言われるの慣れてるとはいえ、良関係を築きたいと願っている相手に対して暖簾に腕押し状態が続くのは、精神力をがりがり削られるけど。ある意味自業自得で、しょうがないことなのよ。
とりあえず、壱織人の頭が冷えるまで、あいつのことは放置します。多分この対応も読んだうえでのことなのだろうというのがわかるっていうのも、業腹なのよね。くそう。気持ちはうれしいのに、素直にお礼を言いたくないのが壱織人という人間だと思うのだけど!
櫻井君のことは、もう、なんていうか、笑うしかないですよね。ハハハ。
聴いてもらえるなら、私は人の心を弄んでよろこぶ趣味は絶対ないし、これからだってしたくない。これだけは信じてもらいたいんだけどね。あなたの言うとおり、私は何か、彼の頑なになる琴線にどうしても触れてしまうみたい。
渥美には多方面に気を使ってもらって、申し訳ないです。本来それって私とか壱織人とかの役目で、櫻井君だって決して気遣いができない人じゃなくてむしろ気ぃつかいまくるはずの人なのに、どうしてこんなことになっちゃったのかしらね……わけがわかりません。
私側のストッパーになってた壱織人の暴走と、聴香の不在が影響しているのかしらと考えるのだけど。きっと、私と櫻井君の相性が絶望的に悪いせいだとも思うのよ。投げやりに考えればね。
とりあえず、櫻井君に関しては、これから先私側から仕掛けるようなことは一切しないことにしました。やって、すれ違い様あいさつ、その程度ですね。
言葉を尽くしても尽くしても悪化しかしないというのがこんなにもストレスになるなんて、知らなかった。
冷たいと思われるかもしれないけど、仕事に影響が出るほど体にガタが来てしまったので、いったんそちらを切らせてもらいます。胃に穴が開きかけました。びっくりね。これは内緒よ。
どうせ夏冬の短期間しか会わないし、櫻井君には私のことは忘れて日々を平穏に暮らしてもらえればと、そう考えているんだけど、渥美はどう思う?
問題を先送りにしていいことなんてなかったのは経験からわかってるけど、仕事と学校とおけいこ事らと、それだけで目も回るくらいなのに、自分を嫌ってる人との関係改善(しかも遠距離)なんて、多忙もいいところよ。
なので、しばらくは目の前のことに集中することにします。こういう時、花梨ならどういう風に櫻井君に接するのでしょうね。教えてほしいわ切実に。
今年の夏は、短期間しか帰省できなさそうです。時間を見つけて、みんなで葉市のところに見舞いに行きましょう。
それでは、またね。
7月15日
師村 雅美 』
かさり。便箋が開け放した窓からの風で小さく揺れる。
渥美に届いた、4月からつい先日までの手紙の束を時系列に読み終えた善は、ベッドにもたれた渥美から発せられる圧力に、自然うつむく。渥美の手元には、善に届いたこ雅美からのこれまでの手紙が数通ひろげられている。
季節柄だけじゃない汗が、背中を冷やした。
「…………」
「さて。なにか、思うところは?」
「…………」
「別に、善を問い詰めたいとか、そーいうんじゃない。何を思おうが、お前の自由だしな」
「…………」
「ただな、雅美も俺の幼なじみで、あいつは女子だ。男が無暗に傷つけていいはずがないし、それは精神的な暴力でも、だ。
遠くで夢をかなえようと頑張ってるの、知ってるし、近くで見てもいた。村で微妙な立場だったのに、自分の役目をまっとうしようと努力していたのもね。お前も同じ条件だったはずだけど?」
「…………うん。知ってる。見てた」
「違う風景に見えてたみたいだけどな。まあ、たしかに、雅美はひいきされてた部分もあったよ。でもそれは多少でささいなことで、あいつが自分の責任に対して真摯に向き合って生まれた副産物でしかない。村長の娘で、次期村長だったから、偉くてひいきされてたんじゃない。雅美が努力したから、まわりもそれに応じてあいつに対して甘くなった。ひいきも喜んで受けてたわけじゃないって、今ならわかるだろ?」
「大人に、雑に扱われてるとこも、見たことあるよ。彼女は、笑って流してたけど……」
「冷静になれば、ちゃんと考え付くのに、どーしてお前は雅美に対してはそう短気おこすんだ。あとから絶対後悔するってわかってて」
「~~~~っ」
「頭抱えたって遅いよ馬鹿。
でもあれだ、正月で取り戻した分はこれでマイナスに振れたからな?自己管理徹底な雅美が体こわすって、結構なストレスだぞ?お前に来た手紙読ませてもらってもわかるけど、これ相当他人行儀だからな。あいつのためにも、謝罪の手紙書いたら、いったんここは距離を置いた方がいい」
「なんて、書けばいいかな……」
「知るかボケ。自分で考えろ頭いいんだから」
「ううぅ……」
「ただ?自分から非を認めて謝罪して歩み寄ってきた人間に対して最低でクズなことしてる自覚があるんなら?まあ誠実に謝罪を重ねるしかないよな」
「(あ、これ、激怒だ!)……ハイ」
渥美は傍観者だけどフェミニスト。
善は盛大にやらかしている。




