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雅美の書簡  作者: 唐子
【一年目】
1/30

櫻井 善 (3月8日)

書簡集形式です。特殊な書き方なので、ご注意を。

J・ウェブスターの「あしながおじさん」がお好きな方はわたしと握手しましょうノ

『 櫻井 (ぜん)


 唐突な手紙に驚いたことと思います。

 中学卒業を機会に、どうしてもあなたに言いたいことがあって、筆を取りました。

 あなたが私のこと、どう好意的に見積もっても苦手に感じてることはわかっているので、聞きたくない見たくない読みたくないと思ったら、ここで止めてもらって構いません。

 二枚目から、本題に入りますね。




(二枚目)


 読んでくれてありがとう。では本題に入ります。

 私はね、善、あなたと仲直りをしたかった。

「は?」って思うでしょう?ちゃんと順序立てて書きます。


 私が東京の高校に進学することは、すでに周知のことですね。狭い村の中で、隠しておく方が無理ですもの。

 それで、村を離れる前に、あなたと和解しておいた方がいいと、早樹(さき)ちゃん・聴香よりか壱織人いおと(他にもたくさんいるけど割愛)に言われました。実は私も、そこだけが心残りでした。


 あなたが小学三年生の冬に転校してきてから、私達は一度、激しく衝突しましたね。様々な要因で、一応なし崩しに仲直りをしましたが、あれを境にクラスは分断された。

 学年一クラスしかなかったのに、私達の衝突に、他の子も巻き込んでしまった。

 みんなマイペースな子ばっかりだったし、表立っていさかいがあったわけじゃないけど、なんとなく私達に気を使ってくれてたのはあなたも感じ取っていたはず。


 あのころの私は未熟で、あなたの立場でものを考えられていなかった。

 あなたの言動に含まれた負の感情に過敏に反応して、相応以上の言葉を返していました。かたくなでした。そんな態度をとられたら、転校生だったあなたは、ますますかたくなになるしかないですよね。

 今ではあのころのあなたの強がりや不安を共感できると思います。なにせ、今度は私がその立場です。


 もう高校生になるのだし、いい加減周囲に心配や余計な心労をかけるのも心苦しいです。

 何より、故郷にわだかまりを残して上京したくない。あなたも知っての通り、私は郷土愛が強いので、村は心安らぐ場所であってほしいのです。


 要するに、「ここらで手打ちにしましょう」そう言いたいのです。

 中学までみたいに、道ですれ違っても無視とか、伝言ゲームみたいな業務連絡とか、そういうのは無しにして。


 幸いなことに(あなたにとってね)、これから私は滅多に村にいません。精々盆暮れ正月の短い期間です。

 せめてその短い期間、たまたま出会したり、見かけたりしたら、普通にあいさつや、一言でも世間話をする。お互いのテリトリーを守りながら、少しだけうちとける。そういうことを始めませんか?というか、私はそうします。もう決めました。


 あのときはごめんなさい。

 あなたにぶつけた言葉は、あの時の私の真実で、正義であったけど、きっとあなたを傷つけるものだった。

 言う必要のない言葉だった。あのころの私に、もっと想像力や配慮があったら、考えはしても口には出さなかった。

 あなたは頭のいい人だから、私に言われなくたって、きっと気づいてた。余計なお世話だった。後悔しているし、反省しています。



 そろそろおしまいにします。実はこの手紙、卒業式の後に教室で書いています。

 出発の日にあなたの家のポストに投函するけど、ちゃんと手に渡ったかしら?


 私の提案に賛同してくれるなら、今度会ったとき、あいさつを返してください。多分お盆には帰ります。



 最後になりましたが、善、卒業おめでとう。

 才華高校に進んでも、きっとあなたはがんばるのでしょうけれど、どうぞ健やかでいてください。


 ここまで読んでくれて、ありがとう。



  3月8日

 師村しむら 雅美みやび 』


サブタイトルは、宛先名+(書いた日付)でいきますが、読み辛ければ変更します。


※12月10日まで連日投稿します。0時更新です。

※【一年目】は全10話です。よろしくお願いします。

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