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Simulation War of Micro  作者: 卦位


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第14話 田楽狭間④

 今川の最盛期を築いた黒衣の宰相。その名を冠したユニットが姿を表した途端、義元が発していた金色のオーラが更に密になった。

「殿、領内の整備を」

「うむ、今川仮名目録を徹底せよ!」

 俺達のユニット能力が更に弱体化する。


 イータのコクピットの中に警報音が鳴り響く。


 アルファ:出力低下30%→50%

 ベータ:照準精度低下40%→65%

 デルタ:機動力低下25%→45%

 イプシロン:装甲強度低下20%→40%


「ホーキングさん、これって弱体デバフ領域ですか」

「え?出刃包丁ってなんですかー」


 ブラックインパルスさんと李苑さんから真面目な声とノー天気な声で通信が入る。


「デバフです。多分範囲がどれほどか分かりませんが太原雪斎が出現してから更に強力になりました」

「太原雪斎…それに今川義元!桶狭間か」

「なになにわかんないよー」

「とにかくとてもまずい状況です。でもお二人が来てくれたんで、なんとかなると思います」

「騎馬と足軽は」

「義元が召喚しました。武田騎馬隊と北条の地黄八幡です。愛李、二人に今までの戦闘データを送れ」


 義元が太刀を掲げた。


「もう軍議は済んだか。ならばいざ、開戦じゃ!」


 またしても鎧武者が出現した。しかし今度は槍を抱えた足軽のみ。そしてその前面に地黄八幡が槍衾を造っている。槍衾は李苑に狙いを定めて前進してくる。

 アレキサンダーとユリシーズが槍衾に立ちはだかるが押されて後退する。ランスロットが矢を放つも槍に弾かれる。


 ブラックインパルスは義元から距離を取り遠距離からミサイル攻撃を行うつもりだったが、武田赤備えがドッグファイトを仕掛けてきたので対応するしかない。やはり対地攻撃専門のA-10には分が悪い。ブラックインパルスはA-10を戦闘空域から離脱させた。となると1対2の状況が生じる。F-15が二騎の赤備えに挟み撃ちにされる。機動性で劣るブラックのユニットは次第に義元の『法治支配』領域へと誘い込まれていく。義元も三人の方に移動している。動きは遅いが法治支配から抜け出ることが難しい。


「殿、領内の街道整備が終わりました」

 雪斎が義元に告げた。

「うむ、行くぞ」

 突然目の前に義元が現れた。さっきまでゆっくりと歩みを進めるだけだった義元が瞬時に移動した。袈裟に斬り掛かってくる刃をイータはかわした。俺は反応してない。いや、できなかった。イータが——俺を庇って、かわしてくれたんだ。

「愛李、今のは」

「移動力増幅と思われます。範囲を推定します」

 今川家の戦国大名としての力が、ユニット能力として具現化してるのか。

「ガンマ以外の全機、マスターの周りに展開。身を持ってマスターを守れ!」

 ユニット達は動かないボディを無理やり動かし俺の周りに移動しようとする。槍足軽が俺にむかってくる。アルファたちがなんとか間に合い足軽たちと戦い始める。

 本来の性能なら俺のユニットたちが中ボスクラスに遅れを取ることはない。しかし強化された『法治支配』の中で弱体化が著しい各ユニットは足軽どもを倒すことができない。


 全体的に押され気味、これといった打開策がないままズルズル後退する三者同盟。その最中、ブラックのF15と戦っていた赤備えの一騎が翻って李苑のアレキサンダーに突撃、アレキサンダーの背中に槍が突き刺さる。アレキサンダーは動きが止まった。その前に太原雪斎が現れる。

「既に織田に勝ち目はない。今からでも遅くはない。今川家に仕えぬか」

 そう言って雪斎は右手を伸ばし、アレキサンダーの頭を掴んだ。アレキサンダーは激しく痙攣したが数秒後、姿勢を正し直立した。雪斎の手が離れる。

「新参者よ、しかと働くがよい」

 振り返ったアレキサンダーの目は真っ赤に染まっていた。そして横で戦っているユリシーズに襲いかかった。

「何してるの、アレキサンダー。ちょっとやめなさい!」

 李苑の声はアレキサンダーには届かない。

「今巴よ無駄じゃ、その者は既に今川の者じゃ」

 李苑の声が悲鳴に変わる。ランスロットは加勢するもどうしていいか迷っている。


「殿、今巴の軍勢、捨て置いても良いかと」

「そろそろ決めどきかの」

 義元は腰を低く下げた。両手で太刀を握りしめ左に構える。

「アレがくる。みんな離れて。遠くへ逃げるんだ。」

「アレってなんですか」

「義元の必殺技」

 そこまで言ったとき


「海道一の弓取りが一太刀、受けてみよ!」


 2回目のファイナルショットが放たれた。


 T-50とF-22ラプター以外の戦闘機は墜落した。

 ユリシーズは倒れ込みランスロットはアーサーの前で仁王立ちだ。

 俺の全ユニットは倒れ込み、マザーがかろうじて浮遊状態を保っている。

 三者同盟、戦闘不能。


 赤備えがT-50とF-22ラプターの左右、真後ろに張り付いている。いつでも撃墜可能と言わんばかりだ。


「いや!もうやめて、やめてよー!!」

 ユリシーズが痙攣している。


 ゆっくりと確実に義元が歩いてくる。

「首をもらうぞ」

 俺に向かって歩いてくる。胸が締め付けられた。

「マスター、今すぐ撤退を!」

 愛李の声が届くが身体が動かない。震え始める俺の身体。こ、怖い!

 イプシロンが立ち上がった。どうした、イプシロン。

 義元の前に通せんぼをするように立ち塞がった。ふらつきながら。

「ほう、主君に対する忠義の心やあっぱれ」

 手にした太刀を振り下ろす義元。イプシロンは左手を上げ太刀を受け止めようとする。

 ギャイギーン

 イプシロンの左肘の先が地面に落ちる。頭が割れている。

「ま、マスター。撤退を…」

 振り絞った合成音声が俺の耳に届いた。

「ふん、頑丈だの。どれ程か試してみるか」

 太刀をしまった義元の右手に先ほど口元を覆っていた扇子が現れた。

「ほれほれほれほれーーっ!」

 休む間もなく打ち下ろさせる鉄扇。両手を頭の上で交差させひたすら耐えるイプシロン。左手が揺れながら落ち、右手だけになる。

「クソっ、やめろ。イプシロンもういい、下がれ。命令だ下がれ」

「その…、メイレイはマスター保護義務に反しています。却下」

 ガゴッ。右腕がはじけた。

 アレは俺だ。怒りに任せて自分より弱い者をいたぶった、鈴木を叩き続けた俺だ。


「もうよい、飽きたわ」

 義元が前蹴りを繰り出しイプシロンは吹き飛ばされ、動けなくなった。

 義元の目が俺を射抜く。近づいてくる。


 何なんだ、なんでこんな目に合うんだ。ここ箱の中だろ。中の桶狭間だろ。ただのバトルフィールドじゃないのか。おかしいだろ!!

 桶狭間で死ぬ??えっ?…


 桶狭間、なんで桶狭間なんだ。フィールドが書き換えられた、義元によって。ここは義元の記憶だ記憶、コイツここで死んでるだろう!!


「義元、お前がここに来た時、雪斎はいない。とうに死んでいたからな」

「ぬう」

 そして雪斎の動きが止まった。

「ブラックさん、たのむ!」

「引き受けた」

 T-50からミサイルが一発雪斎に向かう。

「おのれ」

 ぎこちなく動きながら雪斎は錫杖でミサイルに備える。

 パシュイーン

 ミサイルは雪斎の面前で爆発、金属チャフが雪斎を包む。

「目眩ましか…グオっ」

 赤い弾道のミサイルが雪斎を貫いた。何の誘導装置もなく、ただ真っ直ぐ飛ぶだけの運動エネルギー兵器。まさに弓から放たれた矢。

「と…の、ごぶ…うん、を」

 その場に倒れていく雪斎。アレキサンダーとユリシーズの目の色が元に戻った。

「雪斎ー逝ってはならん。儂の下で儂を支えよ、師傅よー」

 義元は嘆き叫ぶ。雪斎が亡くなってから今川家が衰退していったのは確かだから。

「思いだせ義元、空の色を。雲の流れを。あの日雨が降ってきたことを思い出せ」

 風が強く吹き始める。雲の流れが速い。ぽつ、ポツ…ぽつポツポツ、ボーツボーツズァー。

 雨が降り始めた。雨足が強くなる。『法治支配』威力が急速に弱まった。三者同盟のユニットは自由を取り戻す。満身創痍ながら心が前を向く。

「赤備え覚悟ー!」

「もう、ホントに怒ってるんだからーーーーー!」

 ブラックインパルスと李苑は武田と北条の軍勢を打ちのめしていく。そして鎧武者たちもなぎ倒し今川の軍勢は敗勢に追い込まれる。

「義元、ここまでだ。ここでお前は討ち取られるんだ。覚悟しろ」

「マスター。お待ちを」

「何だ、愛李」

「今川義元を討ち取ったのは信長公ではありません。家臣の毛利新介です」

「そうか、ならアルファ。アルファ行けー」

 俺の声にアルファは反応した。だが…動けない。二発のファイナルショットを受けた俺のユニット達はほぼ大破状態。まともに動けるユニットがいなかった。

「そんな、ここまで来て、こんな事、くそ、どうするんだ。愛李、愛李ーーなんとかしろー!!!」

 やけくそになり俺は叫んだ。その叫びを受け止めた愛李は…


 マザーブリッジ内の全オペレーターの集中力が上がり、一心不乱にタッチパネルを操作し始めた。愛李の目はエメラルドグリーンに染まる。

「マザー主砲を重力子エネルギー撃ち出しに転用。アルファのπ次元座標及び次元距離を確認。主砲の稼働限界時間を算出せよ」

「稼働限界時間1.19秒」

「蓄積可能エネルギー算出…アルファ再稼働に問題なし。減衰率は」

「22%」

「了解。いける。重力子放出シークエンスを開始せよ。発射時間は」

「後12秒」

「縮めろ。艦の損傷を考慮するな」

「了解。あと6秒」

「5,4,3,2,1,発射」

 マザーの主砲の前に撓んだ球状の空間が発生し。アルファに向けて撃ち出された。空間はアルファを包み、そしてシャボン玉が弾けるように消えた。

「マスター。いけます」

「よし、アルファ、名乗りを上げよ」

 アルファは立ち上がった。ビームサーベルを抜き義元に向かう。

「われこそは織田信長公の家臣、毛利新介。今川治部太夫義元殿、その首頂戴いたす!」

「雑兵ごときが、舐めるでない」

 義元が太刀を振るおうと構えたが、アルファのサーベルが一閃、義元の首は地面に落ちた。

「今川義元。討ち取ったり!」

 首掲げてアルファが勝ち名乗りを上げる。上書きされていた空間が元の公園に戻っていく。


 義元の首と胴体は普通のロボット型ユニットに戻った。このプレイヤーに義元の怨念が憑依していたということか。しかし義元の太刀は禍々しいオーラを放ったまま、地面に刺さっている。

 俺は太刀に近づいていった。

「マスター、その太刀は危険です」

 愛李の警告を無視して左手で太刀の柄を握る。

(おのれ…許さん、尾張のうつけめ、儂が海道一の弓取り…)

 太刀から義元の思念が流れ込んでくる。ただただ怨嗟と呪詛にまみれた禍々しい意志が。

 コイツは俺の未来のひとつなのかもしれない。

 グッと柄を握りしめ、地面から太刀を引き抜いた。腕を伸ばし目の前の太刀を見る。太刀は色を変えた。漆黒の刀身が鈍い光を放つ。

「愛李、これをイータの武装に加工しろ。名前は。確かあったよな」

「はい。宗三左文字です」

 俺は宗三左文字から目を離しバトルフィールドを見渡した。

「箱の中は…怖い場所だったんだな。本当に…」

 そう、呟いていた。


 愛李はマスターのつぶやきを聞き逃さなかった。

「そうです。目を凝らせばこの世には怖さ、恐ろしさが潜んでいます」

 視線の先にはマスターがいる。目の色がマリンブルーに変わっていく。

「マスター。愛李が必ずマスターをお守りします」

 今一度心?に誓う愛李だった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「マスター、田楽狭間の異常事象解決しました」


「ふーん、誰が解決したの」


「ホーキングをはじめとする三者同盟です」


 それを聞いた楽毅は目を輝かせた。


「良いね、凄くいいよ!やっと退屈から解放されるかもしれない」


 何をやっても他人より早く、更に上質に物事が進む。子どもの頃は神童、大きくなっては天才、鬼才。

 周りに常に女が群がる。属した集団では必ずトップリーダー…つまらなかった。何をやっても満足したことなんてない。だから箱の中に飛び込んだ。飢えを、渇きを癒すため。


 やっとその願いが叶うかもしれない。


 楽毅は心底喜んでいた。『ライバル』の誕生を。


 真那はそんな楽毅を見つめる。狂おしいほどの愛情と、熱い期待をこめて。

(マスター、私を連れて行って)

 じっと楽毅を見つめていた。



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