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色なし三角スー・イラム  作者: 甫人 一車
聖モード寺院の怪異
39/40

十八、おかしなタロガ



「何やってんです……?」


「あ? あ、あああ……」


 わたしが声をかけると、タロガはギョッとしたような声をあげた。

 振り向いたその顔は、まるでいきなり叩き起こされた眠り姫である。

 こんな間抜け面でもなお美しい顔に、わたしは一瞬ムカッときた。


 ま、そんな些事はさておき、だ。

 タロガは無言で立ち上がると、何かを思いつめたような顔で髪をかく。


 いや、掻きむしるというほうが的確だろうか。


「どうかしました?」


「なんでもねーよ」


 タロガは頭巾を付け直しながら、つっけんどんに言ってくれる。


「そうは見えませんけどね?」


「なんでもないって、言ってるだろうが!」


「だから、そうは見えないと言ってるんです!」


 ヒステリックにがなるタロガに、わたしは低い声でがなり返した。

 するとタロガめ、ムッとしながらも静かになる。

 まったく。どうしてこうワンアクション余計なことをさせるかなあ?


「ハッキリ言わせていただきますとね? わたしはあなたがどうこうしようと知ったことじゃありません、ええ。ですけど、わたしたちは一応上から一緒の任務を仰せつかってるんです。てことは、好き嫌い言ってられないわけですよ。そういうわけで、報告・連絡・相談! この三つをおろそかにしてもらっては困る。何でもないとか言って、後で何か問題が起こっては、ものすごい迷惑をこうむるんですよ、わたしが!」


 一気に言いたいことをまくしたせいか、わたしは妙にスッキリしてしまった。

 言われたタロガのほうは、ぽかんと呆けた顔。

 ひょっとして、またプッツンいくかな? と、わたしは内心ビビッてしまうが。


 パチパチパチパチ……と。


 突然変なこと言いながら、手を叩くモノがいた。


「いやー、えらい」


 というか?誰もクソもありはしない。『かけぶとん』だ。


「こういう風にガツンと言えるというのは、なかなかいないですよ。ケツブツですね」


 なに言ってんの、こいつ。


 ケツブツ? ああ、傑物ということだろうか。

 おバカなくせに、妙に難しげな言い回しを知っているもんだ。


 わたしの視線に気づくと、『かけぶとん』はなぜか自慢げな顔。

 ひょっとして、言い回しをして得意になっているわけでもあるまいし。


「くそっ……」


 わたしの視線がそれている間、タロガは舌打ちをして裾の埃を払っていた。


「――悪かったよ」


「ふぁい?」


「てめえは、ひとの話を聞いてやがったのかよ!?」


 タロガはヤクザ者みたいな獰悪な物言いで、怒鳴る。

 だけど、その顔はリンゴみたいに真っ赤だった。


「……いえ」

 わたしは思わぬタロガの反応に硬直してしまったが、落ちついてみるとなかなかによろしい展開ではあるまいか?


「いえいえ」


 わかってくださればよろしいんです。

 と、わたしがきれいに決めようとしたその矢先である。


「ま。わかればよろしいですよ?」


 横から『かけぶとん』がしたり顔で言い放ったではないか。


「な……!?」


「……?」


 いきなりの卑劣極まりない不意打ちに、わたしはただ絶句してしまう。

 同じように絶句したタロガのほうは、


「……っぷ」


 わたしと『かけぶとん』めを交互に見比べて、一笑しくさった。


 ぐお……! な、なんちゅうクツジョクか。

 が、わたしの醜態に機嫌を直したのか、タロガめは裾を払いながら、


「まあ、いったん外に出るか。埃っぽくてかなわん」


 と、妙に落ちついた顔つきで言うのだった。

 外に出るなり、タロガはお住持に何事か尋ね始める。

 少し早口で聞き取りにくいが、傍から聞いていると、


「亡くなったのはいつ頃……」


「どんなかたで……」


 と、どうやら生前離れで暮らしていたらしいお嬢さんについて、らしい。


 ふーむ。やっぱりそのお嬢さんが化けて出てきたのかな。

 と、するとわたしは生まれて初めて幽霊ってものを見たりするわけか?



       △



 それから。


 気が付けば、遅めの昼食となっていた。

 お住持主導のもと、わたしたちは寺院料理を作り、それに手を合わせる。

 寺院料理だけに肉っけとか魚っけはないけれど、お住持のレシピのおかげなのか、そこらの料理屋よりずっと美味しい。

 ちょっとしたひと手間、ひと工夫が生きているって感じだ。


「ところで――あの離れで何かあったんですか?」


 食事が終わり、一緒に洗い物をしながらわたしはタロガに問う。


「なぜ、そんなこと聞く」


「何でって。あの後急激に、より活動的になったじゃないですか。あなた」


 私の視線と声に、タロガは尼僧姿で苦笑した。


「……まあな」


 ふむ。やーらかい態度だ。やっぱり、こいつちょっと変わった。


「何て言えば、いいのか。よくわからん」


 そういうタロガの顔は、本気で困っているという感じ。

 わたしに意地悪するとか、意地を張っているわけじゃなさそうだ。


「そうだな……。しいて言うのなら、夢を見た」


「ゆめ?」


「ああいうのを、白昼夢っていうのもしれん。けっこう長い内容だった気がするんだが……。終わってみればほんの一瞬だった。それこそ瞬きするくらいのな」


 そう語るタロガの瞳は、ほんの一瞬だけど恋する乙女みたいな輝きを放っていた。


 ……ような気がするな。


 あまり色恋に縁ある生活を送っていないので、そういうことはわからない。


「顔は、わからなかったんだが。夢の中に女の子が出てきた……」


「ははあ」


「その子が、あのベッドの上で生活してる時のことがぶわっと。いや、そうじゃないな。何て言えばいい? 俺が、あの子のいる場所に迷いこんじまったような」


 語った後、タロガは身をよじるように首を振り、黙り込んでしまう。


 ……あれ。何か、これってやばくないですか?


 わたしが微かに危機感をおぼえ始めている横で、タロガはまたも語り始める。

 今度は、より詳細に……。



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