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色なし三角スー・イラム  作者: 甫人 一車
聖モード寺院の怪異
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十七、離れ家のこと



 ピンと人差し指を立てて語るタロガのお言葉。

 わたしは横で聞きながら、そんなこともあるかなと思ってみたり。


「へー。そんなもんですか。けど相手が本物のオバケなら、どうするんです?」


「さあな。とって食われるか、祟りで死ぬか……」


 タロガは壁を探りながら、嫌なことを言ってくれる。


「とはいえ、俺とお前、両方いっぺんにやられるってこともなかろう。どっちかが死んでも、どっちかが長官に報告できればいい」


「命がけですねえ……」


 確かに危険を伴う仕事ではある。しかし、こんなことで命を危険にさらすとは。

 って、ンなことになってたまるもんか! と、わたしは密かに憤慨する。


 さて。そんなことを言いながら、調査を続行していった結果。


 なんにもなかった。

 裏庭や床下。天井裏。奥の部屋。押入れの中。調べられるところは全部調べてみたのだが、特にこれという収穫はなし。


 強いていうなら、二人そろって埃まみれでくしゃみが出たくらい。

 結局のところ、僧服を汚しただけで終わってしまった。

 骨折り損のくたびれもうけ……というやつだろうか?


「やっぱり、オバケがドロドロと煙になって侵入してきてるんですかね?」


 水場で顔を洗いながら、わたしは何気なくつぶやいた。


「知らん」


 顔を拭きながら、タロガはぶっきらぼうに言う。


「でも、寺院の中は全部調べて、何も出てこなかったっていうのは……。けっこうなサイズのオバケがウロウロしてたんだから、なーんかあっても良さそうもんですよ」


 何気なくわたしが言った途端、


「アハ、アハ、アハ、アハ」


 横でおかしな笑い声をあげたのは、『かけぶとん』だった。


「それは何ですよ。ちょっと考え違いというか、見落としをしておりますよ」


「なにが」


「全部調べたとか、そのようなことをおっしゃっておいでですが? いっこ調べておられない場所がありますですよ。アハハ」


「ああ──」


 『かけぶとん』の笑いと共にタロガが膝を打って立ち上がる。


「庭の、離れだ」


 この声に、わたしもそういえば……と思い返す。

 で。わたしたちは水場から急ぎ例の離れまで走った。


 しかしなあ。

 こんなとこまでお使いにきてみたら大掃除みたいなことをしたり、走ったり……。

 役宅でこき使われているのと、あんまり変わらない状況である。



 離れは、庭にちょこんという感じで建てられた小さな建物だった。

 確かに建築年数は古いようだけど、何か品があって高貴な感じ。

 物置っていうから、もうちょっと小汚いのを想像していたが。


「思ったよりもいい部屋ですね。古いことは古いけど」


 わたしが何気なく言うと、


「いえ? 物置と申しましても、使う人がいないのせいで、ついそのようになっておりますがあそこは元々、身分の高いかたのお部屋であったそうで」


 お住持は上品な仕草で口元を隠しつつ、ホホ……と微笑なされる。


「身分が高いというのは、元々寺のお住持の部屋だったということですか?」


「恥ずかしながら、私もあまり詳しいことは存じませんの。何しろ私がここに来るよりずっと以前に建てられたものだそうで」


「ははぁ」


 壁や屋根の具合を見るに、造り自体は相当しっかりしている。

 腕の良い職人が気合を入れて建てたのだろうなあ。


「なんでも……昔ある大家のご令嬢が、事情があってこの寺で療養されることになった時に、過ごされやすいようにと元の離れを改築したとか。そんなようなことを先代よりちらっと聞きましたことがございます」


 思い出しつつ語っているのだろう。

 お住持はゆっくりと、でも聞き取りやすいお声で説明してくれる。


「ああ、そういえばここで祭られているのは……」


「ええ。薬師の女神様ですね」


 鷹揚にうなずくお住持。

 今時、しかもドゥーエのような都会では減りつつあるけど、医術・医薬の神々を祭る寺院は

無料ないしはごく安い代金でケガや病気の治療を行ってくれる。

 伝染病などが流行した時も、大いに力を振るってくれるありがたいところだ。


 それに、やんごとなき身分のかたが寺院に一時身を寄せる……。

 これもよくある話ではあるよな。

 しかし、わざわざこんな手間やお金をかけた改装をするのは珍しい。


「それで、そのご令嬢というのは?」


 わたしは壁に手を当て、感慨深く離れを見た後、お住持を振り返った。


「すっかり元気になられたと……いうのならよろしいですが、こればっかりは天の采配です。養生の甲斐もなく、若くしてお亡くなりになられたそうで」


「亡くなったってのは、その、ここでですか?」


「はい、先代からはそのように聞いておりますわ」


 わたしが離れを指すと、住持はうなずいた。

 確かに、変なモノが出てもおかしくない因縁というか、歴史のある場所だ。

 もしかすると、そのご令嬢ってのが、化けて出たんじゃあるまいな?

 そんなことも、あるかもしれない。だけど、どうも違う気がする。


 大体わたしは化け物だ幽霊のことなど、何も知らないのだ。

 竜なんかは死体を含めて見たことがあるけど、同列には語れまい。

 わたしがアレコレ思考の海でもがいている途中、


 ドスン、バタン。ドン。


「うえっ」


 いきなり離れの中から物音が響き、わたしは尻餅をつきそうになる。


「な、何事?」


 あわてながら、わたしは反射的に腰へ手を伸ばして虚空をつかむ。

 ……つい、癖で腰の剣をつかもうとしたのだ。


「ああ。さっきタロガさんが中を調べにお入りになりました」


 のほほんとされたお住持のお言葉に、わたしは赤面しかける。

 あのヤロウ、一言くらい声をかけていったらどうなのだ。


「さ、左様ですか。それでは、わたくしもちょっと失礼を」


 わたしはコホンと咳払いをしてから、離れの中へと。

 入った途端、黴の匂いが鼻を突いてきた。

 舞い上がったほこりでクシャミと咳が入れ替わり出てくる。

 ゲホゲホ言いながら様子を見てみれば、部屋の隅でタロガがうずくまっていた。


「何してるんですか?」


 タロガの前にあるのは、古びた大型のベッドである。

 かなり昔のものらしく、かけ布団もなく埃をかぶって灰色状態。

 タロガはそれを静かに触りながら、呆けたような顔をしていた。

 待てよ、かけ布団と言えば。同じ呼び名の変なヤツはどうしたのだ?

 部屋を見回すと、いた。

 『かけぶとん』め、押入れから木箱を引っ張り出して顔を突っ込んでいる。


 こんなんで調査してると言えるのかねえ……。




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