十六、こぶつきで調査
「これ、前着てたのとおんなじヤツですねー」
新しい……わけではないが、きれいな尼僧服を着た『かけぶとん』。
最初に発した言葉が、これである。素直にありがとーと言えんのかい。
「しょうがないの。ここにはこれしかないんだから。つーか礼くらい言え」
着終わった『かけぶとん』を、わたしは軽く拭いてやる。
かなりマシになったけど、近くで見るとやっぱりまだ小汚いなあ。
『かけぶとん』はドンくさい手つきながら、それでもちゃんと着れるようだ。
下着もちゃんとしたかったけど、わたしやお住持のではサイズが合わない。
こればっかりは、仕方ないね。今から買いにいくできないし。
「まったく……。いちいち手間をかけてくれるね、あんた……」
「いやぁ。すみませんねえ」
『かけぶとん』、あまり反省の見られない笑顔で応える。
ちょっと殴ってやろうかという気持ちになるな。いかん、これじゃタロガと同類だ。
しかし、こうしてちゃんとした僧服を着せてわかったけれど──
立ち振る舞いは全然だけど、この子けっこう尼僧服が似あうな。
ちゃんと頭巾をかぶらないことが俗臭いけど、そういう尼さんもわりといるし。
いっそこのまンま、ここに置いといたほうがいいのと違うかな。
「どうでしょう、お住持? この子、こちらで預かっていただくわけには」
「それは構いませんが……」
と、お住持は困った顔である。まあ、確かに今はオバケ騒ぎの最中だし。
それにこんなのを置いてかれても、そりゃあ嫌だよね。ははは。
「ジョーダンでしょお!? また、こんな辛気臭いところへ。何ということをおっしゃる! あなたは何でございますか、なんぞわたくしに恨みでもあるというような」
「うるさい。静かに!」
『かけぶとん』が騒ぐせいで、お住持とまともに話ができなかった。
まあ、今は優先事項もあるし。ひとまず置いておくか。
で。
三人そろって戻ってみると、タロガは客間前の廊下を行ったりきたりしている。
暇を持て余して、というのではなく何か異常がないか調べているようだ。
「どうです。見違えたでしょ?」
わたしは『かけぶとん』の両肩に手を置いて、タロガに言った。
「あン? ああ……。それよりも、寺院の中を調べる。お前も来い」
おいおい。愛想も何もないやつだ。物事には相応の対応ってのがあるでしょ?
尼僧姿とはいえ、女の子がちょっとはきれいにしたんだから。
「この子は? またどっかに縛っておくんですか」
そう言うと、タロガは苦虫を潰したような嫌な顔をする。
「しょうがない。そいつも連れていけ。後で聞くこともあるだろ」
やや投げやりなタロガの言葉と共に、寺院の調査は開始された。
色々と場当たり的というか、何というか。
わたしとタロガは、お住持立会いプラス『かけぶとん』を連行しながら、怪物が出たという目撃現場を中心に調べていく。
話を再度整理してみると、やっこさん寺院のあちこちに出現したらしい。
台所や、廊下。本堂。あちこち調べてから、最後は寝所。
大勢の尼僧が寝起きしていたというが、今は誰も誰も使っていないそうで。
まったく厄介な。こっちの身にもなってほしいもんだ。
行く先々で壁を床を叩いたり調べながら、わたしは嘆息する。
片手には、『かけぶとん』をくくった縄があるからだ。
腰に縄をくくりつけられた『かけぶとん』は相変わらずの態度。
わけのわかったような、わからんようなことを言っている。
鬱陶しくもあるが、こういう寂しい場所ではこんなヤツがそばにいてくれると、気が晴れて良いかもしれない。やっぱり置いとくべきかな。
「しかし……オバケは、一体何が目的でウロウロしてるんでしょうね?」
調査の最中、わたしはふと浮かんだ疑問を口にした。
すると、全員の視線がこちらへと集中する。
お住持と『かけぶとん』。そしてドアの向こうから見ているタロガ。
ほぼ無人とはいえ、一応男子禁制の最たるような場所なので、タロガは中には入りたがらずこんな形になっているわけだが……。そんなことでいいのかね?
どうせ人もいないし、荷物もないのだからちゃんと調べりゃいいのに。
「さて……相手がわけのわからない魔物のことですから」
お住持も思い当たる様子がなさそう。
まあ、そうらしいと先に聞いてるはいるけどね。
すると、横から──
「ふーん? もしかするとですね、そのオバケはですよ。ここの尼さんになりたいなぁという願望を抱いてですね、ここをウロウロしてるのかもしれませんですよ。はい」
『かけぶとん』、冗談だか本気だかわからない態度でこんなことを言う。
「寝ぼけるなよ、そんな話ってあるか。
タロガが不快そうな声で否定をする。ドアから首を突き出すようにして。
ほんと、何やってんだか。
「あのね? オバケがなんだって尼さんになりたがるわけ?」
「さああ?」
わたしが尋ねると、『かけぶとん』は首をひねるだけだった。
思い付きを適当にほざいただけか。……わかってたけどさ。
「もしそうなら、まずお住持のところへ行って『お願いします』って……」
言いかけて、わたしはものすごい馬鹿馬鹿しい気分になる。
「うるせえな。……とにかく、どうして出てくるなんてのは、とっ捕まえて直接に吐かせればすむことだろうよ。まあ、その前にねぐらを押さえるのが理想だが
タロガは吐き捨てるように、こいつらしい粗暴な意見を述べた。
「吐かせるねえ。人間の言葉が通じれば、の話ですけど」
わたしはつい嫌味っぽいことを言ってしまう。言えた義理じゃないけど。
そもそも、相手が人間だか幽霊だか、あるいはもっと別の何かか……。
正体がハッキリしないのだから、捕まえるってもなあ。
「あんまり色気を出さないで、まずは相手がたの確認を重視しては?」
「……だったら、夜までボケッと待ってろって言うのか?」
「それなら私も楽でいいですけど。あはは。そうもいかんですか」
「いくかよ」
私の軽口に、タロガはフンと冷笑する。
調子のいいことを言うバギラへ、タロガは冷ややかな視線を飛ばした。
「でもねえ?」
わたしはそれを聞き流して、なおも続ける。
「相手が本物のオバケなら、それこそ夜中に喧嘩するのは危険というか、一筋縄じゃいかないと思いますよ。化け物なんてのは総じて宵っ張り、夜型でしょう?」
「宵っ張りってのも変だが……あんまり昼の日中に出てくる化け物の話は聞かないな」
タロガはいつの間にか、部屋に入ってきている。
「だけどな、それなら余計に昼間のことが重要だぜ?」
「と、言いますと?」
「仮に本物なら、きっとバケモノも昼間は寝床でグーコラいびきをかいてやがるに違いない。そこを見つけて踏みこんでいけば、わけはない。寝ぼけまなこをやっつけるさ」
タロガはお姫様みたいな顔に、獰猛な笑みを浮かべた。
「──本物じゃなかったら?」
「だったら、夜中に忍び込んでくる場所があるはずだ。今はまだしも、そいつが出てきたのはまだ人の大勢いる時だってことだ。とすれば、相応の技を持っているか、隠し通路みたいのがどっかにあるかもしれないぜ」




