十四、ちょっと推測するに
「痛いなあーー! なにをするんですか、ひとの頭をポンポンポンポンと!」
「人が真面目に聞いてりゃ、ふざけるのをいい加減にしろ!」
「いーえ、別にふざけてはおりませんですよ?」
「ふざけてないなら、もうちょっとまともなことを言ってみろ! 布団だのなんだのと……。それから、そのウザいしゃべりかたをやめろ、タコ」
「タコじゃありません。布団ですよ」
「うるせえ!!」
まったくもって、実に不毛な口論を繰り返すタロガと『かけぶとん』。
わたしはしばし静観していたが、ついにたまらなくなり、
「ちょっと、ちょっと! やめ、やめ。こんなところでアホな会話をしないで」
かなり強引に両者の間に割って入り、何とか制止を試みる。
口論? と言っても……ヒートしてるのはほとんどタロガなので、もっぱらこいつのほうを抑えることに終始したけど。
まったくもって、疲れる連中である。
どうにかこうにか、タロガをなだめた後──
わたしたちは、『かけぶとん』をお住持の前に突き出していた。
まず、もう一度顔を改めてもらわねばならない。
「この子、やっぱり見覚えとかありません?」
「ええ」
わたしの要望どおりじっくり念入りに『かけぶとん』を見た後、お住持は首を振る。
「でも、この子ここに隠れ住んでたらしいんです。本人曰く、ですけど」
「なんですって?」
これにはおっとりしたお住持も顔色を変えた。
「この寺院には、離れがありますよね? こいつはそこに潜んで、この僧服もそこから盗んだらしいんです。お住持、そこを見せていただいてもよろしいですね?」
『かけぶとん』の頭を押さえたタロガが、低い声で言う。
目つきが怖いから、頼むというよか脅しているみたいだな、これ。
横から見ると、こいつのほうこそ幽霊とかオバケに見間違われかねん。
美人さんだけどね……。いや、だから余計か。
「わかりました。それでは、ご案内いたしましょう」
お住持の許可を得てから、わたしとタロガはうなずき合う。
「どっちが行く?」
「離れは俺が行く。お前は後で寝所とか、その辺を調べろ」
こんな会話の後、わたしはお住持と離れに向かうタロガを見送った。
先の会話が何なのかと言えば──理由は『かけぶとん』だ。
寺院の客間で、後手を縛られている僧服の少女を見ながら、わたしは頭をかく。
さっきも閉じ込めておいたところ、あっさりと抜け出した前科の持ち主。
うっちゃっておけば、またぞろ逃げ出す可能性大だ。
それだけならいいが……この寺院やわたしたちのことをよそへ行ってしゃべくり倒すというとっても素敵な危険性がある。
なので、放置するわけにはいかないのだ。
それに……まだタロガにも言っていないが、わたしはある推測を立てている。
ここに出るオバケの正体は、こいつじゃないかってことだ。
夜中に寺院をうろついていた『かけぶとん』を、寝ぼけた尼僧がオバケや幽霊じゃないかと勘違いする。
その話に影響された他の尼僧も、やっぱり勘違いをした……てなものだ。
これが完璧間違いなしだとは言えないけど、ない話ではないぞ。
少なくとも、この中に得体の知れない魔物が入り込んだというよりは。
昔むかしは、街中でもあっても夜ともなれば、怪しい魔性が入り込んで人々を脅えさせる、なんてことは珍しくなかったって……聞いような気がする。
そうだ、小さな頃ばあやに聞かされたお話だったかな。
屋内に入り込む天井をなめる怪しい魔物。
寝ている人間の枕をいじくって悪夢を見せる小鬼。
深い山の沼に潜む美しい女の精霊──沼御前とか機織姫とか言ったかなあ。
故郷の領内でも、森にしろ川にしろ山にしろ……踏み込んではいけない禁忌の場所ってのがかなりあったように思う。
ドラゴンとか危険な怪物の住処であったり、古代の墓所であったり。
そんなのはごく普通、当たり前にあるものだから別に疑問に思ったことはない。
人の近づけない、そんな場所を俗に『魔所』と呼ぶ。
田舎に行けば行くほど、その数は多くなると言うけど真偽はどうなのかね。
じゃ、この大都会ドゥーエに魔所はないのかっていうと、ない……ってことになっている。
正確には、郊外を含めた街の中にはらしいけど。
街の外──森林部や大きなの一部には、極めて危険なため立入り禁止になっている場所も、少なくはないそうだ。
とはいえ、わたしら見廻り方はあくまで街の内部担当だから、よくは知らないけど。
そんな場所に入り込んだら、どうなろうが自己責任ってことで役人も知らん顔。
人が近づかないのいいことに、隠れ家にしようとする不心得者も多いそうだが、ほとんどの場合そのまま行方不明になるそうだ。
ドゥーエが大都会として発展しているのは、この辺りにそういうものが比較的少なかったということもあるらしい。
本なんかを読んでみると、都市の発展はいかに有害な魔性を追い払い、魔所を封じ込めるかってことから始まったんだそうな。
理屈の上は、このドゥーエは東国統一の要であり、そのような点でも万全を期して造られた王都であるということだが。
けど、この事件に本当の魔物が関わっているのなら、魔所とか魔物が出入り隙がこの街にもあるってことになるのかなあ?
待っている間、わたしは『かけぶとん』に目を離さないようにしながらも、ついつい余計なことが頭に浮かんでしまうのだった。
いかん、いかん。
わたしは頭を振って、監視を緩めないよう『かけぶとん』を見る。
…………。
こいつめ、止めないのをいいことにお住持の出したお茶とかお菓子を、
「食べてもいい?」
とも聞かずにモシャモシャ喰っておられる。
そのおかげで、静かであるとも言えるのやもしれんけど。
「しかし……汚いなあ」
改めてみると、このボロボロになった僧服といいボサボサで埃まみれの髪の毛といい、同じ女として流石にこれはどうかと思うのだ。
せっかくかわいい顔をしているのに、無様なことこの上なし。
尼僧のカッコをするにしても、もうちょっと、こう……ねえ?
「ふぁい?」
口いっぱいにお菓子を頬張ったまま、『かけぶとん』は反応する。
ハムスターみたいになった顔を向けられると、ゲンナリするのでやめてほしい。
ああ、しかしそのボロい服とか、なんとか──
いかん。一度気になると、すげえ気になってきてだんだんイライラしてくる。
……うむ、そうだね。どうせ捕まえるだから、こちらの不快にならないようにしたって別にかまわないよね? いや、するべきっしょ。
考えを定めると、わたしは『かけぶとん』に向かって命令を発する。
「あんた、そのバッチィ服を脱ぎなさい」
「なんでございますか?」
「服を脱げと言ってるのだ、このスコタン」




