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色なし三角スー・イラム  作者: 甫人 一車
聖モード寺院の怪異
33/40

十二、さて困った



 話を聞き終えてから、わたしはどうしたものかと考えてしまう。

 隣に座るタロガも、多分同じような心境ではなかろうか。

 目撃者の正面を全面的に信じるのなら、それこそ素人の手に負えるものではない。

 神のとまり木である寺院へ入り込む魔性など、どうやって退治しろというのか。


 お住持は、しゃべって喉が乾いたのかぬるくなったお茶をくいっと飲んでいた。

 その姿は清楚で上品であると同時に、ちょっと色っぽかったりする。

 化粧もなく、地味~な尼僧姿なのだが何だか華やかですらあった。

 同性として、立ち振る舞いとか所作って大事なのだなあ、と痛感させられる。

 わたしはもちろん、クー姉やマー姉でもこんな風な雰囲気は出せまい。

 二人とも顔立ちだけなら、正直お住持よりもずっと美人だ。

 しかし、クー姉はちょいと人間味とか柔和さが足りない。

 マー姉はオープンで親しみやすいけども、その分少々子供っぽい。

 似たような人といえば、やっぱり浮き舟屋の女将さんだな。

 あの人は神秘的というか、どこか得体の知れない感じがしなくもないけど。


 ……それにしても、改めて考えてもやっぱりわたしらの出る幕じゃないような。

 神官とかそういったかたに、お祓いでもしていただいたほうがいいのでは?

 わたしは頭を悩ませながら、チラッと隣のタロガを見る。

 と、タロガは何故か部屋のドアへと視線を向けていた。


「どうしたの?」


 わたしの声に応えることなく、タロガは音も立ち上がりドアのほうに。

 それから、いきなりドアを開け放った。

 バン! という乱暴な音と共に、


「わああっ」


 ものすごい間抜けな声をあげて何かがひっくり返る。

 ボロボロの僧服を着た、可愛いけど汚い女の子。


「……いつの間に」


 逃げ出してきたのだろう、というところまでわたしの言葉は出なかった。

 『かけぶとん』が、ドア向こうの廊下で尻餅をついておられる。

 一応見廻り方として訓練を受けたわたしたちが、縄抜けなどのできないようにと拘束して、鍵のかかった部屋に閉じ込めたはずなのに。


「……お前、どうやって抜け出した」


「いやあ」


「答えろ、おい」


 へらりとした少女に、タロガは今にも殺しそうな視線を叩きつけた。


「ま、どっちにしろ次はお前と話をする予定だったけどな」


 暗い声でつぶやくように言うと、タロガは無駄のない動きでフトン娘の襟首をつかむ。

 そのまま、引きずるようにして廊下を歩き出した。

 どうやら最初に閉じ込めた部屋に戻るつもりらしい。


「ちょっと、ちょっと!」


 わたしはあわててそれを追いながら、


「お住持のお話は……」


「とりあえず聞くことは聞いた。今はこのコソドロをどうするかだろ」


「あんたも逃げ出したくせになんでわざわざここに来たわけ……?」


 わたしはため息を吐き、引きずられている『かけぶとん』に尋ねる。 


「いやまあ、つい」


 まったく、なぁにが、つい……なのやら。

 とりあえず『かけぶとん』はタロガにまかせて、わたしは急ぎお住持のもとへ。


「あの変なコはこっちで対処しますので……。あ、後で色々とお聞きすることとかあると思いので、そのへんはどうか……」


「はあ……」


 驚いて生返事のお住持に一礼をしてから、わたしは小走りでタロガの後を追う。

 ドスドスと音をたてて廊下を進むタロガ……。

 いや、なんちゅうか自分が尼僧の変装をしてること忘れてません?

 ……忘れてるんだろーなあ。



       ○



 寺院の北側にある小さな小部屋で、わたしたちは『かけぶとん』を尋問する。

 室内はほとんどものもなく、小さなテーブルと椅子が一つづつあるだけ。

 快適とは言い難い場所だが、静かに考えごとなどするには良さそうだね。

 尼さんたちも、そんなことに使っているのかな?

 で、『かけぶとん』であるが──


「まず聞くが……お前ナニモンだ?」


 椅子に座らされた『かけぶとん』を見おろし、タロガは傲然と尋ねる。


「ですからねー。わたくしはフトンで……」


「そんな笑えねえ冗談は聞き飽きてんだ!!」


 困り顔の『かけぶとん』に、タロガは雷鳴みたいな一喝を叩きつけた。

 横で私はビクンと震えてしまうが、怒鳴られた『かけぶとん』はポケーッとしている。


「大きな声出されましてもねー……。他に言いようというものがですよ? ないわけでございましてですね、まあ、わたくしといたしましても」


 いかんわ。これは。

 多分こいつは殴っても蹴られても、同じような返事をすることだろう。


「なめてるのか、おいコラ」


 タロガは中性的なくせにドスの聞いた声で、『かけぶとん』の胸倉をつかむ。


「あのー、すみませんですが? ちょっと、その手を緩めていただけるか、あるいは解放していただくとですね、助かるというか」


「うるせえよ」


 まるきり平常心という感じの『かけぶとん』。

 対してタロガはプルプルと震え、今にも爆発せんばかりである。

 こりゃ、まずいかなあ……?


「口の利き方に気をつけろ、ボロブトン」


 タロガはぐいっと、『かけぶとん』を椅子から持ち上げた。

 ギラリと殺気走った青い瞳が、黒い瞳をのぞきこんでいる。


「いいか? お前は余計な口をきくな。俺たちの言うことだけに答えろ」


「えーっ」


 不満そう声をあげる『かけぶとん』だったけど、

 ゴン!

 そこへ、タロガはものも言わずに頭突きを食らわした。

 ああ、あれは痛い……と、見ているわたしは思ったのだが──


「いったあ~~~……。いた、いたぁ~~~~~!」


 『かけぶとん』の反応を見るに、効果があったのやらないのやら。

 まず威圧的な態度で相手を萎縮させ、それからしゃべらせようという馬鹿でも思いつく実に単純な方法を取るつもりなのかしらン?


「余計なことをしゃべるな、と言っただろうが」


「だって」


 ゴン!

 反論しようとする『かけぶとん』。容赦なく殴るタロガ。

 しかし、こんなことやってもあんまり意味が……いや、待て。

 タロガが一人で勝手に暴力的な尋問をやってて、じゃあわたしはどうするんだ?

 見廻り方的に考えれば、相手がビビッた後、優しく対応して話を聞きだす。

 ……うん。単純で古臭いが効果的な手法かねえ。



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