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色なし三角スー・イラム  作者: 甫人 一車
聖モード寺院の怪異
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〇一、ゴクヒニンム



 冒険者とは、何ぞや。

 役宅で雑用に走り回りながら、わたしはそのことを考え続けていた。

 実を言うと、よくは知らない。

 何故かといえば、この目で実物を見たことがないからだ。

 人づてに、わずかな噂とかそんなものを耳にした程度である。

 イメージとしてはヤクザ者と傭兵、それに墓荒らしがゴッチャになったようなものか。

 どこぞで山賊や盗賊退治に冒険者を雇ったとか、そんな話を聞いたことがある。

 また? どこか遠国で人食い怪物を退治したという伝聞もあるようだけど……。

 しかしである。いくらなんでもそれはなかろう。

 どーせ熊か狼を退治したのへ、尾ひれがついただけだろーと思われる。


 怪物で有名なものは竜だが、あんなもの個人の力でどうにかできるものじゃない。


 いつか小型の竜が領内で暴れたことがあるけど、その時だって多くの人間が総出でかかり、何日もかけてようやく退治したのだ。

 騎士が完全武装で固め、近隣の狩人をすべてかき集め、法力使いも呼ばれた。

 当時十歳のわたしは、父に言われるままに地下室に避難していただけだが。

 事が終わってから死骸を見たけど、まさに怪物──化け物と呼ぶのにふさわしい。

 翼を広げれば軽く十五メートルを超え、鱗は騎士の鎧以上に頑強だった。

 そいつが暴れまわった後は天災としか言いようのない有様で、その復興作業に父が頭を悩ませていたのよくおぼえている。


 近頃は色々な技術の発展で、そういう怪物が人里近づかないようにできるらしいが。

 だとしても、所詮は人間技だから限界がある。

 毎年各所で、特に人の少ない地方ではその被害が報告されているとか。

 そんなわけだから、たかが数人か十数人、ましてたった一人の冒険者とやらが怪物退治などわたしには到底信じられない。

 神話時代の半神のようなものならまだしも、ただの人間に退治できるものか。

 んなものは、どーせ実際に竜を見たことのない連中のたわ言なのだ。


「……ぼーけんしゃ、か」


 いつの間にか、わたしはぽろりと口に出していた。


「──何だと?」


 これにすばやく反応した者がいた。

 どこか意外そうな目つきでわたしを見ているのは、中身は今ひとつだが見ただけ目は非常によろしいタロガ・セイルだ。

 雑務と考えごとですっかり周囲のことがわからなくなっていたらしい。

 ちょっとばかり気まずいな、これは。


「お前の口から、そんな言葉が出てくるとはな」


「まあ、ちょっと」


 言いよどむわたしをよそに、タロガは勝手にうなずいている。


「こういう都会じゃ、あんまり出くわしませんけどなー」


 実際、ドゥーエの街をうろついても冒険者なんて連中には見ないのだ。

 いたとしても、宿屋あたりに何人か見かける程度らしい。

 仕事がないのだ。

 冒険者がやるような仕事はほとんど役人や騎士たちに任せられる。

 どこの誰とも素性の知れぬ旅鴉の出る幕などない。


「都会には、ダンジョンなんてないからな」


 タロガはそうつぶやいて、わたしから離れていく。

 だんじょん? 迷宮、という意味か?

 そりゃ、こんな街中にそんなものはないのだろうけど……。

 わたしは、無意識のうちにタロガの背中をつかんでいた。


「なんだよ」


 うるさそうに振り返るタロガへ、


「ダンジョンって、何ですかね?」


「知らないのか」


「だから聞いてるんじゃないですか」


「……」


 いつの間にか、わたしとタロガは無言で見つめ合う形になってしまった。

 見つめ合いというより、睨み合いか。


「ダンジョンとはな、魔法使いの古巣だ。色々お宝が多いゆえ忍び込む者も多い」


 と──別の声が、わたしの疑問に一気に応えてくれた。

 見ると、長官がそこへ立っている。


「二人そろっているとはちょうど良い。ま、来てくれい」


 私はもう一度タロガと顔を合わせた後、長官の後ろに続いた。



       △



「それで、長官。お話とは?」


 長官室でわたしが訪ねると、


「うむ……」


 長官は答える代わりに、小さくうなって煙管を口にくわえた。

 と、いきなり煙管がうなりをあげてわたしの顔へと飛んでくる。

 首を傾けたわたしの横を、煙管は生き物のように空中を走り壁にぶつかった。


「な、何するんですか!?」


「よしよし」


 思わず抗議するわたしを見ながら、長官は満足そうにうなずくばかり。


 タロガは驚いて長官を見ている。


「何が──よしよし、ですか! ケガしたらどうしてくれるんです!」


「いや、悪かった。怒るな、怒るな。お前を試したんだ」


 長官は両手を軽く上げながら、軽い謝罪をする。


「ためす?」


「いや、さすがにザン・イラムの娘だ。若いのに、今の動きはなかなかだぞ」


 褒められてはいるが、わたしとしては別に嬉しくない。

 誤魔化そうとしているのがまるわかりだし、自分がへっぽこなのはよくわかっている。


「──……それでご用となんですか?」


 怒っているわたしを脇に押しながら、タロガが言った。


「うむ、それよ。実ぁな? お前たち二人に頼みたいことがある。といっても見廻り方公式の仕事じゃあない。俺個人からの頼みごとでなあ……」


 と、長官は声を潜めたものだ。


「長官の?」


 わたしが顔を突き出すと、長官はうなずき、


「こいつは誰でも彼でも頼めるもんじゃあない。まず、腕におぼえがないと困る」


「それなら、わたしじゃなくっても……」


 タロガならともかく、わたしよりも剣術に優れた人くらいは大勢いよう。


「ただ強いだけの馬鹿でも頼めぬ。口が堅く、信用できる者じゃないとな」


「……そんなに他の騎士様がたは性格悪いんですかね」


「お前も口が悪いな。そんなわけでもないが、この一件はお前たち二人が適任なのだ」


 と、長官は笑って顎をかいた。


「何をすればよろしいので?」


 不満を抱いているわたしの横で、タロガがおもむろに口を開く。


「言葉にすれば簡単だが、妖怪退治をやってもらいたい」


 長官は顎に手をやったまま、何でもないように言ってくれた。


「またまたご冗談を──」


 それに対して、わたしは作り笑いと一緒に片手を挙げた。




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