表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色なし三角スー・イラム  作者: 甫人 一車
青麗のタロガ
19/40

十七、ふたりのかんけい



 話を聞いたところ……。


 マー姉とルザ女将が出会ったのは、ドゥーエではなく──

 ドゥーエから少し離れた宿場町であるそうだった。

 家を飛び出したマー姉だが、何だかんだで路銀に困窮。

 迅雷丸の面倒もちゃんと見られるか、どうかという有様に。

 そんな時同じく旅先であった女将と出会った。

 色々と話すうちに、


(この人なら、信頼できるかも……)


 ともかくマー姉はそう判断したらしく、迅雷丸を預けることにした。

 お金に困っているところだったので、ただ預けるというのではなく、


「早い話、お馬を担保(かた)にお金をお借りしたと……」


 つまるところ──マー姉とルザ女将の関係はそういうことらしい。


「うん、まあ……うん」


 言葉を濁しているマー姉と、苦笑いの女将さん。

 こんな話、父やクー姉が知ったらどう思うだろうか?

 父は、絶対怒るとして案外クー姉が難しい。

 意外と、次妹の失態を鼻でせせら笑って、終わりかもしれないな。

 しかしまあ、アレだ。

 迅雷丸の様子を見る限り、健康ですこぶる調子も良さそうで。

 下手をすると、うちの屋敷にいる時よりも大事にされているかもしれぬ。

 最悪マー姉が借金を返せなくとも、飼い主が女将さんなら安心である。

 そうなると、マー姉の判断は正しくはないが悪手ではなかったということか。

 マー姉の姿を見て嬉しげな迅雷丸を見ながら、わたしが考えていると、


「それで、姉妹そろってどんなご用かしら?」


 女将さんの言葉に、わたしはハッと思い出す。

 マー姉も同様であったらしく、小さく声をあげていた。


「……ともかく、こんなところではなんですから」


 女将さんは、嫌味のない上品な仕草でそう言うと、パンパンと手を打った。

 すぐにメイドが飛んでくる。


「お客様をひまわり(向日葵)の間へご案内するから。お茶をね……」


 手早くメイドへ命じた後、女将はふわりとした笑みで、


「さ、奥のほうへどうぞ?」


 その笑顔に、私もマー姉も逆らうことはできなかった。



       ○



「ワッパガさんの、娘さん……ですか」


 お茶を飲みながら、何かを考えるような仕草で女将さんはつぶやいた。

 それもまた驚くほどに色っぽいのは、わざとやっているのやら。

 まあ、それはないかな。

 女同士で、それも田舎臭い小娘二人に色目使ってどうなるのというのだ。


「はい。ルザさんなら、何かお知恵を拝借できるんじゃないかって……」


 マー姉は女将さんを見ながら、騎士らしくない素朴な口調で言った。

 対して女将さんは、


「うーん……」


 と、つぶやいたっきり、黙り込んでしまったが。


「それにしてもセイル家のことをお尋ねにこられるとはねえ……」


 どこか感慨深そうに、そうつぶやくのだった。

 ほう、と小さく吐き出す吐息も薔薇の香りみたいな気がする。

 もちろん、近寄って匂いを嗅ぐなんてことはできないのだが。

 そして、わたしがお茶を半分ほど飲んだ時──


「犬猿は交わりがたく、青麗と白陽は混ざりがたし……か」


 少し上へと視線をやりながら、女将さんはそんなことをつぶやく。


「なんですか?」


「古い本の一節ですよ」


 つい聞き返してしまうわたしに、女将さんは柔和な笑みを向ける。


「青麗というのは、青い美しい髪をした人を指す言葉。白陽とはいわゆる、明るい色の銀髪をした、やはり美人を指す言葉ですね」


「はあ」


「私もあまり難しいことはわかりませんけど、どちらが悪いわけでもないのに、気性や立場の違いからどうしても仲良くはできない。そういう関係性のことらしいです」


「まあ仲が悪いのを、犬猿の中と言いますからね」


 犬と猿か。確かに気性も立場も違う者同士だなあ。

 それに、きれいな青い髪をした美人か……。

 確かにあのタロガ・セイルにピッタリの言葉である。

 本人の前で言ったら、きっとぶち切れるな。下手すれば殴られるかも。


「お二人とも。一つ、お聞きしてもいいかしら?」


 と、女将さんは聞き取りやすい美声で、わたしたちに話しかける。


「あなたがたは仮にワッパガさんのご息女が見つかったとして、どうするおつもり?」


「別にどうもしません」


 マー姉よりも早く、わたしはそう答えていた。

 自分で呆れるような返答だが、驚くような速さでもある。


「知人のご息女ではありますが、正直なところ、話個人的に別段どうでもいい人ですからね。家に戻るも良し、戻らないも良し。コンビを組んでる我が同僚が、これ以上不機嫌にならないような展開を切に望みはしますが」


「なるほど。タロガさんに関わりがある点が重要だと」


 その一瞬、女将さんは奇妙な笑みを浮かべたようだった。

 わたしの返答にキョトンとした顔のマー姉だったが、次に女将さんの視線を受けて、小さな子供みたいにしゃっちょこばって(、、、、、、、、、)しまう。


「ご存知とは思いますが、私はその()のことを偉そうに言えた立場じゃありません」


 少し顔をうつむかせて、マー姉は自嘲的に笑った。 


「だけど、娘さんのことを寂しそうに話しているワッパガさんを見てると、何だかいたたまれない気分になっちゃいました。勝手ですよね」


 わたしは思わず、


「そうですね」


 と、言いかけたが、何とか口をつぐむ。


「でも、だから余計に、ワッパガさん親子があんな形で離れ離れになっているのは、ほっとけないんです。別れるにしてもちゃんとしたほうがいいかなって……」


 そういった後、マー姉は頬を桃に染めて、


「ごめんなさい。うまく言えません。ぜんぜんダメですね。はは……」


 女将さんはマー姉を静かに見つめていたが、少し目を閉じてから、


「わかりました。できる限り、そのお嬢さんのこと調べてみましょう」


「ありがとうございます!」


「その代わり──と、言ってはなんですけれど」


 即座にお礼をいうマー姉を制して、女将さんは強い声で言った。


「マテラさん、あなたにはしばらくここ逗留していただきます。色々とお手伝いしていただきたいこともありますから」


「私にお手伝いできることでしたら」


 マー姉がうなずくと、女将さんは表情を緩め、


「ところで。お茶が冷めてしまいますよ。どうぞ?」


 心臓が熱された飴玉みたいにとろけそうな笑みで、そう言ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ