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色なし三角スー・イラム  作者: 甫人 一車
青麗のタロガ
17/40

十五、朝の役宅にて


 さてさて、次の日。

 わたしはいつもより早く起きると、そのままいつもより早く出勤することとなる。

 別に誰に頼まれたのでもなく、強制されたわけでもない。

 出勤する際にマー姉も一緒に寮を出る。

 マー姉は別に嫌とも言わなかった。その代わりに、


「ひょっとして、手伝ってくれるの? 人探しを」


 道すがら、マー姉は意外そうな顔でそんなことを言ってきたが。


「一人でやるおつもりだったんですか?」


 わたしがそう返すと、マー姉は驚きながら嬉しそうだったけど、


「さすがにそれはないけど。でも、スーは見廻り方の仕事もあるし……」


「大先輩のご親族に関わることですから。それに色々と勉強にもなると思います」


 わたしはできるだけ淡々と、でもハッキリと言う。


「そういうものかなあ」


「そういうものです、はい」


 不思議そうな顔のマー姉の横で、わたしはすまし顔で言うのだった。

 ハッキリ言うと、あのワッパガ氏に対する野次馬的な感情と、相棒たるタロガへの感情ゆえなのだけれども。


 やがて、役宅の前に着くと──


「では、姉様。少し待っていてくださいね?」


 マー姉を待たせておいて、わたしは役宅の門をくぐる。


「おはようございまーす」


 若干眠そうな顔をした門番たちに挨拶をすると、


「あれ? 今日は早いですね」


 そう言いつつも、門番たちは後ろで待っているマー姉に注目しているようだった。

 わたしが連れ立ってきたということもあるんだろうけど……。

 やっぱり華があるというのか、人目を引きやすいのだなあ。


「あそこの人は、わたしの知り合いなので。怪しいモノではないです」


 一応釘を刺してから、わたしは役宅内へと入った。

 早朝といっても、役宅には大勢の人間がいる。

 いざという時に人がいないでは話にならないから、当然なのだが。


「何だ、おい。今日は早いな。少しは気構えができたか?」


 廊下を歩いていると、前方からあまり会いたくない顔がやってきた。

 ショージのオッサンである。

 しかし、ワッパガ氏もそうだが……ここのオッサンはこんなんばっかりか?

 長官だって、何だかんだで変なオッサンだし……。


「何だそのツラは。シャキッとせんか。馬鹿もんが」


 ショージのオッサンはズカズカと無遠慮に近づいてくる。

 頼むからあんまり近寄らないでくれないか、息が臭いのだ。


「大体お前は……」


 またもや、例の説教もどきが始まった。

 教えを説く──と書いて、説教と言うのだが、こいつのはただの自慢話と愚痴と嫌味と悪口でしかない。聞いたところで何の足しにならない、まさに駄弁である。

 よっぽど、


「すみませんが、ちょっと急いでますので」


 とでも言って無視したいところだったが、新人の悲しさ。


「はい、いかにも、ごもっとも」


 とにかく、頭を下げるしかないのだった。

 ま? 頭の上を駄弁が飛んでいくとでも思えばいいか。

 できるだけ早く、見廻りのふりして情報集めにいきたいのだけど。

 いや、その前に見廻り方で色々と聞いてみたほうが良いかな?

 ……てなことをわたしが密かに思っていると──


「あー、ところで。昨日ワッパガのところに行ったんだと?」


「ええ。長官のご命令で」


 ショージのオッサン、何を思った野下級に話題を変えてきた。

 ものすごい不自然な切り替えかたである。

 ガキでも何かあるって気づくぞ、こんなざまじゃ。


「そうか……。あいつはどんな様子だった?」


「しょんぼりしてました」


「む」


 姉のことを省いて、適当に言ってみる。

 しかし、まるっきりデタラメってわけでもないぞ?

 多分マー姉がいなかったら、そんな感じだったはずだ。


「……そうか」


「お一人暮らしで、色々とお寂しいんですかね」


「青臭い小娘が、余計なこと言うな」


 ショージのオッサンは、迫力のない威圧を向けてくる。

 だったら、そんな小娘に聞いてくるんじゃねーよタコ。

 心中で中指を立てつつ、わたしはスミマセンと頭を下げた。

 が、しかし。わたしはすぐに考え直して、


「ショージさんは、ワッパガさんと親しかったんですか?」


「別にそうでもないが、年も近いしな」


 軽く否定のようなことを言ったけど、それはある種の照れ隠しのようだった。

 この嫌味なオッサンにも、同期を想う気持ちはあるらしいわ。 

 なかなかの発見である。


「ワッパガさんをお訪ねした時ですね。すこぅしお嬢さんのお話をお聞きしました」


「あいつは、あの子を可愛がっとったからなあ。嫁さんをなくしてから、それだけを楽しみというか、支えにして酒の飲まずタバコも吸わずやってたのに。気の毒な」


「なるほど、なるほど」


 わたしは頭を低くして話を聞いて、心のうちにメモをする。

 大体のことを聞き終えると、


「あ、それではお役目もありますので……」


 と、適当に切り上げ、いつもの見廻りに出るのと同じ要領で外へ飛び出た。

 本当ならばタロガを待つか、先に来たわたしが迎えに行かねばならぬのだが、そこはそれ。ゆっくり(・・・・)と迎えに行けばよろしかろう。

 面倒くさいコンビでのお仕事も、こういう利点がある。


「ごめんなさい。お待たせしちゃって」


 わたしはマー姉に手を振りながら、急ぎ足で役宅を出る。


「そんなに待ってはないけど……。あ! 何かわかったんだ?」


 マー姉は私の顔を見て、ズバリと聞いてきた。


「ええ。本人じゃない、第三者の意見というか、情報ってのが聞けましたよ」


 わたしはうなずきながら、ワッパガ氏の辛気臭い顔を思い出すのだった。

 どうやら、あそこの親子関係はなかなか面倒くさいものらしい。

 いや、この場合は父親のほうが一方的に、と思うのはわたしが女の子だからか?


「ともかく、娘さんの手がかりを探しにまいりましょうか」


「さすが! 有力な情報とか、手に入れたんだ」


 素直に賞賛してくれるマー姉に、わたしは何だか後ろめたくなってしまう。


「そういうわけでも、ないのですけどね……。だけど、ワッパガ氏の娘さんは、ドゥーエからそんなに離れたところにはいないと思うんですよねえ」


 わたしは言いながら、話で聞いたワッパガ氏のご息女、その顔を想像する。

 あまり父親に似ていない、快活な美しい少女の顔を。



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