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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅱ.飼い猫生活は波乱万丈
8/65

ⅱ.

久しぶりの投稿です。


*4/27 改行入れてみました。


 ルノーシェ王の寝室で飼われているシンシア。朝は女官のリムにめいいっぱい着飾られ、昼は部屋の中を散策するか本棚の魔法関連の書物を開いて時間を潰し、夜は身体の隅々まで洗われ、執務室から帰ってきたオーディンの抱き枕になるという生活を繰り返していた。

 最初は部屋に置かれていた、市場には出回ることがなくあまり見ることのできない遠見の魔法のかかった水晶、魔力を帯びた剣や装飾品、古い魔導の書。それらの品々に興味を示し、魔術師だからと触ってもよいと許可を得て目を輝かせていた。が。


「……飽きた」


 濃紅のソファに体を沈め、シンシアは呻いた。

 好奇心に心躍らせたのは最初の2、3日だけだ。室内では剣は揮えないし、無闇に魔法を使うこともできない。書物の類は相当古い物なのか、文字ではなく魔力を媒介として記されており、完全に魔力の戻っていないシンシアには読めない。遠見の水晶などは見ることができる範囲に制限がかけられ、この部屋と自分の姿しか映らないでいた。また昼間はオーディンは執務、リムは自分の仕事があり、部屋にはシンシア1人だ。することがなくなった彼女は暇を持て余していた。


「せめてこの部屋から出ることができれば………………無理ね」


 シンシアが勝手に出て行かないように、外へ繋がる窓や扉には結界が張られている。魔族最強のオーディンが直々に張ったもので、シンシアでは破れそうにない。もし敗れたとしても、すぐさまオーディンかリムが飛んでくることだろう。

 両手首に煌く銀の腕輪を一瞥し、彼女は息を吐く。


「……お願いしてみますか」



「別に構わないぞ」


 夜になって部屋に戻ってきたオーディンに部屋から出たいという旨を伝えたシンシアは、あっさりと了承を得られて呆気に取られた。


「よいのですか?」

「ああ。少しは運動するといい」


 この飼い主は飼い猫の運動不足気味なことを案じているらしい。筋力が落ちていたために少し運動をしたいと思っていたシンシアはすぐさま頷いた。


「運動します。城内を散歩させてください」

「わかった。案内を兼ねて護衛を付けさせよう」


 シンシアのことを公表はしていないが、王が人間の少女を眷属にして部屋で飼っているという話は城内で知れ渡っている。人間に好意的でない者もいるため、念のための護衛である。


「そうだ」


 オーディンの長い指が細い首元に触れる。くすぐったそうにしながらもされるがままにしていたシンシアは、耳元で瑠璃を合わせたような澄んだ音を聞いて目を瞬かせる。

 そろそろと首元に触れると、肌触りの良い絹の感触が指先に触れる。


「……これは何ですか?」

「首輪だ」

「くびわ……?」


 首を傾げた際に、リィン……と澄んだ音が響いた。指を滑らせると、ひんやりとした硬い物に触れる。オーディンが手元に手鏡を転移させてくれたので、鏡に映るそれを覗き込む。


「……鈴」


 繊細な模様の刻まれた、銀の鈴だ。白い首に嵌められた深い紅のチョーカーに揺れるそれは、僅かにオーディンの魔力を纏っていた。


「迷子防止な」

「聞こえるのですか?」

「その鈴が鳴らすのは魔力の波動だ。離れていても聞こえる」

「便利な魔法ですね」


 世の中にはまだまだシンシアの知らない魔法があるようだ。興味を惹かれて無意識に身を乗り出しているシンシアの頭をオーディンの大きな手が撫でる。


「人間と魔族では伝わっている魔法が違うからな。魔法を習いたければ研究室にいる者に教えさせよう」

「よいのですか!?」


 魔法を教えて貰えるだけでなく、教えてくれるのが城の研究室に勤めている者だという。初めて聞く研究室という言葉に、何を研究しているのか、どんな者がいるのか、思考を巡らせシンシアは胸を躍らせる。

 にゃふぅ~んと恍惚とした表情で頬を両手で押さえるシンシアを、オーディンは面白そうに見やる。


「研究が好きなのか?」

「はいっ! 様々な発見がありますし、何時でも色々なことを気付かされますもの! 構成の解読も新たに魔法を編み出すことも、試行錯誤を繰り返すことにこそ醍醐味があると私は思うのです! 薬の調合の時もそうなのですが、ほんの少しだけの作業の違いで予想外な結果が生まれた時など、それはもう……」


 頬を薔薇色に染めて生き生きと語っていたシンシアは、はっと我に返った。そろそろとオーディンを見上げると彼は宵空色の双眸を丸くしている。


「あの、オーディン……」


 絶対引かれた。さて何と言ったものか。悶々と考えるシンシアだが、噴き出したような音に貌を上げ、腹を抱えて笑うオーディンの姿を見た。


「……オーディン?」


 そんなに変だったのか。以前熱を上げて延々と語って知人に睥睨されたことを思い出し、シンシアは落ち込む。

 泣きそうな貌をするシンシアに、慌てたのはオーディンの方だった。


「いや、お前があんまり楽しげに語るから、つい……」

「研究は楽しいのです」

「そうか、そんなにシアは研究が好きなのか」

「というよりも、知らないことや新しいことを知ることが好きなのです」

「それはわかる」


 今実際にそれを体験している。


「とにかく、運動や研究は明日からだ」

「はい。ありがとうございます」


 優雅な仕草で頭を下げるシンシアに、オーディンは手を差し出す。


「おいで」


 招かれるままに寝台に腰掛ける主人の傍らに寄り添う。小柄な四肢を抱き上げて膝に乗せると、オーディンは言った。


「もうそろそろ吸血を覚えるか。俺も血が欲しいし」


 黒髪を梳かれながら、シンシアはぱちぱちと紅い目を瞬かせる。彼女が目覚めてから、既に1週間近くになる。


「牙はちゃんと生えているな。試しにやってみろ」


 やってみろと言われ、シンシアは困惑する。治療師としても活動をしたことがあるため、何処に血管があるのかはわかるのだが……

 自分のものよりも太くしっかりとした首筋に貌を近づけると、風呂上りのためか、オーディンの匂いがいつもよりも強い気がする。窺うように宵色の双眸を見上げると、彼は穏やかな表情を浮かべていた。

 意を決し、シンシアは牙を立てる。


「…………」

「……牙の立て方が下手だな」

「うぅ」


 小さな歯形が付いただけで、少し血が滲んだかどうが程度だ。オーディンは自身の指先に傷を作ると、項垂れるシンシアに差し出した。


「死活問題だからな、ちゃんとできるようになれ」

「……はい」


 薄く薔薇色の唇を開いて差し出された指に滲む真っ赤な血を舐めると、濃厚な香りが口いっぱいに広がった。強い鉄の臭いが概念にあったシンシアは人間の時には思わなかったことに驚きを隠せない。


「……あまい」

「それは何よりだ。人間と魔族では味覚が少しばかり違うからな」


 魔族は他者から精気を得て魔力を生み出す。人に食の好き嫌いがあるように、魔族でも魔力の相性により好き嫌いが存在するのだという。

 血を得た傍から身体の奥底に熱が生まれる。身体中を廻る熱い流れを感じる。ほんの少しの血を得ただけだというのに、こんなにも魔力が溢れてくる。

 恐らく魔王であるオーディンのものであるということも理由であろうが、本当に彼の眷属になったのだと今更ながらに実感し、もう人ではないのだとほんの少し寂しくなった。

 紅い舌で血を舐めとり、シンシアはオーディンの指に治癒魔法を施す。


「別にすぐに癒える」

「……私の気が休まりません」

「まあいい」


 オーディンの手が首筋をなぞる。餌の役目もあるとわかってはいても、血を吸われるなど初めてのことだ。反射的に身を強張らせると、低い声が耳に届いた。


「お前の血を貰うぞ」

「……はい」


 硬い声で頷くと、宥めるように頭を撫でられた。貌が首筋に寄せられ、頬に白金の癖のない髪が触れる。

 熱い吐息が肌にかかったと思った瞬間、白い首筋に鋭い牙が沈む。


「っ!」


 急激に熱が流れ出ていく感覚に、縋るために咄嗟にオーディンの服を掴む。血が流れ出て、意識が蕩けて、呼吸が浅く早くなる。


「お……でぃ、ん……」


 霞む視界の隅、宵色の双眸は、真紅に染まっていた。餓えた獣のように鋭い瞳に、シンシアは息を呑む。

 そう言えば、彼も血を得ていないのだとリムが言っていた。


『もう、1週間以上が経ちますのに……』


 シンシアがルノーシェでの環境に慣れるまで待ってくれていた。こうして何気なく気遣われることは大分久しい。

 細められた大きな真紅の双眸が、一瞬漆黒に煌く。

 薔薇色の唇が、艶やかに弧を描いた。




シアは研究好きです。

そのうちシアの家のこと書くので、

そこで色々出せたらと思います。


誤字脱字があれば、ご報告ください。

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