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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅱ.飼い猫生活は波乱万丈
7/65

ⅰ.

シンシアの飼い猫生活の始まりです。


*4/27 改行入れてみました。



 目が覚めると、日は大分昇っていた。

 ぼんやりと窓の外に広がる晴れ渡った青い空を見上げ、シンシアはそのまま微睡の中に戻ろうとし――――


「おはようございますわ、シンシア様! さあ、お目覚めなされませ!」

「みゃぁあっ!?」


 掛布を剥ぎ取られ、シンシアは悲鳴を上げる。ひしっと枕にしがみ付き、襲撃者を見上げる。


「あらあらまあまあ。そのようにぷるぷると震えられて。大変可愛らしゅうございますわ」


 本当に子猫のよう。襲撃者リムは艶やかに――――それはもう誰もが見惚れるほど美しく、笑っていた。


「リ、リム……」

「おはようございますわ、シンシア様」

「おはよ、ござい、ます」


 何年も1人で暮らしていたシンシアは誰かに起こされるという習慣がない。掛布を剥ぎ取られるなど以ての外だ。予想外の襲撃に真紅の双眸を潤ませる少女を、リムはにっこりと微笑んだまま寝台から引き摺り出す。


「今日は陛下よりシンシア様のお召し物を作るために仕立て屋をお呼びになったと聞いておりますわ。いい子になさっていて下さいませね、シンシア様」

「お、お召し物?」

「ですわ」


 リムはシンシアの纏う白い寝間着をあっという間に脱がせ、袖や裾にレースをあしらった白い清楚なワンピースを着せる。有無を言わさず鏡台に座らせ、薄く化粧を施し、髪を梳る。漆黒の髪は全て結い上げられ、最後に白い花を挿された。


「お食事の後に別室にて採寸です。可愛らしいドレスをたくさん作って頂きましょうね」

「リムは何故、それほどまでに機嫌がよいのですか?」

「それは勿論、こんなにも可愛らしいおもちゃ――――基、シンシア様のためなのですもの」

「今、玩具(おもちゃ)と言いませんでしたか……?」

「主君の愛玩動物を玩具だなんて、このわたくしが申し上げる訳がございませんわ」


 釈然としないシンシアだが鏡越しに碧の双眸に気圧され、こくこくと頷く。反論したら後が怖いと思ったからだ。


「楽しみですわねぇ」

「…………」




 鮮やかな紅。模様を織り込まれた緑。可憐な白。


「あ、この薄紅の生地もいいですね。可愛らしくて」

「こちらの黒い物もいかがでしょう? 射干玉の御髪に合わせられて」

「それもいいですわねぇ」


 楽しそうに話しているのは、リムを含めたこの城の女官たちだ。彼女たちは布を手に取っては先程から黄色い声を上げている。

 その傍ら、散々採寸されてぐったりとしていたシンシアは、そんな彼女たちを長椅子にしな垂れかかるように座って見ていた。

 シンシアが連れて来られた広間には仕立て屋と色取り取りの上質の布の数々と、10人近くの城の女官たちがいた。彼女たちはあれよあれよという間にシンシアの採寸を済ませると、布を手に取り仕立てるためのドレスのことを考えていた。


「シンシア様はどの色がお好きですか?」

「……お好きなように」

「ならその紅と白でそれぞれ仕立ててくれ」

「っ!?」


 突如として頭上から響いた声に、シンシアは弾かれたように貌を上げる。執務を抜け出してきたらしいオーディンは黒い衣装の襟元を緩め、昨日会った時よりも楽な格好をしていた。

 全く気配がしなかった。転移して来たのだろうが、空気や魔力の変動を全く感じなかったシンシアだ。幾ら気を緩めていたとはいえ魔術師としては失態だと気を引き締める。

 結い上げられた漆黒の髪の先を長い指で弄る主人を見上げ、紅い双眸を見開く。


「瞳の色が違う」


 血を思わせる真紅だった瞳が、宵空の深く澄んだ青に変わっている。

 小さな呟きだったがオーディンには届いていたようだ。


「普段はこの色なんだ」


 魔族最強を誇る彼は無意識に放出する魔力で他の者を委縮してしまうのだという。戦中ならまだしも、それでは仕事ができないので普段は意識して魔力を抑えているのだが、その副作用で瞳の色が変わってしまうらしい。

 彼だけでなくとも、魔力を抑えて過ごしている者がいるそうだ。人魚のリムも普段は魔力を抑え、尾びれを人間の足に変えて仕事をしているのだという。


「私でもできるようになりますか?」

「魔力が戻ればできるようになるさ」

「よく食べて、よく寝て、立派な吸血鬼になられませ」

「…………」


 もう16歳だというのに変な感じだ。眷属になったばかりの、魔族からしてみればまだまだ赤ん坊同然のシンシアである。


「陛下の普段の瞳の色に合わせて、この生地もいいですわね」


 リムが手に取ったのは深い蒼の生地だ。日が沈み澄んだ宵空を思わせる光沢のある上質の絹。肌触りも良く、シンシアの白い肌によく映えるだろう。


「じゃあそれも」


 他にも幾つか注文を付けると、オーディンは執務に戻ろうとした。ちょうど良い機会だと、シンシアは黒い上衣の裾を掴む。


「ご主人様」

「オーディンでいいぞ」

「では、オーディン。お願いがあります」

「お願い?」


 飼い猫の初めてのお願いに、オーディンは首を傾げる。


「一度でいいので、家に戻りたいのですが……なりませんか?」


 下から覗き込むように大きな真紅の双眸に見つめられ、早速来たかとオーディンは身構える。まだ成人したかどうかぐらいの、幼い少女だ。一夜経ち家が恋しくなって帰りたいと泣かれても、折角飼い始めた猫を手放したくないという子どもめいた思いがオーディンの中にあった。


「……家族の許には帰さんぞ」

「いえ、貴方の愛玩動物を止めたいというわけでなく、育てている薬草のことが気になって……あと、部屋に埃など積もっているのではないかと思って」


 私には肉親がいませんので、家族の許に帰るということはありません。

 結局帰りたい云々は懸念に終わったが、オーディンはシンシアの肉親がいないという言葉に眉を顰める。

 自分の腕の中にすっぽりと納まってしまう程、小柄で華奢なシンシア。人並みに魔力があるとはいえ、こんなに小さな子どもが1人で暮らしていたということに訝しむ。だが魔族の常識の通じない人間のことなので追及しない。それよりも気になったことに口を開く。


「薬草を育てていたのか?」

「薬師として生計を立てていたので。回復魔法が使えるので治療師のようなこともしていました」

「ほう」


 宵色の双眸が興味を惹かれたのか煌いた。


「まだお前は本調子ではなし、休みを取るから次の満月までは待て。俺も行く」


 ちなみに、今はアネディティト大陸共通暦であるアネディト歴で2月の半ばを過ぎた頃。アネディト歴は新月を朔日(ついたち)とし、月の満ち欠けが1周するまでをひと月とする月の暦だ。シンシアがオーディンに拾われたのが15日の満月。次の満月まで、あと3週間程ある。


「……枯れてしまわないかしら……?」


 一抹の不安を抱きながらも主人は望みを叶えてくれるとのことなので、シンシアは頷いた。




シンシアの衣装は、リムの趣味が少なからず反映されていきます。

オーディンが以前に適材適所といったのは、

リムに玩具(シンシア)を与えておけば、勝手に着飾ってくれるためです。

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