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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
side story.
63/65

謀られた出逢い(ⅱ)

*02/03 内容を微妙に足してます.



 街に出たユーリエは、子どものように目を輝かせた。柔らかな白銀の髪と蒼い裾をふわふわと揺らし、きょろきょろと辺りを見渡している。

 どうしても何時ぞやの猫姫を連想させる仕草に、思わずアルフは遠い目をした。


「わたくし、こうして街に出ることは子どもの時以来ですわぁ」

「そうですか」

「ええ。ですから、途中でわたくしを置いて行くなどということはなさらないで下さいなぁ」


 そのようなつもりはなかったが、更に釘を刺された。

 白くほっそりとした手が、彼の手を取って引っ張る。その際に白銀の髪から甘い香りがした。匂いからして、百合、だろうか。


「いざ往かんですわ! 早く案内して下さいなぁ。わたくしにはあまり時間がありませんの」

「わかったから、あまり引っ張るな。ちゃんと案内するから」



 店は若い少女たちや妙齢の娘たちで賑わっていた。その中でただひとりの男性であり、また武人であるアルフの姿は目立った。店主は彼の顔を覚えていたようで、おやっと首を傾げる。


「この間も来てたよね? この間のお姫様とは違うようだけど」

「ああ、それは……」

「わたくしと彼女はお友達なのですわぁ。このお店も、彼女に教えて頂きましたの」


 先日購入したお菓子を、彼女はとてもお気に召されたようですわぁ。だからお店を教えて頂いたお礼に、お土産を買って行こうと思いましてぇ。

 にっこりと微笑むユーリエの言葉に、アルフは引っ掛かりを覚えた。彼女はこの店のことを、全く知らないものだと思っていたし、実際に名前すらも知らなかったようだったからだ。


 以前猫姫が買い求めたものの他に、ユーリエは焼き菓子をいくつか購入した。

 店の一角に設けられた喫茶用のテーブルに着き、注文した紅茶で一息吐く。そこで彼がふと湧き上がった疑問を口にすると、彼女は澄ました顔で答えた。


「彼女には何も教えて貰ってなどなくってよぅ。ただ、彼女が折角購入したお菓子を駄目にしてしまったこと、それを大変残念に思われているということ、そしてそれを愚かにも口にする必要を感じなかったからこそ、わたくしは『お土産』として手に入れたいと思いましたの」


 騒ぎが起こったばかりであるというのに、買って来て欲しいと口にする程の図々しさを、彼女は持ち合わせてはおりませんわぁ。でも『お土産』であれば、素直に受け取って下さるでしょう?


「それに購入者からの紹介だと言えば、お店の方は悪い気はなさらないですしぃ」


 寧ろ嬉々として、彼女が何を買われたのかを教えて下さいますもの。

 淡い水色の瞳が悪戯っぽく煌く。


「それとも、彼女が買い求めたお菓子がどのお菓子なのか、本当に貴方が教えて下さいましたの?」

「む」


 思わずアルフは言葉に詰まった。気まずげに揺れる尻尾に、ユーリエはふふっと笑みを零す。

 アルフはそれほど菓子に興味があるわけではない。以前猫姫が何を購入したのか……実はよく覚えていなかった。


「貴方……今年でおいくつ?」

「……87だったと思います」

「お若いのねぇ。わたくしの足元にも及びませんわぁ」

「…………」


 見た目で言えば、彼女の方が若く見える。振る舞いや纏う衣装なども、それを助長しているだろう。

 だが人間と違って、見た目と実年齢が一致しないのが魔族である。吸血鬼ならば尚更だろう。

 彼女は一体いくつなのだろう。女性にあまり年を訊くものではないため、アルフは無言で考えた。


 向かいに座る彼女は、にこにこと笑いながら口を開く。


「御婦人の好みはどのような方? 綺麗な方? それとも可愛らしい方?」


 かなり飛躍した突然の質問に、アルフは動きを止めた。


「その質問は何処から出て来たんだ……? て言うか、答えないといけないのか?」

「応えて下されば、嬉しいですわねぇ」


 アルフは暫し黙考した。ユーリエは興味津々と言った体で見つめてくる。


「家庭的で優しい子がいいな、とは思う」

「家庭的?」

「家に帰ってほっと息を吐けるような子。料理ができてよく気が付くのなら、尚いい」

「…………」


 ユーリエは腕を組み、眉を顰めた。むーっと口を尖らせ、質問を重ねる。


「先程お料理と仰いましたが、ちなみに好きなお料理は何ですの?」

「鳥のパイ」


 素直に答えたアルフに、彼女は更に眉間の皺を深くした。




 帰り際に、彼女はアルフにお礼と言って紙袋をひとつ押し付けた。匂いからして、アップルパイだろう。


「またお会いしましょうねぇ!」


 無邪気に手を振るユーリエだが、もう会うこともないだろう。袋の中のパイを口の中に放り込んだ。



 * * * * *



 軽い足取りで後宮の自室へと向かっていた彼女は、前方に立つ幼馴染に足を停めた。スカートの裾を軽く摘まみ、淑女の礼を取る。

 狼男の幼馴染は、何かを企んでいるかのような微笑を浮かべている。


「どうだった?」

「可愛らしいわんちゃんでしたわぁ。流石は犬人と申しましょうか、素直そうで誠実そうでしたわぁ。でも、家庭的な女性が好みだと仰いますの」

「姫とは正反対だな」

「ですわねぇ。まぁ、その所はどうにでもなりますし。エドワード様が目にかけられている、折角の優良物件なのですもの、わたくしは彼がいいですわぁ。匂いも、悪くはありませんでしたわぁ」

「ふむ、ならそれとなく誘導してみるか」

「お願いしますわねぇ。オーディン様にもまだ内緒ですわよ?」

「わかっている」


 密やかに交わされる会話。幸いなのかどうかわからないが、彼ら以外に話を聴く者はいない。

 話が終わると、ふたりは何事もなかったかのように本来の立場へと戻っていった。






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