謀られた出逢い(ⅰ)
ユリアとアルフのなれ初め話です.
*02/03 ユリアの口調をちょっと直しました.
それは謀られた出逢いだった。
その日の犬人アルフは、休日だというのに黙々と訓練場で剣を揮っていた。
「――――そこのわんちゃん」
突如として降って来た高い女の声に、ぴくっと、アルフの耳は反応した。今この場に他の犬系統の魔物はいない。当然犬もいない。となると、必然的に彼を示していることになる。
だが魔族の中では比較的に若い方ではあるが、わんちゃん呼ばわりされる覚えなどない。無視を決め込むことにしたアルフは、無言で素振りを再開した。
「こらぁ、聴こえていませんの? 貴方のことですわぁ、わんちゃん」
「わんちゃん言うなっ!」
思わず牙を剥いて怒鳴り返し――――はっと我に返る。すぐ傍らまで来ていた彼女は、淡い水色の瞳を真ん丸に見開いて停まっている。
しまった。怯えさせただろうか。
そんなアルフの懸念は、懸念で終わった。彼女はあっけらかんとして宣った。
「なんだぁ、聴こえているのではありませんかぁ。相手のお顔をちゃんと見てお話しましょうと、教わりませんでしたの?」
かなり図太い精神の持ち主のようだ。一体何の種族なんだろう。
綺麗な女だとは思う。
滑らかな白い肌に、女性らしい優美な身体付き。化粧をしていないのに、目を惹く美貌は酷く清らかだ。
癖のない長い白銀の髪をふたつに分けて結い上げ、深い蒼のリボンで飾っている。上司であるフラウと似たような髪型だ。
纏うのはドレスではなく簡素な蒼のワンピース。だが生地は一目見ても上質だとわかる代物で、裾のレースが可愛らしい。
何処かの令嬢が迷い込んだのだろうか。
長い髪を揺らしながら、彼女は下から顔を覗き込んでくる。
「貴方ですわよねぇ、先日蕾姫のお供をなさったのは」
「蕾姫?」
「シンシア姫のことですわぁ」
「……ああ」
確かに自分は、王の命を受けて猫姫と呼ばれる寵姫の護衛として街に赴いていた。その時のことを思い出し、アルフは歯を噛み締める。
護衛の最中、当の猫姫を目の前で攫われてしまうという事件が起きてしまった。
エドワード将軍に目をかけて貰い、王の信を得て護衛を任されたというのに、護ることができなかった自分が悔しい。
あのようなことは2度と起こさない。
剣の柄を強く握り締めたアルフは、その剣身が凍り付いていることに気が付いて目を瞠った。見ると彼女が拗ねたように口を尖らせている。その白い指先には、氷の結晶が舞っていた。
「無視をなさらないで頂きたいですわぁ。貴方は今、わたくしとお話をしているのですよ?」
「わ、悪い」
「次にわたくしを無視なさると、氷漬けにして差し上げてもよくってよぅ」
彼女は氷を消し去ると、改めてアルフに向かい直った。両手を組み、可愛らしく小首を傾げる。
「わたくし、貴方にお願いがあってこちらに参りましたの」
「お願い?」
「ええ。先日貴方が蕾姫を案内したというお菓子屋さん、そして彼女が買い求めようとしていたお菓子……それを、教えて頂きたいのですわぁ」
わたくしはユーリエ、吸血鬼のユーリエと申しますわぁ。どうぞよろしくお願いします。
にっこりと無邪気に笑って、ユーリエは手を差し出して来る。
「いや、俺訓練中だし……」
「あらぁ? 今日はお休みでしたわよねぇ? その所は抜かりなく、エドワード様にお聞きしてありますわぁ」
「…………」
「あらあらぁ? 貴方はわたくしの誘いを断るとでも仰るの?」
有無を言わさずに剣を取り上げ、ユーリエはアルフの手を取る。
どうやら断るという選択肢は、彼には許されていないようだ。アルフは深く息を吐き、渋々彼女に付き合うことになった。




