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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
side story.
62/65

謀られた出逢い(ⅰ)

ユリアとアルフのなれ初め話です.

*02/03 ユリアの口調をちょっと直しました.



 それは謀られた出逢いだった。




 その日の犬人アルフは、休日だというのに黙々と訓練場で剣を揮っていた。


「――――そこのわんちゃん」


 突如として降って来た高い女の声に、ぴくっと、アルフの耳は反応した。今この場に他の犬系統の魔物はいない。当然犬もいない。となると、必然的に彼を示していることになる。


 だが魔族の中では比較的に若い方ではあるが、わんちゃん呼ばわりされる覚えなどない。無視を決め込むことにしたアルフは、無言で素振りを再開した。


「こらぁ、聴こえていませんの? 貴方のことですわぁ、わんちゃん」

「わんちゃん言うなっ!」


 思わず牙を剥いて怒鳴り返し――――はっと我に返る。すぐ傍らまで来ていた彼女は、淡い水色の瞳を真ん丸に見開いて停まっている。

 しまった。怯えさせただろうか。

 そんなアルフの懸念は、懸念で終わった。彼女はあっけらかんとして宣った。


「なんだぁ、聴こえているのではありませんかぁ。相手のお顔をちゃんと見てお話しましょうと、教わりませんでしたの?」


 かなり図太い精神の持ち主のようだ。一体何の種族なんだろう。


 綺麗な女だとは思う。

 滑らかな白い肌に、女性らしい優美な身体付き。化粧をしていないのに、目を惹く美貌は酷く清らかだ。

 癖のない長い白銀の髪をふたつに分けて結い上げ、深い蒼のリボンで飾っている。上司であるフラウと似たような髪型だ。

 纏うのはドレスではなく簡素な蒼のワンピース。だが生地は一目見ても上質だとわかる代物で、裾のレースが可愛らしい。

 何処かの令嬢が迷い込んだのだろうか。


 長い髪を揺らしながら、彼女は下から顔を覗き込んでくる。


「貴方ですわよねぇ、先日蕾姫のお供をなさったのは」

「蕾姫?」

「シンシア姫のことですわぁ」

「……ああ」


 確かに自分は、王の命を受けて猫姫と呼ばれる寵姫の護衛として街に赴いていた。その時のことを思い出し、アルフは歯を噛み締める。

 護衛の最中、当の猫姫を目の前で攫われてしまうという事件が起きてしまった。

 エドワード将軍に目をかけて貰い、王の信を得て護衛を任されたというのに、護ることができなかった自分が悔しい。


 あのようなことは2度と起こさない。

 剣の柄を強く握り締めたアルフは、その剣身が凍り付いていることに気が付いて目を瞠った。見ると彼女が拗ねたように口を尖らせている。その白い指先には、氷の結晶が舞っていた。


「無視をなさらないで頂きたいですわぁ。貴方は今、わたくしとお話をしているのですよ?」

「わ、悪い」

「次にわたくしを無視なさると、氷漬けにして差し上げてもよくってよぅ」


 彼女は氷を消し去ると、改めてアルフに向かい直った。両手を組み、可愛らしく小首を傾げる。


「わたくし、貴方にお願いがあってこちらに参りましたの」

「お願い?」

「ええ。先日貴方が蕾姫を案内したというお菓子屋さん、そして彼女が買い求めようとしていたお菓子……それを、教えて頂きたいのですわぁ」


 わたくしはユーリエ、吸血鬼のユーリエと申しますわぁ。どうぞよろしくお願いします。

 にっこりと無邪気に笑って、ユーリエは手を差し出して来る。


「いや、俺訓練中だし……」

「あらぁ? 今日はお休みでしたわよねぇ? その所は抜かりなく、エドワード様にお聞きしてありますわぁ」

「…………」

「あらあらぁ? 貴方はわたくしの誘いを断るとでも仰るの?」


 有無を言わさずに剣を取り上げ、ユーリエはアルフの手を取る。


 どうやら断るという選択肢は、彼には許されていないようだ。アルフは深く息を吐き、渋々彼女に付き合うことになった。





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