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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅰ.始まりを告げる出逢い
6/65

ⅴ.

*04/14 改行入れてみました。



 その日の執務を終えてオーディンが自室に戻ったのは、すっかり夜も更けて日付が変わろうという時刻だった。寝間着に着替えた彼は寝台に腰を掛け、眠る少女を見下ろす。

 死の淵から一命を取り留め吸血鬼として目覚めたばかりの少女は、まだ本調子でなかったためか、食事の後にすぐ眠気を催したのだという。うつらうつらと揺れるシンシアをリムが寝間着に着替えさせ、寝台に導いてすぐにぱたりと倒れ込んでしまったのだとか。

 健やかな寝息を立てて眠る少女は無垢な寝顔を曝している。猫のように身を縮め、深い紅の掛布に包まり丸くなっている。

 吸血鬼の生命力のためか、7日振りの食事を得た彼女の白い頬に触れると、張りの戻りつつある肌は柔らかな感触とともに指を押し返してくる。それが面白くて暫く触れていたら、彼女はくすぐったそうに身を捩り掛布の中に潜り込んでしまった。緩く波打つ漆黒の髪だけが掛布から出て、白いシーツの上に広がっている。

 窓から忍び込んでくる僅かな月明かりに照らされて煌く艶やかな漆黒の髪を一房手に取り、オーディンはリムから受けた報告を思い返していた。

 何でも、この少女は自分の家のことを忘れていたらしい。普通忘れるだろうかとも思ったが、生死に関わる大怪我を負っていたのだから仕方がないのかもしれない。家に帰りたいと言われても、帰す気など更々ないオーディンだが。一度拾ったものは最後まで面倒を見るのが道理だ。

 愛人でも伽でも何でもない、無垢な少女。華奢な四肢を抱き締めると、柔らかい花の香りがした。



 * * * * *



 ふとぬくもりを感じて目を覚ますと、彼女を拾った男が自分を抱き締めて眠っていた。まだ夜明けまで程遠い闇の中、その闇よりもなお深い漆黒の双眸を瞬かせ、精悍な面差しを見上げる。

 彫りの深い、人ならざる美しさを持つその貌は、俗世のしがらみを全く気に留めない悠然さを漂わせている。青白い微かな月の光が、より彼の姿を神々しく見せていた。

 不意に彼女は眉を曇らせた。端正な面差しが、なんだか疲れを帯びているようだ。

 鍛えられ引き締められた四肢に擦り寄る。久しぶりに触れる誰かのぬくもりが、なんだかくすぐったい。

 漆黒の双眸を愛おしげに細め、彼女は薔薇色の唇を薄く開く。



 眠れ 我が愛しき子

 何も知らず眠るお前

 お前のその眠りを 私は護りたい


 久遠の時を安らかに 悠久の世を健やかに

 どうか 哀しむことなく

 どうか 幸せに…………



 澄んだ声が紡ぐ調べ。

 それは、母が子の安らかな眠りを想う、眠り歌だった。



 * * * * *



 久しぶりに夢も見ずに眠ったようだ。

 日の昇る前に目覚めたオーディンはここ最近取れなかった疲労が消えていることに気付き、自身の腕の中で丸くなっている少女を見下ろす。

 眠っている間に歌を聴いた気がする。シンシアかとも思ったが彼女は最後に見た時のまま、というか更に縮こまってしまっていた。ふにゃりと緩んだ寝顔が愛らしい。

 気のせいだったのだろう。そう思い直してオーディンは起き上がろうとし、寝間着を引かれて動きを止める。


「…………」


 白く細い指が、ぎゅっと寝間着の裾を握り締めていた。起き上がるために試しに引っ張ってみるが、小さな指は裾を離さない。むしろ小柄な四肢は擦り寄ってきた。

 くすぐったいような、もどかしいような、不可思議な言葉に言い表せない想い。

 かつてない出来事と胸中に燻る感情に、オーディンは何とも言えない微妙な顔をした。




やっと歌が出てきました。眠り歌ですけど。


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