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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅶ.綻ぶ熱
51/65

ⅵ.



 アンジェを中心として魔力が渦を巻く。


「最初はただ、陛下が人間を拾われて飼われていると聞いて腹立たしかったわ。たかが人間の小娘の癖にってね」


 目障りな人間の小娘。だが彼女は王の守りの中にいて手を出すことができない。

 苛立ちを持て余している折に、陛下の可愛がっている猫は図書館に現れた。護衛はオーディンが人間を飼い始めたということに不審を持っていたフラウだったため好機だと思い、刺客を放った。

 残念ながら屠ることはできなかったが、アンジェは当の猫が夜闇色の髪を持つことを知った。


「正直驚いたわ。夜の色を纏ったお前。貌はここに眠るクリスフィアに似通っている。間違いなく歌姫だと思ったわ」


 自分と同じ歌姫。クリスフィアとテッドの最初の子の末裔。

 同じ血を受け継ぎながらも、自分とは全く違う道を歩んできた脆い人間の少女。


「ずっと、ずぅーっと……私はあの御方のことをお慕いしていた。お前よりもずっと前から。なのに、突然降って湧いた現れたお前は何の苦も無くあの御方のお傍にいて可愛がられている」


 渦巻く魔力がシンシアの髪を巻き上げる。アンジェから離れたいのだが、髪を掴まれたままでは動くこともままならない。

 アンジェは感情を押し殺した低い声で言葉を紡ぐ。


「白百合姫が唯おひとりの妃ということはわかるわ。だって彼女は陛下の幼馴染で、陛下がお心を許された数少ないおひとりだもの。でもお二方の間に艶めいたものなんてなかったから、大して気にはならなかったわ」


 神の末裔であるソーリスは公爵位をかつてのルノーシェ王より受けていた。高位の令嬢ならば王に子がない今、後宮に上がる機会があるかもしれない。

 だがそれまでにオーディンがシンシアを妃に召し上げでもすれば、その機会はなくなってしまうかもしれなかった。


「人間であった時にお前は薬師だったと聞いていたから、キルトの王妃と王女に毒を盛ってみたのだけど、どうだったかしら。育て親と姉が毒で死ねばお前に罪を被せられると思ったんだけど……そう上手くいかないのね。散々虐げられて母親を殺されたいた王女が、復讐のために毒を盛ったように見せようと頑張ったのよ」


 シンシアの美貌から表情の全てが消え去った。氷の眼差しを向けてくるシンシアに、アンジェは微笑を浮かべて見せる。


「ここ、結界があるから滅多に誰も来ないの。陛下も、即位された時以来いらっしゃっていない……」


 アンジェは綺麗な貌は穏やかだ。声音も高く鈴を転がすように愛らしい。


「だから――――誰にも邪魔されずにお前を屠ることができる」


 街で歌姫の情報を流し彼女を攫わせてみたが、思わぬ邪魔が入ってしまった。

 だがここにいるのは自分とシンシアの2人だけ。歌姫としての能力は僅かに彼女に劣るものの、吸血鬼とはいえ魔族として見たのならば、人間上がりの弱輩者であるシンシアはアンジェに劣る。


 だけれど。シンシアは毅然として目の前の金の双眸を見上げた。身体の奥から湧き起こる魔力を、解放していく。


「彼は貴女には譲らない。いいえ、誰にも譲らない。決して」


 ばちりっ。2人の魔力が反応し合い、光が爆ぜる。


「負けない」



 * * * * *



「シンシア様がまたいなーいっ!」


 シンシア様、実はあたしのこと嫌いなんじゃないのっ!?


 喚くフラウにサンティはこめかみを押さえた。あらあらとナナは辺りを見渡す。


「本当にいませんわね……何処に行かれたのでしょう?」

「陛下が彼女に着けている鈴は? あれをしている限り何処にいるか大体はわかる筈なんだろ?」

「それが全く関知できないのよ……さっきからずっと令嬢方の魔力が入り混じっていて、」


 オーディン本人ならわかるかもしれないが、お茶会でシンシアが行方不明だなんて言える訳ない。下手したら凄い貌で凄みながら冷気を振り撒いて首を切られそうである。

 涙目のフラウに、ナナは不思議そうな顔をした。


「わたくし、フラウ将軍は好戦的で凛々しく刃を揮われるような御方だとお聴きしていたのですが……」

「最近はいつも猫姫殿に振り回されっぱなしだよ」


 3日に1度はシンシアがいないと叫んでいる気がする。お陰で訓練中に鬱憤を晴らすように容赦なく刃を揮うようになり、相手をしている武官たちの腕が上がったと専らの噂だ。


 不意に会場内が色めき立った。何事かと視線を向けると、主催者であるユリアが現れたところだった。青い色を好む彼女にしては珍しく、柔らかな薄紅と淡い黄色を基調としたドレス姿である。白銀の髪には可憐な紅の花飾りが咲いていた。


「白百合の姫が紅を纏うなんて珍しい。何かあったんだろうか」

「さあ……」


 ユリアはあいさつに来る令嬢たちににこやかに返しつつ、きょろきょろと会場内を見渡していた。淡い水色の双眸がサンティたちの姿を捉え、淑やかに、しかし何処か足早に近付いてくる。

 目の前に立ったユリアに、3人は恭しく頭を垂れた。


「ごきげんよう。貴女方、蕾姫が何処にいらっしゃるのかご存知? お姿が見えないのですわ」

「いえ、先程より姿が見えず、私共も彼女を探しているところです」

「困りましたわぁ。わたくし、蕾姫にお話したいことがありましたのにぃ」


 ユリアはぷくぅっと可愛らしく頬を膨らませた。何時になっても子どもらしい言動は変わらない。温かみのある色のドレスのためか、いつもよりも咲きかけた少女のようなまろやかさが際立っていた。


「黒い御髪の吸血鬼の姫なら、わたくしは少し前にソーリスのアンジェ様とおいでのところを見ましたわ。北のお庭の方へ向かわれているようでした」


 ちょうど近くを通りかかった令嬢がそう言えばと声を上げた。フラウとサンティは顔を見合わせる。


「北の庭? 東屋があるだけのあの庭に何の用があるの?」

「怪しいことこの上ないだろう……」


 アンジェ・ソーリス。猫人の血を引く白い公爵令嬢。言われてみれば、彼女の姿もなくなっていた。


「何でも、お2人だけでお話をなさりたいようでしたわ」

「もう、何故アンジェ様だけが蕾姫を独占されてますの? 今はわたくしの蕾姫ですのに」

「いや、何時如何なる時であろうと、シンシア様は陛下の愛猫様ですから」


 すかさずフラウは突っ込む。突っ込んでおかないと彼女は可愛がってるシンシアを偶に帰さないことがあるのだ。


 ユリアは唇を尖らせ、北の庭の方を見やる。日頃から殆ど人気のないそこからは、何も聞こえては来ないし、何も感じることはできない。


「では、わたくしもちょっと……」

「主催者が何を仰っているんですか?」

「うっ」


 サンティの極々真っ当な言葉に、ユリアは言葉に詰まった。何かを言い返そうと思考を巡らせるが、名案が思い浮かばない。結局何も言わずに押し黙ってしまった。

 以前の夜会ではオーディンがいたために後を頼むことができたが、今日はそうはいかない。そもそも彼は今執務中で、このようなことで呼び出すことなどできる筈もなかった。

 仕方なく大人しくなるユリアに、ですがとナナは声を潜めて言った。


「シンシア様がアンジェ様と2人きりで人けのないところにいらっしゃるというのは……」

「アンジェ様、オーディン様のことを大層お慕いしていらっしゃいますものねぇ。わたくしも後宮に入る前に一度睨まれたことがありましてよぅ」


 茶目っ気たっぷりにユリアの放った台詞に、一同は顔を強張らせる。

 シンシアとアンジェがどれ程の実力を持っているのか、実のところ彼女たちはそれほど知らない。

 シンシアは人間であった時から魔術師で、毒を盛られても多少は平気だが、基本フラウたちが護衛に就いているため闘っているところなど見たことがない。アンジェに限ってはあまり人前に現れることがなかった。それに、彼女たちは殆ど力を揮うところを見せようとしていなかった。

 戦闘沙汰などにならなければいいが。


「あら……?」


 ぴょこんっ。ナナのふわふわの耳が立った。ぴょこぴょこと左右に揺れる耳に、何事かと視線が集まる。


「どうか致しまして?」

「あの……何か、聴こえませんか……?」

「何かって何ですの?」


 うーんとナナは首を捻る。耳はぴんっと立ち、些細な音でも逃さないようにする。


「……歌、でしょうか……? 若い、女性が……」


 その時だ。北の庭の方角から爆発音が響き渡った。白銀の燐光が溢れ出し、青い空を覆う。

 誰もが呆然と見つめる先。白銀の光を纏い、2人の少女が空に浮かんでいた。





シンシアvsアンジェの闘いの始まりです!



途中で何だかフラウが不憫に思えて来たのです……

このようなキャラだっけ?

(おいおいΣ⊂(‐д‐))


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