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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅴ.絡み合う思惑
36/65

ⅴ.

短いです。うん、短い。



 相手はそれなりに身なりの良い魔族の男たちだった。だが彼らの纏う気は狂気じみていて、怒りに目を血走らせている。

 濃密な怒りを帯びた魔力に当てられ、今は魔力から身を守る術を持たないシンシアは貌を顰めた。気付いたフレイは男たちと対峙しつつも彼女を護るように魔力の流れを調節する。

「フレイ、どういうつもりだ?」

 苛立ちを滲ませる男の問いかけに、フレイは肩を竦めて見せる。

「どういうつもりとは?」

「仲間の何人かが血を吐いて倒れた。酒に毒が盛られていたんだ。その酒はお前の用意したものだったな?」

 シンシアは後ろの方の男たちの手にある物に目を止めた。小声でフレイに耳打ちをする。

「後ろの3人、短剣を持っています。上手く交わせますか?」

「剣は、あまり」

 返ってきた言葉に、シンシアは素早く視線を巡らせた。

 歌姫の末裔は世界に満ちる気を操ることにより不可思議な力を使う者。だがここは自然の気が少ない室内だ。精霊が少ないと、精霊の使役を得意とするこちらは不利である。

 室内を照らす灯り。先程フレイが灯したもののためか、精霊の気配が強い。あれなら。

「フレイ」

 彼も気付いたようだ。意識を研ぎ澄ませ、精霊たちに呼び掛ける。

「焔よ! 我が声に応え、燃え盛れ!」

 フレイの声に呼応して、灯りの焔が燃え上がった。くすくすと楽しげな声が2人の耳に届いて来た。

《夜姫の子のお願い、聴いてあげる》

 暖かな紅い焔は大きく伸び上がり、白い竜となって男たちに襲い掛かる。

「あづっ!?」

「歌姫の力か……!」

 魔族でも緻密な構成を組んでやっと白い炎を召喚できるのだ。男たちは忌々しげにフレイを睨み付ける。

「貴様ぁ……っ!」

「失礼!」

 焔を躱して迫ってきた男の振り上げた剣を避け、フレイはシンシアの身体を抱き上げた。シンシアは大人しく身を縮める。

「暫しのご辛抱を」

 フレイは竜巻を起こして窓を壊すと、シンシアを抱えたまま空に身を躍らせた。



 * * * * *



 シンシアが何者かの手によって攫われてから丸1日が経っていた。

 重苦しい空気が支配しているルノーシェの執務室。ソファに座っているエルディアナを、一同は見つめていた。

 膝を揃えて姿勢を正し、手を組んで両目を閉じている様はこの世から切り離された存在であるかのようで、とても浮世離れしている。意識を研ぎ澄ませ、シンシアの気配を辿っているのだ。

「……ぅ……れ、で……」

 時折思い出したかのように薄紅の唇から声が漏れる。気が散るから話しかけるなと言い放ってから、一睡もせずにエルディアナは気を張り巡らせていた。数日寝ずとも大丈夫な魔族とは違って脆弱な人の身である筈の少女は微動だにしない。

 そんな金の髪の少女を一瞥し、オーディンはシンシアからの言葉を思い起こした。

『戻った時に大人しく御咎めを受けます故、色々と許してください』

 エルディアナの携えて来た伝言に、オーディンは彼女の身を案じつつも呆れたものだ。自分の気持ちに素直で、何処までも気侭な猫である。

 不意にエルディアナが貌を上げた。澄んだ翠の双眸が何処か遠くを捉える。

「――――いた」

 室内に控えていた側近たちが浮足立った。期待に満ちた視線を受け、エルディアナは眉を顰める。

「これ……あまり、遠くは、ない。けれど……これは」

 翠の瞳が見開かれる。

「……眷属の気配?」

 ふと思い立ってオーディンは窓の外に視線を向けた。同時に闇が白で埋め尽くされる。

「なっ!?」

 王都の外で火が上がっていた。城からでもはっきりと目視できる白い焔は暗い夜空を灼いている。

 自然のものでない、明らかに人為的なそれ。燃え盛る焔に、街から喧騒が湧き起こる。

 オーディンの目にははしゃいでいる精霊たちの姿が映っていた。彼らが、焔を激しくさせているのだ。

「焔の精霊……」

 全てを灰燼に帰す炎ではなく、穢れと言う穢れを灼き尽くす聖なる焔。

 エルディアナは驚いたようにオーディンを見上げた。

「あらま、精霊たちが見えるの? 今の彼らの姿は、ただの焔にしか見えない筈なのだけれど」

「は?」

「ううん、何でもない。聞き流して」

 何事もなかったかのように肩を竦め、少女は白く燃ゆる光を指差した。

「精霊の起こす白き焔――――あそこに、シアがいるわ」




実は攫われてから1日が経過していたという。


フレイは剣はあんまり得意じゃないです。

だから毒盛ります。

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