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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅳ.目覚めるもの
25/65

ⅲ.

文章がおかしかったら連絡ください……(T▵T)


*5/2 改行入れてみました。



 アウルレクスの大広間で行われる王の誕生祭では、人間領中から王族諸侯がやってくる。

 人間領一の大国であるアウルレクスの夜会に彼らはこぞってやってきて、情報交換や年頃の王族や貴族の結婚相手を探す場となっている。

 笑顔の裏で駆け引きを繰り返す。それはいつもと変わらなかったが、今回の式典は困惑と畏怖が漂っていた。

 人ならざる美貌と雰囲気を持つ、3人の男女。魔族である彼らは先程から人目を引いていた。

 王であるオーディンは引き締められた長身痩躯に漆黒の衣装を纏い、彼の象徴である血のような真紅のマントを羽織っている。悠然とした王の威は全てを従えるかのよう。いつもと違うのは、完全にその魔力を隠しているということ。この国に入る際に封具で魔力を封じたのだ。

 ユリアも同じように両手首に装飾の付いた封具を付けている。白銀の髪を際立させる濃紺のドレスに合わせて瑠璃の飾りを施してあり、落ち着いた上品さがあった。

 シンシアはあまり華美でない、落ち着いた濃紅のドレスを纏って王の傍らに控えていた。肩や胸元が大きく露出しているが、薄紅の肩掛け(ショール)を身に着けているため、淫靡さや下品さはない。漆黒の髪は結い上げて紅玉と銀で飾られ、一部下ろしてある髪に銀の飾りを絡ませている。愛らしい貌は化粧により酷く大人びて妖艶ささえ感じさせた。いつもの彼女とはまるで別人だ。

 ただシンシアだけは何かあってはいけないため、封具を付けていない。むしろ首輪に付けられた鈴に守護結界がかけられ、彼女が身の危険を感じれば結界が展開されるようになっていた。


「よく似合っていましてよ」

「あれほど試着させれて似合わないとは何事ですか……?」


 シンシアがアウルレクスの式典に出ると聞いたリムは、それはそれは楽しげにしていた。


『最高の陛下の飼い猫様にするため、わたくしは全力を尽くして頑張りますわ!』


 口を出したそうなオーディンとユリアを笑顔のままひと睨みして黙らせ、ドレスから化粧から全て手配させたのだ。

 全力を尽くしてまで頑張らなくていいと言ったのに。この1月、散々採寸されたり着替えさせられたりして、体力気力を根こそぎ奪われていった気がする。礼儀作法の方はシンシアなら大丈夫だろうと丸投げされたが。


「それにしても、いつもそれをなさっていますのね。余程大切なものですの?」


 ユリアが言っているのはシンシアが両手に嵌めている銀鎖の腕輪だ。三日月を模した装飾品の付いたそれを、シンシアは指先で撫でる。


「とても大切な――――母の形見なのです」

「まあ……」


 シンシアが1人暮らしだったということは聞いてはいたが、まさか母親が死んでいたとは。懐古の笑みを浮かべるシンシアに、死とは縁遠い存在であるユリアは水色の瞳を潤ませる。


「これからは、わたくしのことをお母様だと思われてもよろしくてよ……っ!」

「……はい?」


 変な吸血鬼だとは思ってはいたが、何時にも増して支離滅裂だ。突然何を言い出すのだこの姫は。

 抱き着いてくるユリアを押し返しているシンシアを余所に、何事もないかのようにオーディンは今日の主役であるエレクシヤに挨拶をしていた。


「本日はおめでとうございます」

「……ありがとうございます?」


 エレクシヤは何やら攻防を繰り広げている吸血鬼の女たちを見やり頬を引き攣らせるが、何とか礼を言った。焔姫の末裔であるアウルレクス王族には魔力の流れが見える者や魔術師の素質を持つ者が生まれる。2人の間で魔力が渦巻いている様が、直系の王であるエレクシヤの目には鮮明に映っていた。


「この2人は気にしないでくれ」

「……わかりました」


 一見和やかに挨拶をする2人の王に、周りは注目する。

 何とかユリアの抱擁を躱したシンシアはふわりと柔らかく微笑んだ。


「お誕生日、おめでとうございます」


 他意もなく純粋な祝福の言葉に、エレクシヤははにかむ。


「……ありがとう」


 こうして彼女に祝われるのは初めてだ。毎年安静効果の香油や精油、彼女特製の睡眠薬を貰っていただけに、余計に新鮮な想いである。

 それにしてもと、エレクシヤはシンシアを見下ろした。何処か浮世離れして可憐で儚げな印象の強かったシンシアだが、この日は艶と色香を漂わせている。化粧と衣装ですっかり変わってしまっていた。


「随分と変わるもんだね」


 いつものシアの姿からは想像がつかないよ。微笑んでいたシンシアはさっと顔色を変えた。


「エレクシヤ」


 低く押し殺した声に、エレクシヤは目を瞬かせた。紅い唇は微笑んでいるのに、真紅の双眸は険を宿し、射抜いてくるように睨み上げてくる。


「私の名は『ディー』ですよ?」

「あ……」

「……再びはありません」


 エレクシヤと魔族にしか聞こえない程の小さな声でシンシアは言い捨てる。素早く周囲に視線を滑らせるが、幸いにも彼女の名を聞いた者はいないようだ。

 安堵の息を吐きかけたその時、色を失った声がシンシアの耳に届く。


「シア――――シンシア?」


 たとえどれ程の喧騒が満ちていようと、誰しも自分の名を敏感に耳で拾ってしまう。シンシアは貌を強張らせて、小柄な四肢を凍り付かせた。


「シンシア、なの……?」


 オーディンとユリアにも届いていたようだ。2人の視線の先、玉座から少し離れた場所。黄金の髪を豪奢に結い上げて赤いドレスを纏った少女が立っていた。彼女は真っ直ぐにシンシアを見つめている。

 本来の名を呼ばれたシンシアは貌を強張らせたままにオーディンの後ろに隠れる。濃い琥珀色の双眸を見開く少女と飼い猫の反応に、オーディンは首を傾げた。


「俺の猫――――ディーがどうかされたか?」

「ディー……? そちらの方は、ディーと仰いますの?」

「そうだが?」


 シンシアがこの式典に参加するにあたって、決して自分の名を出さないことを示してきた。何かあっても、『ディー』と呼ぶようにと。


『アウルレクスにはエレクシヤ以外にも私を知る方がいらっしゃいます。アウルレクスに居を構える前には他の国の方とも面識がありましたので、できれば彼らにもお会いしたくはないのです……』


 折角のお祝いの場を、無粋なものとしたくはありませんしね。そう自嘲気味に、シンシアは苦笑していた。

 色々と訳有りな飼い猫の言動はいつものことなので、オーディンは深く考えず了承した。訊いたら応えるかもしれないが、話す気がないのなら聞かない方が良いこともあるのだ。それにこの少女は隠し事も多いので、必要があれば命じればよい。本気で主人であるオーディンが命じれば、眷属である彼女は逆らうことなどできないのだから。

 飼い猫である代わりに、オーディンはシンシアにある程度のお願いを許している。だが今回は……


「――――いいえ、その娘はシンシアだわ」


 少女ははっきりとした声で言い放った。何故ここまではっきりとシンシアだと断言できるのか。訝しんでシンシアはオーディンの陰から相手の少女を見やる。

 黄金の髪に濃い琥珀色の双眸の、綺麗な少女だ。凜と伸びた背筋に真っ直ぐに相手を見つめる姫君然とした佇まいは、他の者たちよりも際立って顕著かもしれない。

 だが、シンシアはかの少女に覚えがない。


「その髪、その貌――――瞳の色こそ違えど、間違いない」


 堂々と魔王の前に立って断言する少女に、オーディンは小声でシンシアへと尋ねる。


「知り合いか?」

「いえ……」


 初対面の筈だ。そう応えようとして、見据えられた琥珀の双眸に既視感を覚えた。

 光の下で煌く黄金。無邪気な愛らしさと無垢な権威を体現した姿。


「その娘がシンシア・ディーヴァ・クリスフィアでなければ、一体誰だというの?」


 魂に刻まれた名に、シンシアは真紅の双眸を見開いた。




シンシアの心情は「この馬鹿エレクが」状態でした。

が、結局ばれちゃいましたので……どーなるかなー?


シンシアの本名が出ました。すごいどうしようか悩んだ名前なんですけど。

これからちょっとずつ? シアの過去に触れていきます。


矛盾出ないようにするのが難しいです☆

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