ⅵ.
*4/30 改行入れてみました。
毒を盛られて、それを知っていて服用していたことがばれたシンシアは、暫く部屋から出ることを禁止させられた。反省しろ、という意味らしい。外に出られないという事実に愕然として子どもの躾かと反論したら、そうだと言われてしまったシンシアである。
「確かに私は王の飼い猫で、今まで子どもの扱いでしたが、このような時まで子ども扱いせずともよいではありませぬか……!」
16は人間領でも魔王領でも成人扱いである。ただ、魔族は皆長命なので100歳未満は大抵子ども扱いされてしまうのだ。
部屋の結界も強められ、シンシアは出ることが叶わない。このような檻など……と1度抜け穴を探したのだが、蟻1匹通れない程緻密な結界に早々と音を上げた。
仕方なくシンシアの状況を憐れんだサンティから差し入れられた本を寝台の上でごろごろと寝転がって読んでいる。1度外の面白みを知ってしまった子どもは部屋に閉じ込められることを嫌うのだ。
「暇です暇です暇です暇です暇です」
「煩い」
頭を小突かれて、シンシアは頬を膨らませた。
「飼い猫の愚痴程度のこと、飼い主なのですから聴いてください」
「なんで」
自分は癒される立場の筈なのに何故飼い猫の愚痴を聞かなくてはいけないのか。うにうにと白い頬を突くと、少女は鋭い牙を覗かせる。
「噛み付きますよ」
「やれるものならやってみろ」
むくれて上目遣いに睨んでくるシンシアの前に、オーディンは息を吐くと白い封筒を翳した。
「? それは何ですか?」
「お前への夜会の招待状だ」
「夜会、ですか?」
招待される理由が解らない。シンシアは首を傾げる。
「ユリア――――俺の側室が、お前に会いたいと言ってな」
そう言って渡された白い封筒には、後宮の百合の間の主人である彼女を示す百合の印の入った蜜蝋がされていた。なんでも、彼女は白銀の髪とその清楚な美しさから『白百合姫』と呼ばれているらしい。
「白百合の姫君が私に何のご用でしょう? ご用がおありでしたら、私が姫の許に赴きますよ」
部屋から出られる、これ幸いと目を輝かせるシンシアを、オーディンは半眼で睨み付けた。
「夜会は1週間後だ。それまでは反省だな」
「やぁーっ!」
シンシアはオーディンの腕に爪を立ててささやかな抵抗を示したが、逆に頬を引っ張られるという反撃を喰らってしまったのだった。
* * * * *
側室であるユリアが定期的に開いている夜会には、国王を筆頭に爵位持ちの者たちが招待される。年頃になった子女たちにとっては初めての社交界ということも多く、いつも華々しいものとなっていた。
ゆったりとした楽の音が流れ、銀と水晶のシャンデリアの反射する光が幻想的に会場内を浮かび上がらせる中、シンシアは1人壁際に立っていた。
簡素に見える白いドレスはよく見ると同色の糸で細やかな刺繍が施されており、光加減で清楚に模様が浮かび上がる。繊細なレースをふんだんに使っており、裾や袖から時折除くそれは彼女の持つ柔らかさと可憐さを際立たせていた。
漆黒の髪は一部を除いて丁寧に結い上げられ、真珠の飾りで彩られていた。うっすらと化粧を施された端正な美貌の透明感は見る者に人形を連想させる。何処か物憂げに虚空を見つめる様は酷く儚げで、触れると溶けてしまう幻のよう。
その姿を認めた者は同性異性問わず誰もが彼女に見惚れて足を止める。中には話しかけようとした者もいたが、皆彼女の纏う王の気配に気付き身を竦ませて踵を返していった。
ふと馴染みのある気配を感じてシンシアが貌を上げると、1人の美女が目の前に立っていた。
長い蜜色の髪に、銀の瞳。シンシアは目を輝かせた。
「サンティ!」
普段は真っ黒なローブを纏って髪を無造作に纏めている魔女は盛装をしていた。蜜色の髪は丁寧に結い上げられて紫水晶の飾りで留め、すらりとした四肢に沿った紫紺のドレスを纏っている。ローブに隠されていた豊かな胸元と細い腰回りは、先程からサンティの変人振りを知っている周りの目を驚かせていた。
「さっきから凄いな。猫姫殿に近寄ろうという者は皆、話しかけたくてもそれの放つ王の気配に去っていく。折角可愛いのに勿体ない」
サンティはシンシアの首下で煌く銀の鈴を一瞥して片目を瞑る。シンシアは肩を竦めた。
「変なことに巻き込まれないためです。これをしていれば、何か起こったとしてもすぐに見つけてくれることでしょう」
「賢明な判断だ」
艶やかに微笑むサンティに、近くを通りかかった少女が思わずと言った風情で頬を赤らめた。シンシアは真紅の双眸ですっかり装いを変えた女を見上げる。
「貴女もとてもお綺麗です」
「普段はこのような場には出ないんだが、頼まれてしまったからな」
研究室に泊まり込んで滅多に家に帰らないサンティは、実はルノーシェの伯爵令嬢だ。研究にどっぷり嵌ってこのような場に出ることは全くと言っていい程ないのだが、今回はシンシアの面倒を見るためにこの場にいる。
まだ王とその側室の現れていない会場は、そこここで人の輪ができて和やかな会話が交わされている。時候の挨拶から始まって近状の話を経て、自然とすっかりと装いを変えてしまった美女と見慣れない美少女が共に立っているということに話が移り、時折2人に視線を投げかけていた。
「それよりも、頼まれたものはこれでよかったのか?」
周りから見えないように、サンティは小瓶をシンシアに差し出す。薄紅の液体を湛えたそれに、少女は頷いた。
「ありがとうございます」
「姫はこれをどうする気なんだ?」
小瓶を転移で太腿に巻いてある革のポーチの中に入る。何かの時のために一度家に戻った時に持って来ていたものだ。ドレスの裾で見えないので、そんなものがあると気づいた者はいない。
「私では王の慰めにはなり得ませんので……白百合の姫君にご協力頂こうと思いまして」
「は?」
何を言っているんだ。そう聞き返そうとしたサンティの声は、しかし他の者の歓声に掻き消される。見ると、王であるオーディンと側室であるユリアが入場してきたところだった。
オーディンはルノーシェ王の正装である漆黒の衣装に真紅のマントを羽織っている。いつも動き易いように服装を崩しているところしか見たことのないシンシアは、悠然と威を纏って立つ王を新鮮な気持ちで見上げた。
その隣に立つユリアは、噂通り、いやそれ以上の美しさだった。
癖がなく流れるような長い白銀の髪。陶器のように白く滑らかな肌。青いドレスに身を包み、豊満な胸元や清冽に煌く髪を大粒の蒼玉で飾っている。
紅をのせた美貌は酷く艶やかで、匂い立つような色香が漂っている。
白百合のように清楚さを漂わせながらも艶を纏うその姿に、シンシアは薄く微笑した。
「予想以上の方――――とても美しいわ」
楽しげに笑う少女に、サンティは物言いたげな顔をする。
「もしかして、彼女に……?」
「ええ。彼女ならば、私が望む以上のことをして下さるでしょう」
「それは……そうかも、知れないが……」
今まで流れていた音色が変化する。オーディンがユリアを会場の中央に導き、2人は踊り出す。
実に絵になる仲睦まじい2人の姿に、周りの者は魅入られる。
「なんとおうつくしい……」
惚けたようなルノーシェの民を見渡して、シンシアは満足げに言った。
「王の安寧のために、これ以上のことはないかと」
王の安寧は国の平穏に繋がりますので。
彼女の言葉は一理あるが、サンティには彼女のやりたいことがよくわからなかった。
踊るオーディンの姿を見つめ、シンシアはひっそりと呟いた。周囲の歓声に掻き消され、サンティには彼女の言葉がよく聞こえない。
「歌姫は、王を導く者なのです」
ならば、私は彼を導きます。彼を癒す者として。
真っ直ぐに王を見つめる眼差しは、強い光を宿して煌いていた。
悪いことをして外出禁止を喰らわされたシンシアです。
私は小さい頃外で遊びたいのに外に出られないのって辛かったです。
サンティは実は伯爵令嬢。でも研究室に籠って出て来ない。
城の者は変態令嬢ってわかってるけど、
それ以外の者は滅多に出て来ない希少な令嬢だと思ってたりなかったり?
さて、小瓶の中身とは? シンシアはどう動くのか? 文章に起こすのがぁ……
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