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月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅲ.小さな種
16/65

ⅱ.

王様たちの初対面です。


*4/30 改行入れてみました。


 緩やかに波打つ闇より深い漆黒の髪も、日に焼けていない透き通った白い肌も、仄かに匂う花の香りも、記憶の中にあるものと変わらない。むしろ以前よりも(あで)やかさを増していた。

 空色のワンピースを纏う彼女は、真紅の双眸を瞬かせてエレクシヤと金の髪の少女を見た。


「エルディアナも……何故ここにいるの?」

「お前がそれを言うの?」


 少女の白い手がシンシアの頬を掴み上げた。


「え、えるぅ……」

「お前がいなくなったって精霊が郷に来たのよ。家に来たら本当にいないし。家が傷んでも仕方ないからと、婆様に言われて先週ぐらいから私が住んでやってたのよ。薬草の世話もしてあげたのだから感謝なさい」

「ありがとぅ……」


 引っ張られていた頬を押さえて、シンシアは礼を言った。大きな真紅の双眸が潤んで煌く。


「……今まで何処にいたんだ?」


 問いかけた声が震える。彼女が生きて目の前にいるということに安堵もあったが、エレクシヤは何よりも彼女の変化に疑問が湧き起こった。

 夜闇の深淵を思わせる色だった彼女の瞳。それが今や、紅玉の如き煌きを持つ真紅に染まっている。

 それに細い首に嵌められた、銀の鈴。細やかな細工の施されたそれからは、絶えず他人を威嚇するような強大な力を放っていた。

 シンシアは困ったように首を傾げた。曖昧な表情のまま、開け放たれたままの扉の外を見やる。


「どうぞ」


 外に誰かいたのか。全く気配を感じなかったエレクシヤは、しかし次の瞬間息を詰めた。


「――――ここがシアの家なのか」


 悠然と入ってきたのは、白金の髪を持つ精悍な面差しの青年だった。

 目鼻立ちの通った鋭い美貌に、引き締まった長身痩躯。無駄と隙のない洗練された仕草と気品。

 全てを見通すような深い青の双眸と、そこにいるだけで他を圧する威に、エレクシヤは呑まれかけていた。

 彼はエレクシヤと金の髪の少女の姿を認めると、問いかけるように傍らのシンシアを見下ろした。


「この2人は?」


 シンシアは応えようとし、さて何と言ったものかと困惑する。

 そんな彼女を制し、エレクシヤは努めて息を整えると、青年の前に立った。自然と姿勢が正され、背筋が伸びる。


「エレクシヤ・ウィン・クラーヴ・ロア・アウルレクスだ」


 名に冠された国名に、彼は青い目を瞠った。


「……アウルレクスの王か」

「そうだ」


 先程とは違って一国の王として名乗ったエレクシヤに、青年は何やら思案顔をしたが、微笑を浮かべて口を開いた。


「オーディン・アルヴ・クラディウス・ルノーシェ。ルノーシェの王をしている」


 青年の名乗りに、エレクシヤだけでなく、金の髪の少女も吃驚した。


「魔族の王が、何故ここに……!」


 初めて会う魔王に、エレクシヤは何故自分がこんなにも緊張していたのかを悟る。


「ところで、その娘は? アウルレクスの姫か?」

「そういえば」


 まだ名を聞いていない。一同の視線を受けて、少女は微笑んだ。


「エルディアナと申します。故あってこれ以上の名を明かせぬことを、ご了承ください」


 金の髪の少女は澄んだ声で名乗り上げると、優雅に一礼した。何故ここにいるのかと不審に思う王の2人に、シンシアが説明する。


「彼女は私と同じ郷の者で、彼女もまた魔術師なのです。私が戻らぬことを精霊が馴染みである彼女に知らせてくれていて、私が戻るまでの家の管理をしていてくれたそうです」

「そうなのか」


 頷いて、オーディンは不意に眉を寄せた。


「それよりも、異様な臭いがするそれはなんだ?」

「え?」


 言われて3人は気付く。焦げ臭いような、それでいて生臭いような。不快な臭いが室内に漂っていた。


「……鍋がーっ!?」


 エルディアナが悲鳴を上げて鍋に駆け寄る。異様な匂いはそこから発されていた。


「人の家で何をなさっているのです……?」

「精力薬を作っていたの! 薬師の家にいるならって、郷のオネエサマ方の頼みでねっ!」

「……己が手でお作りにならればよいものを」


 シンシアは手を翳した。魔法構成が編み上げられる。


「鎮まるは焔、祓いの風。全ては主シンシアの命ずるがままに」


 火が消え、窓から清冽な風が吹き抜ける。風は部屋に籠っていた臭いを吹き飛ばす。

 焦げ付いてしまった鍋を覗き込んであうあう言っているエルディアナを無視し、シンシアは室内を見渡した。


「立ち話も何ですし、お茶を淹れますね」




 芳しい香りが立ち上る。テーブルには各人の前にカップが置かれ、中央にはエルディアナが焼いたという菓子が置かれている。シンシアから時計回りに、エレクシヤ、エルディアナ、オーディンの順で席に着いていた。

 ちなみに焦げ付いた鍋はシンシアが水を操って綺麗にしてしまった。材料を無駄にしてしまったと麗しい少女2人が項垂れる様は一種異様だった。


「この家は許しがない限り立ち入ることができません。逆もまた然り。帰る用があるのならば、早めに仰って下さいね」


 室内を見渡していたオーディンは、不思議そうにシンシアを見やる。


「お前の魔力が満ちているが、この家は魔法で建てているのか?」

「いいえ。ただし、家の管理に魔法を利用しています。この家にいることができるのは、私と私の許可した者、そしてエルディアナのような郷の者――――私たちの眷属だけです」

「じゃあなんで俺は入れたんだ?」

「シアがいなかったからじゃない?」


 そう言ってエルディアナは紅茶を口に含んだ。それよりもと、シンシアの真紅の双眸を見つめる。


「1月もの間、一体何処にいたの?」

「死にかけていたところをオーディンに拾われて、それからはルノーシェの城にいました。今は飼い猫生活を送っています」

『……は?』


 思わずエレクシヤとエルディアナは声を揃えて聞き返した。


「飼い猫生活って何よ」

「飼い猫は飼い猫です。オーディンの部屋でごろごろしたりしています」

「なかなか怠惰な生活を送っているのね」

「最近は運動不足なことを飼い主(オーディン)に案じられております」


 和やかな会話が少女たちの間で交わされる一方、2人の王はお互いどのような言動を取るべきか困惑していた。

 オーディンは人間領と交流を取りたいとは思っていた矢先の人間領のアウルレクスの王との遭遇だ。

 一方のエレクシヤは、初めて見る魔族に――――それも魔族の頂点に立つ魔王との邂逅に、緊張を張り詰めていた。シンシアを助けてくれたようだが、こちらに友好的なのかはわからない。それに彼女とはどのような関係なのだろう。


「…………」

「…………」


 意図して重苦しい空気を感じないようにしていたエルディアナは、声を潜めてシンシアに耳打ちした。


「何故あの2人は先程から黙ったままなの?」

「人間の王と魔族の王ですから……どうしてよいのかわからないのでは?」

「俗世は難儀ねぇ……」


 エルディアナの言葉に、シンシアは苦笑を浮かべた。




エルディアナは薬師ではありませんが、

知識があるのでシンシアと同じく調合ができます。

ただ鍋から目を離しちゃダメです。勿体ない。


王たちの本名が初登場です。

シンシアとエルディアナにもありますが、それは追々。

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