表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月に捧ぐ恋の調べ  作者: 白毬りりま
Ⅲ.小さな種
15/65

ⅰ.

新章です。


*4/30 改行入れてみました。


 彼女に初めて出逢ったのは、彼がまだ王になったばかりの頃。

 王都の北西の森に狩りに出向いた彼は、狩りの途中で襲撃にあった。後でわかったことだが、それは16という若さで即位した彼を好く思わなかった他の王族の差し向けたものだった。

 もともと剣の腕には自信があった。その頃は既に同年代の兵士では彼に並ぶことができなくて、将軍位の者と打ち合えるほどになっていた。襲撃者を撃退すること自体はそう難しいことではなかった。だが、その中には魔術師も2、3人いた。

 戦闘に特化された魔術師の攻撃を避け切ることができず、利き腕に怪我を負った。木々で視界が悪く狭くて剣も思い通りに揮えない。その上護衛と逸れてしまっていた彼は、いつしか限界が近かった。

 いくら剣の腕に優れていても、持てなくては意味がない。

 これまでか。そう思った時、彼女は空から舞い降りてきた。


「――――この森で争うことは、何人たりとも罷りなりません」


 高く澄んだ声は彼が今までに聞いたものよりも美しくて。

 薄絹の白いドレスを纏ったその姿は、今まで見たどのような美姫よりも神々しくて。

 女神が舞い降りた。

 凛然と襲撃者たちを見据える漆黒の双眸に、彼は魅入られていた。



 あの後、彼は襲撃者たちを蹴散らしてしまった彼女の家まで招かれて、怪我の治療を受けた。


『焔姫の末裔でなければ、招き入れることなど致しませんでしたよ』


 彼女はそう、微苦笑を浮かべながら言っていた。

 彼女の姿は若い彼の心に鮮明に焼き付いて離れなかった。城に戻っても気が付いたら彼女のことを考えていて、今までは綺麗だなとは思えていた貴族の令嬢たちでも霞んで見えた。

 だから数日後に薬を売りに来ていた彼女と王都で再会した時、彼は踊る心を自覚しながらも気が付いたら求婚していた。

 最初は哀れなものを見るような目で「正気ですか?」と訊かれた。次に会った時には安らぎの効果がある精油を差し出されて、「時に息抜きをなさって、現実をご覧になられては如何ですか」と言われた。そして3度目に会った時、正気だしちゃんと息抜きはしていると訴えた上で求婚して、漸く「友人として、気晴らしにならなって差し上げます」と笑ってくれた。

 それから、彼女との奇妙な関係が始まった。

 求婚しても、彼女は決して受けてはくれない。だが毎週同じ時間に王都の喫茶店で会って彼女に求婚し、振られて落ち込んで、他愛もない会話をする。

 王として明け暮れる日々の中、穏やかな時間はいつも待ち遠しかった。



 そんな愛しい彼女が行方不明になった。

 最初その話を聞いた時、彼は信じられなかった。だって彼女は魔術師だ。様々な知識に通じ、相手が同じ魔術師だあっても蹴散らしてしまえるような者なのだ。

 だが約束の時間になっても彼女は来ない。信用の置ける近しい者に捜索をさせたが、彼女がいなくなったという川を探させても全く行方が知れなかった。

 彼女の家を知っていた彼は、何度も彼女を訪れようとした。だが城のすぐ近くである王都ならまだしも、馬車で1日近くもかかる離れた森に一国の王がそう簡単に赴くことはできない。

 執務を幾つも前倒しにして何とか時間ができたのは、彼女と最後にあったちょうどひと月後だった。



 愛馬を走らせて、森へ向かう。

 いつも世話をしている駿馬は、半日もすればシンシアの住む森まで主人を連れて行ってくれる。王とはわからぬように旅人のような出で立ちをし、後は側近に任せていつものように城を抜け出してきた。

 人の立ち入ることのない森にはちゃんとした道がなく、獣道だけがあった。そこを進んでいたエレクシヤは生い茂る木々の狭間に見える空を見上げ、目を細める。


「……煙?」


 木々の向こうに見える煙突から煙が出ている。もしかして、シンシアが帰ってきたのか。やがてこじんまりとした家が見えてくる。もどかしく思いながら愛馬の手綱を近くの木に繋ぐと、逸る気持ちのままにエレクシヤは彼女の家の扉を開けた。


「シア!」


 だがそこに漆黒の髪の少女の姿はなく。見知らぬ1人の少女の姿があった。

 見慣れない意匠の白いワンピースに身を包み、長い髪を1つに編んで纏めている、シンシアと同じくらいの歳の頃の少女。彼女は突然飛び込んできたエレクシヤに驚いたように目を瞠って振り返った。

 癖がなく日の光を紡いだかのような透き通った金の髪。繊細で透き通った華やかさをもつ美貌。

 振り返った彼女の瞳は、眩い若葉色だった。


「あっれぇ~? 眷属しか入って来れない筈なのに、どうして入って来ているの?」


 自分と同じ色を持つ少女はシンシアよりも少し低めの声でそう言って、しげしげと見上げてくる。どうやら見えていた煙は彼女が料理をしていて起こっていたものだったらしい。彼女の後ろに、火にかけられている鍋があった。


「……お前は?」

「ひとに名を尋ねる時には、まずは己から名乗りなさい。それが礼儀だわ」


 ぴしゃりと跳ね除けられ、エレクシヤは渋々と名乗る。


「……エレク」


 愛称であるそれを口にした途端、少女は翠の双眸を眇めた。綺麗な貌がもの凄い嫌そうに歪められている。


「……王があまりこのような所にいるものではないわよ」


 先程よりも低い声の少女に、エレクシヤは息を詰めた。ぱっと見ただけでは王とわからないように旅人のような服装をしていたのに、こうもあっさりと看破されるとは思わなかった。

 押し黙るエレクシヤを尻目に、少女は鍋の中身を掻き混ぜる。


「そう言えば、何年か前にシアが王を助けたと言っていたわね。他人に淡白だった癖に、何時の間に恋人になっていたのから」


 不思議そうに呟いて――――少女は貌を上げた。翠玉のような双眸をめいいっぱい丸くし、次いで緩やかに閉じる。


「噂をすれば、ね……姫の帰還よ」

「え?」


 少女は持っていた木べらで、つい先程エレクシヤが飛び込んできた扉を指し示す。同時に、大気が震え、木々がざわめく。


「……エレク?」


 高く澄んだ美しい声。エレクシヤは思わず息を止めた。鼓動が高鳴る。

 もしかしたら、既に彼女はこの世界にいないのではないか。時にそんな不安が過ぎりながらも、恋い焦がれた少女。エレクシヤは強張る身体で振り返る。

 長い漆黒の髪に、人形のように浮世離れした可憐さを持つ類稀な美貌。

 1月もの間行方不明だったシンシアが、そこに立っていた。




エレクシヤは憧憬めいた気持ちをシンシアに持っています。

それが恋心に繋がったと。


それを恋というのか。はたまたいわないのか。

人によって分かれるところです。


最近言葉に疑問を持つことが多いのですが、

誤字脱字、あれこの日本語おかしいよなどありましたら、

遠慮なくご連絡ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ