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冒険奇譚Reach the Fate -Crossroad Online-  作者: 嶋子
序章 -運命の邂逅-
4/13

- 4 -

 どうしてこうなった。


「…………何処、ここ?」


 草の匂いで目を覚まして、起き上がるとそこは見慣れない場所だった。

 街? 人? そんな景色も気配も微塵も感じられないそこは、あたり一面が自然で出来ていた。

 木、木、木、木、草、花、鳥、木、葉っぱ、石畳、石像、木、木、蔦、木――――。

 蔦が巻きついて自然と一体化してしまった顔のような石像の前、円を描くように地面に敷かれた石畳の上で身体を起こす。

 汚れはすぐに落ちていった。どうやら、ちゃんとゲームの中みたい、だけど。


「いやいやいや、だからここ何処だよ!」


 これは突っ込まざるを得ないよ!?

 人の気配もなけりゃ町らしい景色もない、建物もなければ聞こえてくるのはチチチという鳥の鳴き声だけ。

 知らない、こんな場所知らない。だって最初は絶対に始まりの街からスタートするはずだ。何故? Why? ここはどこ? 私はだれ? つか明らかにダンジョンじゃね? 私やばくね?

 混乱する頭を押さえ込んで屈む。


「落ち着け落ち着け落ち着け、そうだ深呼吸をしよう、ひっひっふーひっひっふー……ってラマーズやってる場合か!! バグか! 新手のバグなのか!? GMゲームマスターに連絡……いやその前にログアウトしたほうが早いか」


 そうだそれがいい、と手を打って立ち上がる。

 ええと、無料体験の時を思い出せ私。基本的な動作は無料体験の時とほとんど変わらないはず。すぅ、と息を吸って混乱で高ぶった感情を落ち着かせてから、それを『発する』。


「――『目録メニュー起動』」


 そう命じるように告げると、私の目の前に三十センチ強の投影メニュー画面が出てきた。

 画面は二画面になっていて、左の狭い欄にステータス、装備、スキル、アイテム、フレンド、コンフィングとずらりと並ぶ一覧のほかに、現在の日時と所持金、プレイ時間やプレイ日数が記録されている。通常開いた画面では、右の画面はステータス画面だ。それを見て、私は硬直した。


『ユーザーID:450234

 ユーザーネーム:ソウ

 職業:冒険者[Lv1]

 職業スキル:探索[Lv1] 鑑定[Lv1] 採取[Lv1]

 装備スキル:薙刀術[Lv1] 空きスロット6

 HP(体力):100/100 SP(精神力):30/30


 - 装備 -

 武器:銅製の薙刀

 頭:レザーゴーグル

 体:レザージャケット

 腕:レザーグローブ

 腰:レザーベルト

 足:レザーブーツ

 装飾:なし

 装飾:なし                    』



 いい、ここまではいい。私は初心者だから、別になんら問題はない。これが普通だ。

 ただ、それ以外。


『プレイ時間 2049:12』


 に、2049時間……だと……!?

 ちょ、なにこの廃人レベルのプレイ時間、わけがわからない……!?

 もうバグ決定じゃないか! 私まだ初めて一時間も経ってないはずなんだけど!?


『20XX/12/14開始 プレイ日数:2ヶ月26日目』

「!?」


 なんだこれ。

 今日は3月10日、12月14日って今から大体三ヶ月くらい前だ。

 いやそれより何より、この数字は『おかしい』のだ。

 2ヶ月26日目――――約86日。86日で2049時間。これが発売日から半年で、っていうならまだ納得できた。だけど、初めてから約三ヶ月でこのプレイ時間はおかしい。

 数字に強いわけではないけれど、これは私でもわかる。つまり2049を86で割ると、…………ちょっと、地面と石借りますね。えー……。そう、結果的に出てくる数字は23.8――およそ『24』だ。

 つまり、この計算ではじき出される一日のプレイ時間はおよそ24時間――――ということになる。

 廃人どころのレベルじゃない。

 こんなの絶対にあり得ない。24時間もずっと仮想空間に居続けることなんて不可能だ。

 VR技術はあくまで仮想空間、現実にある本体の体調の如何次第で強制的なログアウトもさせられる。

 これは単純な計算だから正確には違うかもしれないけれど、そうだとしても一日も欠かさず、それもほぼ丸一日この世界に居続けているというのはもはや『異状』だ。


 試しに他の部分にも異状がないか見てみることにした。


『- 消費アイテム -

 [R]キュアボトル[HPを70%回復]×3

 [R]リフレッシュボトル[SPを70%回復]×3

 [P]エリクシル[HP・SPを完全回復]×4

 [P]オメガエリクシル[PT全員のHP・SPを完全回復]×2

 [R]不死鳥の羽根[戦闘不能からHP50%回復で復活]×4

 [P]不死鳥の雫[戦闘不能からHP・SP完全回復で復活]×1

 [S]精霊の風[一度だけ物理・魔術被ダメージを半減]×3

 [P]精霊王の風[一度だけ物理・魔術被ダメージを無効]×1

 [P]時の硝子[一定時間時を停止させる]×2

 [R]煙幕玉[戦闘を必ず離脱]×5

 [N]テント[フィールドでの野営が可能]×2


 - 素材アイテム -

 [P]臥竜の白牙×5

 [P]臥竜の瞳×3

 [P]臥竜の硬皮×12

 [P]臥竜の宝玉×2

 [P]天馬の蹄×4

 [P]天馬の翼×6

 [P]天馬の一角×3

 [P]死霊のカンテラ×4

 [P]死霊の魂片×2

 [P]ヒヒイロカネ×2

 [S]虹鉱石×5

 [S]透き通る繊維×4

 [P]虹色に輝く繊維×7

 [S]龍骨・大×4

 [R]魔獣骨×5


 - 装備品 -

 装飾品:[A]グレイスエンブレム[状態異常・変化を無効(必要レベル45)]

 装飾品:[P]ハーフリング[使用SP半減(必要レベル40)]

 装飾品:[A]女神ノルンの耳飾[魔術ダメージ80%軽減(必要レベル60)]

 装飾品:[P]疾風の数珠[俊敏上昇・大(必要レベル40)]

 装飾品:[S]千里眼の首飾り[スキル千里眼と同効果(必要レベル30)] 

 装飾品:[S]見切りの腕輪[スキル見切りと同効果(必要レベル30)]

 装飾品:[A]天照大神の御守[呪術・即死を無効(必要レベル45)]    』



 目がすべるほど貴重なアイテムばっかりだ。

 アイテムにはそれぞれランクがあって、NOMAL(ノーマル)RARE(レア)SPECIAL(スペシャル)PRECIOUS(プレシャス)ARTEFACT(アーティファクト)UNKNOWN(アンノウン)とまぁこんな感じ。

 装備品にいたってはアーティファクトレベルのモノまであるんだけど装備できる必要レベルがまるで足りないので、文字通り宝の持ち腐れだ。

 何これ怖い……。明らかに序盤で、しかも新参プレイヤーが持ってちゃいけないレベルのアイテム。これが異常性をさらに高めた。もうこれはバグ以外の何物でもない気がする。

 その中で『貴重品』の欄が気にかかった。


『- 貴重品ヴァリアブル -

 [R]ワールドマップ[レーツェル・リーゼの地図。踏破率66%]

 [S]駿馬の蹄[フィールド移動速度上昇]

 [R]通行許可書[ルヴァン関所の通行許可書]

 [R]フリーパス[旅船のフリーパスチケット]

 [P]【蒼龍(ブルードラゴン)】の証[楡で出来た腕輪、ギルドメンバーの証]


 [U]神秘の宝玉(アルカナ)[No19:太陽]                     』


 いろいろ気になるものはあるけど、何よりも目がいったのは一番下。

 神秘の宝玉(アルカナ)――――。これだけは、何故か異質な気配を放っている。それに、他のアイテムと違ってこれだけアイテムの説明がない。

 まるでとって付けられたような感じ。といっても現時点でこれが何か、なんてのは分からない。

 だけど、ゲームが始まる前の女の人の声が言った言葉が不意に脳裏をよぎる。



 ――――……十九番目の神秘の欠片を、貴女に授けます。



 十九番目がこのNo19と同じ意味だとして、つまりこの神秘の宝玉とやらは彼女が私によこした神秘の欠片とやらだ。

 そんでもって、なんかその神秘の欠片をかけた戦いをしろ、みたいなことを言っていた気がする。

 この神秘の欠片が全部集まる時、世界の扉がどうとか…………。


「…………アウトォォォォ!!」


 ちょっと待って待って! すっごいやばい感じがする!

 バグだ! 間違いなくバグだ! そうじゃなかったら納得できない!

 とにかく駄目だ、一度離脱(ログアウト)したほうがいい、そんでもってGMなり運営なりに連絡をいれないと……!


離脱(ログアウト)、実行!」


 そう言えば必ず『ログアウトを実行します。よろしいですか?』と聞こえてくるはずのシステム音声は、何故か無反応だった。

 いや、何故か、というよりは予想通り、と言ったほうがいいかもしれない。異常(バグ)だらけのこんな状態で正常にログアウトなんか出来るはずがない。と頭のどこかでは思ってたのかもしれない。

 だけど、それとこれとは話が別だ。ログアウトが出来ない事実が、頭の中をさらなる嫌な予感で埋め尽くしていく。無理だ。意味がわからない。目の前が真っ白になって倒れそうになるのをなんとか踏ん張って堪えた。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け。何度も呪文のように唱える。頭の中で「嫌だ」とか「怖い」とか「助けて」とか、そんな悲鳴が聞こえてくるようだった。落ち着け、だから落ち着け私、大丈夫だから落ち着いて考えよう。自分自身(ほんのう)を理性でおさえつける。深呼吸を繰り返して、私は額に手を添えた。


 有名なVR-MMORPG、RF-CO(リーフェクロス)

 そこに普通にログインして、普通にプレイを開始するはずだった私。

 ユーザーネームを決めてチュートリアルをスキップしたら、無料体験版にはなかった現象が起きて、始まりの街ではなくて知らないダンジョンに飛ばされて、『知らない誰かのデータを勝手に引き継いでしまっている』。そして、ログアウトが出来ない。ここがもっとも重要。

 目録を閉じて、石造に手をついて寄りかかる。


「……は、はは……ははは、あはははははは!」


 これが笑わずにいられるだろうか。

 私はどこまで運が悪いんだろう。このままずっとログアウトも出来ず、仮想空間の中で意識だけが死んでしまうのか。


「……そんなのいやだ」


 ぽつりと、自分が想像した最悪の事態を否定する。口で否定して、心で否定しなければ、頭が認めて、心が服従させられてしまう。嫌だ。とにかく嫌だ。ゲームの中で死ぬとか絶対に嫌だ。

 死ぬ思いをするのは、もう御免だ。――交通事故の後、白いベッドの上で目を覚ました時、涙を流した母親に抱きしめられた時の、生の実感というのは生半可なものじゃなかった。

 それを思い出して、きゅっと意識が引き締められる。もう一度深く呼吸を吸って、吐き出すと恐怖からくる動悸は静まってきた。


 とりあえず、今の現状を把握したほうがいい。

 まずはこのデータ。これは、私のものであって、私のものではない。

 誰かのデータを引き継いだといっても、引き継いだのはプレイ時間とアイテムだけ。ステータスや装備、フレンドの欄も私のもので塗り替えられている。

 『このデータの持ち主はどこへいったのか』。それについては、今は考えたくはない。

 そこまで考えられる余裕がない。ぞわりと肌が粟立つような予想をしそうになる思考を振り払うように首を振る。

 その時だった。


「ギュイ」

「ぎゅい?」


 変な鳴き声が背後から聞こえてきて振り返る。

 そこには、トカゲが居た。きっと魔物だと思う。ここはすでにゲームの中なんだから、魔物が出てもおかしくはない。少しだけ頭が冷静になる。

 ただ、ちょっとそのトカゲがでかい気がする。現代では普通十センチくらいのトカゲだけど、今目の前にいるトカゲはその十倍、100センチくらいのでかさだ。しかもそれが、1、2、3。


「トカゲ?」

「ギャイ」

「ギャギャギャ」

「ギャゥ」


 トカゲってそんな風に鳴いたっけ。なんて場違いなことを考えていると、四つん這いのトカゲが突然立ち上が――――って、立てんのか!!?


「ギャイィィ!」

「ひぎゃあ!」


 つっぱりよろしくのごとく掌底を繰り出すトカゲ。リザードマン的な魔物なんだろうけれどちょっとそれでも普通鎧とか剣とか装着してるものだよね。えっ、このトカゲすっぱだかで格闘術繰り出すの!? 面白いけど意味わかんない!


「って言ってる場合か! スキル発動!」


 ぎりぎりで攻撃を避けて、薙刀術のスキルを発動させる。背中に背負っていた武器である薙刀を構えると、迫ってくるトカゲを一度なぎ払うように薙刀を横へ振るった。リーチのある薙刀の攻撃がトカゲの胸部――と呼んでいいんだろうか……?――にヒットしたんだけどガキィンと音を立てて弾かれ――えっ、弾かれた!? 何こいつの肌爬虫類のくせにどんだけ硬いの!?

 迫るトカゲに思わず後ろに飛ぼうとしたけれど身体が鈍くて動かない。うわぁそうか、ステップのスキル持ってないから間合い取れないのか!


「ギャウン!」

「ぎゃふん!」


 どす、と腹に一発決められて鋭い痛みが走る。HPバーが視界の隅に浮かび上がり、その数値は一気に半分以上、三分の二も削られた。やばい、次を食らったら死ぬ! 何これ、初プレイで即効終了!? ないないない、やばいやばいやばい! ログアウト出来ない現状で死んだらどうなるかもわからないのに、こんなところで死ぬのは危険すぎる!


「『アイテム、煙幕玉』発動!」


 そう発すると同時、掌には固形物の感触。なりふり構わずそれを地面に叩きつけると、周囲を真っ白い煙が包んだ。

 うわあああどこの誰かは知らないけれど貴重なアイテム使ってごめんなさいいいいいっ!

 心の中で詫びながら、とにかく全力疾走!

 『ソウは戦闘から離脱した!』脳内モノローグをかけながら、とにかく逃げた。森の中に入る。ゲームの利点である、走っても疲労を感じないのは助かるけれど、痛みを感じる部分は正直辛い。攻撃を喰らった箇所を抑えながらそれでも走る。

 あがる息、苦しくなる呼吸、酸素を求める肺、それでも足は止まらない。

 とにかくひたすら、地面を蹴った。

 後ろから追ってくる気配はない。どうやら連中からは巻いたみたいだと足を止めて、息を吐く。短く繰り返す呼吸は、数度繰り返すとあっさり整った。さすが仮想現実だ。けど、鈍い痛みはじわじわと残ってる。きっと回復しないとこのままだと思う。

 それでも、これ以上『誰か』のアイテムを使うわけにはいかない。


「何とか、逃げ切れた、かな……ふぅ」


 とりあえず一旦探索の職業スキルを使って周囲を調べたほうがいいかな。

 安堵の息を吐いて、木々の隙間から出る。


「ギャギャ?」

「ギョ」

「ギャウ」

「ギュゲエ」


 うわぁ。一体増えた。


「戦略的撤退!!!」


 くるりと踵を返して、一目散に逃げる。

 何ここ怖い! 初心者用のダンジョンですらないのかよってかホントにここ何処なんだよおおお!!

 走る、走る、走る、走る。ただひたすら走る。立ち止まれば待ち受けるのは死だ。それもどうなるか分からない死だ。RF-COのシステムでは、死んだら経験値なり所持金なりのペナルティを負って最後に立ち寄った町まで転送されるのだけど、今現在バグだらけの私も同じようにそうなるなんて保証はどこにもない。そもそも私はまだどこの町にも立ち寄ってないんだから死んだら何処に行くかすらわからんない!

 だから逃げる! とことん逃げる! とりあえず生きて町までいかなければ!

 その選択肢に魔物を倒す、なんてものは存在しない。一撃で体力の半分以上をごっそり持ってくようなレベルの魔物がうようよしてるんだよ!? 冒険者Lv1がどうあがいて勝てってんだ!



「無理無理無理無理っ!! 『冒険者』なめんなちくしょおおおーーー!!!」



 きゃぁぁなんて悲鳴を上げるような可憐さなど私に求めてはいけない!

 背後から迫るギャッギャとかいうトカゲの鳴き声? から逃げて逃げて逃げまくって、勢い任せに草むらから飛び出す。


「!」


 ――――飛び出した先に、人の気配。

 深い蒼の髪は、左の前髪が長くて片方の目が隠れるくらい。深い輝きを持つ蒼玉サファイアのような切れ長の双眸は、驚きに見開かれていて、白銀の鎧をつけた装備にその威風、私のような初心者とは比べ物にならないくらいの熟練者の風格が彼にはあった。

 けれど待ってくれ、そこは私の着地予定地点だ!



「ちょっ、どいてええっ!?」

「――――っ!?」



 勢いを殺しきることが出来ず、私はその硬そうな鎧に顔面をぶつける覚悟で強く目を閉ざした。



主人公におきた不運バグと、主人公とメインヒーローとの衝突事故(出逢い)のシーンです(´・ω・`)

貴重なアイテムがごっそりあるのにレベルが足りなくて装備できない!っていう話。ちなみにアーティファクトは神に捧げるための人工遺物という究極の職人が作り上げたアイテムの類です。神の恩恵があるので、破損しないらしいよ(`・ω・´)

誤字脱字などありましたら教えていただけると助かります。

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