怪盗ジェラルダは異世界の扉を開く
サンシード。この世で最も美しい宝は、女神メトゥーロの笑顔だった。
様々な宝や女神の心を盗んだとして、大怪盗エセールと呼ばれるようになった私だ。しかし、女神と人間の血は時の進み方が異なる。
────我が息子、ジェラルダよ。
お前には永遠に等しい時がある。
何がやりたい。
私の血が半分入ったお前なら、狭いサンシードで延々と過ごすのを退屈に思うだろう。
もし、その時が来たら。
鍵を使って異世界へ行くといい。その為の鍵は、サンシードの何処かに隠した。
命ある私からの挑戦状だ。受け取ってくれ。
◇
「…………生きてるくせして遺書めいた言葉吐くな、クソ親父」
呆れた顔で俺が言うと、親父は嬉しそうな顔でこちらを見つめてくる。親父は、
「だって、いつ死ぬか分からんのだもん!」
と子どものように腕を組んで頬を膨らませた。やめろ。
「ったく……」
母さんは、世界の調整役として大変な日々を過ごしているが、親父はてんでダメ。歳を取ってからというもの足腰が弱くなって自力で立つのが困難になっていた。
(人間の血は貧弱だなぁ)
俺にも親父の血が入っていると思うと、頼りなく思えた。完璧じゃない身体として生まれたのだと考えてしまうからだ。
「うううう、ジェラルダ。お前は本当にメトゥーロに似て、美人だ。髪も紅い絹のように繊細で。橙色の瞳の奥には何が映っているんだ?」
「だぁーもー! 自分の息子を口説こうとすんな! 俺の目には変態ジジイしか映ってないね!」
シワシワの手を叩くと、しょぺん! という、これまた頼りない音が響いた。老いとやらは本当に醜いものだ。
過去に各地を駆け回り、あらゆる宝を盗みまくった大怪盗とは到底思えない。
俺も、いつかこんな老いぼれた姿になって母さんの迷惑になることがあるのか。まいったな。
「なぁ親父。異世界ってホントに有るのか? そんなに面白い所なのかよ」
俺の質問に、親父は真面目な顔をして答えた。
「あぁ。メトゥーロと偶然見つけたのだが、地球と言ってな。あちらの神は姿は見えない。しかし、何かが確実に有るようだ」
親父は、一人で納得するように説明を続ける。
「特に日本という国は、八百万という数の神々が住まう、特殊なスポットになっていて往来しやすかった」
俺は神の数がバカみたいに多い日本を皮肉った。
「八百万……そんなに神が居たら喧嘩も起こって大変だろうに。修羅の国なんだろうな」
「いや、それがな。旨いんだ」
「旨い?」
俺が聞き返すと、親父は、
「初めて食べた唐揚げでな、メトゥーロが笑ってくれたのだ」
そう言って笑った。人間特有のシワが深く刻まれている。もちろん俺は女神である母さんのシワ一本……いや。表情筋が歪む姿を見たことがない。
「食いもんで笑う??? あの完璧な母さんが?」
なぜ。
永遠の命がある母さんには、食べる行為なんて本来必要ないのに。表情筋が動くほど旨い唐揚げには、不思議な魔力があるのか?
「唐揚げを食べて笑顔になる……」
女神が?
もしかしたら、その血が流れている俺も、心から笑顔ってやつになれるのか?
それは、どんな表情をしている?
(興味が湧いたぞ)
欲しい。
唐揚げという魔力を秘めた食いもんが!
異世界に行けば、日常も少しは楽しめるかもしれない。食べるもの、特に唐揚げに俺が求める刺激があるのかもしれない。
過去の親父なら強引に狡く『盗んだ』だろう。でも、俺は俺なりの美学で正々堂々と、宝を手に入れようと思う。
怪盗とは何かは分からないが。親父の言う【異世界への鍵】を探してみよう。
「クソ親父。俺は唐揚げの国、日本へ行くため、異世界への鍵を見つけるぞ」
女神と怪盗のハーフってだけで、特別な肩書がない俺は『怪盗ジェラルド』と名乗り、異世界への鍵を求めてサンシードじゅうを駆け回った。
「……ねぇな」
ドラゴン丘、妖精の森、ドワーフの炭鉱、ゴブリン峠、黄金竜の巣穴、精霊の迷宮など、サンシードに有る全てのフィールドとダンジョンを隈無く探した。
「俺には女神の血が流れている。あらゆる空間を行き来できる存在だ。生き物の声も理解できる。なのに、どうして見つからないんだ」
探す場所がなくなった。
喉が渇いて水を飲もうと瓶に水を移した。咄嗟に自分の姿が映る。
……ま、親父が言うように、とても美しい。
女神メトゥーロの血が流れているからな。
(まさか、俺自身。とか?)
──ゴゴー!
ほんの少しの自惚れが産んだ、天まで続く謎のダンジョン。辺りは溢れてくる水で浸っていた。
「海になる勢いだぞ……! ん?」
大きなゼンマイのようなものが落ちていた。嵌め込む穴が、大地に有る。興味本位で差し込んでみると、双葉のように見えた。
「もしかして、これが鍵?」
考えていると、水を含んだ双葉鍵は、くるくる回って成長し、青空を貫くツタに成った。その行き先が気になって、ツタを登る。
「塔の最上階だ」
そこには扉があった。1枚の、重く茶色い扉が浮いている。おそらく普通の者には開けられないだろう。開けたところで、同じ空間に留まるだけだ。
(俺は女神の子。お茶の子さいさいさ!)
「ひらけ! 異世界への扉よ!」
──ギィ……、
扉が開いた。
「……!」
潮風の吹く島々が、大きな口を開けているかのようにこちらを向いていた。足元もまた、小さな小さな島だった。島々を繋ぐように長い橋がいくつも架かっている。
「スゲー! 島と橋がいっぱいある! なんか鳥も鳴いてていい雰囲気じゃないか!」
初めて見た景色に興奮した俺は、冷たい海の水を掬って遊んでいた。
(や、やめてやめてー!)
ちっこいぷくぷくした奴が叫んだ。触ると変な音を出しながら膨らんでいく面白い奴。
「丸いちんちくりん。お前はなんていうんだ?」
「うう…フグですぅ。天然の……海にリリースして……お願い、お願い……食べないで……」
フグは、俺に切実そうに頼み込んできた。理由を聞くと「捕まる=食べられる事を意味するから」らしい。
「へぇ、地球の奴ってこれ食うの? こんなの、ぜってぇ不味いぜ」
「!」
いっそう膨らむフグ。ヒレをピタピタ動かして威嚇しているように見える。
「そんなことありません! 僕らは美味しいから食べられるのですー! くらえ、ぷくぅー!」
フグは口からすげぇ量の水を吐いた。怪盗の服がびしょ濡れになる。
「あ、この。何するんだ! 俺は女神の息子だぞ!」
「ザマァ!」
萎んでも、憎たらしい奴。握り潰してやろうか!
……しかし、地球には案内役が必要だ。俺はコイツに、自分の血を分け与え、人型になれるように魔法をかけた。
美しい俺よりかは地味で、でも浮かない程度にはしておいた。青い癖っ毛をいじりながら、フグは自分の身体をペタペタ触っていた。
「わ……わぁ!? 人間になった! やった! これでもう食べられない! 捕食者上位カーストゲットだ! やったぁ〜!」
腕を折り曲げて楽しそうにピクピク動かす素振りが鬱陶しい。俺は、
「地球を案内しろ、フグ」
「フーりん♪が良いですー! 僕、日本の『せとうち』しか知らなぁい!」
「それでいいから、案内しろ。フーりん」
「はぁ〜い♪」
手始めに『せとうちの宝』を探すことに決めた。
完結できますように!ふぐー!
(制作過程は活動報告に少しずつ載せています。AIを使わない執筆+『せとうち』について調べる時間が多いから更新がとても遅いです)←誤った情報があるときは教えてください…!
更新は、この作品を優先させます。
目標は6月末までの完結です。
テーマの『せとうち』の魅力を存分に引き出し、読者の皆様にお届けします!そのつもりです!
よろしくお願い致します!!




