表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その獣人騎士、無自覚に私を甘やかしすぎです!  作者: 緋月 いろは
6章 ラブラブ期突入

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/171

95.麻婆豆腐と花椒

――厨房、午後


「……よし。今日は、しいたけと昆布」


私は深呼吸をして、そっと出汁の材料を鍋に入れた。

セリアさんの事件のあった日、レンさんが持ってきてくれた――味噌と、昆布。



あのときは余裕もなくて、丁寧に味噌汁を作る気持ちになれなかった。



でも今日は、ちゃんと味噌汁を作りたいと思えた。温かい出汁が、きっと気持ちを整えてくれる気がした。

(……落ち着こう。あのことは、ちゃんと考えて、ちゃんと答えたいんだから)



椎茸の香りと昆布の旨みが混ざって、じんわりと広がっていく。

湯気が静かに立ちのぼり、くつくつと煮える音が、胸のざわめきを少しだけ和らげてくれた。



――そのとき、厨房の扉が静かに開く音がした。


 

「ミーナ、こんにちは。ここにいると思って……入ってもいい?」


 

「あっ、レンさん。もちろん!」



入ってきたレンさんは、手に籠を抱えていた。中には、真っ白な豆腐がひとつ。

その滑らかで柔らかそうな姿に、思わず笑みがこぼれる。



「いただきものなんだ。早く食べたほうがいいと思って。……よければ一緒に」



「わ、豆腐……うれしい! ありがとうございます」



「……それから、こんなものも」

レンさんは、籠の底から赤い瓶を取り出して小さく笑った。



「豆板醤。前話した時、気になってたよね?」


 


「うわぁ、うれしい……!! じゃあ、お味噌汁と、麻婆豆腐にしましょうか!」




「……いいね、それ」


 


◆  ◆  ◆



レンさんが豆腐を切ってくれて、私はフライパンに油を熱する。

にんにく、生姜、ねぎのみじん切りを炒めて、香りが立ったら、豚挽き肉を加える。



じゅわっと音を立てて、肉の色が変わっていくのを見つめながら、私は自然と笑っていた。



(……こういう時間、久しぶりかも)


 

豆腐をそっと加えて、調味料を入れる。

味噌、醤油、そして――レンさんがくれた、豆板醤。


赤い色がとろりと溶けて、ぴりりとした香りが立ちのぼる。

仕上げに片栗粉でとろみをつけて、火を止める。



花椒が欲しいけど、それはまた次回……そう思った瞬間だった。



「おっと、これも……でしょ?」



レンさんが籠の底から、ひょいと取り出したのは――

花椒の香りがふわっと広がる、小さな瓶だった。



「えっ……花椒!? レンさん……!」



さすがすぎる!

というか、どこまで読まれてるの私!?!?



麻婆豆腐といえば、花椒である。香りと痺れで完成される、あの魔法。



私は笑いながら、瓶の蓋を開けた。



「……ありがとうございます。これで完璧です!」


 

「できましたよ、レンさん」



味噌汁とご飯、そして麻婆豆腐。

湯気の立つ器を並べて、誰もいない厨房台に並んで座った。


 

「いただきます」


 

ひと口すすると、味噌のやさしい風味が、静かに心にしみてくる。

麻婆豆腐は、ピリリとした刺激があとを引くけど、どこか安心する味だった。


 

「……うん、美味しい。辛さのバランスが絶妙だ」



「よかった……豆板醤と花椒のおかげです」


 

私は少し照れながら笑った。

レンさんも穏やかに笑って、それから箸を止めた。


 

「……ミーナ」




その声音が、ほんの少しだけ変わっていた。

穏やかさはそのまま。でも、芯に何か探るような気配が混ざる。


 

「……最近、よく考えごとをしてないか? 前よりも」


 

ドキッとする。

目の奥を、やさしく、でも鋭く見つめられている気がした。


 

「……そう、見えます?」



「あぁ。料理をしながら、味噌の香りを楽しんでるようで、心ここにあらずだったり……とか」


 

私は思わず笑ってしまった。



「……さすがですね。レンさん、よく見てる」



「職業柄、だな。あと……君は隠すのがあまり得意じゃない」


 

チクリと、でも優しく言われたその言葉に、私は少し肩をすくめる。


 

「たしかに、そうかも……」


 

レンさんは少しだけ箸を置いて、目を細めた。



ふたりで簡単な昼食をとりながら、私はどうしても気になっていたことを切り出した。



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ