93.ライグル、ドヤる
――廊下にて、告白翌朝
朝。
私は鏡の前で、じっと手元を見つめていた。
指先には、ライグルさんからもらった髪飾り。
昨日までは普通につけていたのに、
今朝はどうにも、躊躇いがある。
(なんだろう……なんだか、つけたら“私も好きです”って言ってるみたいで……)
――ううん、きっと考えすぎ。
私はそっとその髪飾りを髪に留め、厨房へ向かった。
廊下を歩いていると、後ろから足音が聞こえる。
「おはよう、ミーナ」
ライグルさんだった。
「っ、お、おはようございます! ライグルさん!」
(だ、だめだ……!目合わせられない……)
でも、声が……いつもより、柔らかい。
「あぁ、おはよう、ミーナ」
その声色は、甘く、低く、私の名前をなぞるようで――考えすぎっっ?私
(あっ、だめ。顔、赤くなってる……!)
視線を逸らした私を見て、ライグルさんは――嬉しそうに、笑った。
ふいに、ぐっと距離が詰まる。
耳元に顔を寄せて、彼は低く囁いた。
「その髪飾り、やっぱりよく似合ってる。」
「~~~~~~っっっ!!!」
耳まで真っ赤になった私は、思わず逃げるように厨房へ走った。
(な、ななな、なんであんなこと……朝から爆発するっっ!!)
◆ ◆ ◆
ミーナが駆けていくのを見届けた後、ライグルはふっと笑った。
「……かわいいな」
その直後。
後ろからジュリオが肩をぽんと叩いてくる。
「……なあ、ライグル。朝からなんか暑くない?」
「ん? そうか?」
「気のせいかもしれないけどさぁ……俺の目の前でラブコメアニメ再生されてた気がするんだよねー?」
ジュリオのじと目をよそに、妙に満足そうな顔をした男が、静かに口を開いた。
「……なあ、ジュリオ」
「ん?」
「俺……昨日、告白した」
「……は?」
「ミーナに、好きだって。直接、言った」
ジュリオの手がぴたりと止まる。
「は??」
「……おま、マジで? マジで言ったの? 本気のやつ!?」
「あぁ。返事はまだだけどな....」
「やば……マジで告ってんのか。返事はまだなのに、あの堂々っぷりって……どういう神経してんだライグル……」
「いや。ちゃんとしたかったんだ。ごまかさないで、はっきり言いたかった」
「おかげで、言ったあとはスッキリしてる。……返事はまだだけどな」
「そこが問題じゃね? 返事まだなのに、あの距離感キープしてんの、どう考えても新種の生物だよ、お前」
「返事はミーナのタイミングでいい。でも、気持ちは伝えてある。それだけでも、もう十分だと思ってる」
――厨房にて
厨房の隅で、私は大根を切りながら真っ赤な顔を冷まそうとしていた。
(……どうしてこうなるの……)
甘すぎる...!!!!!




